2014 Fiscal Year Annual Research Report
強相関三角格子系超伝導の相図解明、ならびにカイラル超伝導の探索
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25287082
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
伊藤 哲明 東京理科大学, 理学部, 准教授 (50402748)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 分子性固体・有機導体 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度の研究実績は以下の通りである。 1. 研究代表者は平成26年4月に異動したため(東大→東京理科大)、研究環境の立ち上げを行った。これにより、最大9Tの磁場下におけるNMR測定システムを構築し、また圧力セル回転機構を持つNMR測定プローブの立ち上げも行った。 2. 平成25年度に、強相関三角格子系EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の圧力下Mott転移時において、特異的に遅い揺らぎが成長していることを見出していた。平成26年度は1.により立ち上げたNMR測定システムを用いることにより、この系と比較物質EtMe3P[Pd(dmit)2]2に対する1H-NMRを行い、分子運動に関しての情報を得ることに成功した。これにより、EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2の圧力下Mott転移時の遅い揺らぎは、分子運動等の要因によるものでなく、電子系由来の本質的なものであることを確定させることに成功した。このことは、EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2のMott転移時においては、「電子Griffiths相」と呼ぶべき特異電子状態が実現していることを強く示唆している。 3. 本研究課題は有機三角格子系における特異電子状態の追求を行うものであるが、従来知られている有機三角格子系は2.で議論したPd(dmit)2系をはじめとして非常に限られた物質群しか報告されていない。このような状況下で、最近κ-H3(Cat-EDT-TTF)2という新たな物質が物性研の森グループにより合成された。この新物質に対し、1.により立ち上げた測定システムを用いて13C-NMR測定を行い、常圧においては磁気秩序を有さないMott絶縁体状態が基底状態となることを見出した。すなわち、Pd(dmit)2系と並び、κ-H3(Cat-EDT-TTF)2が特異電子状態を有する三角格子系であることを示すことに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究における最終目標は、三角格子系における特異超伝導をはじめとした電子相の相図解明である。この目的に対し、三角格子系において「電子Griffiths相」と呼ぶべき特異電子相の発現を見出し、また新たな三角格子系κ-H3(Cat-EDT-TTF)2の電子状態・磁気状態解明に成功するなど、着実な進展が得られている。 しかし、本研究テーマの最も中心に位置する課題である三角格子特異超伝導状態の対称性を確定するNMR測定は未だ完了していない。この最大の理由は、研究代表者の異動が平成26年度にあったため、新研究室の立ち上げに研究代表者のエフォート・リソースを大きく割り振らざるを得なかったことによる。 このため平成26年度に予定していた超伝導対称性を決定する実験は予定より幾分か遅れている。しかしながらこの実験を行うための研究環境の構築は全て平成26年度に完了させることに成功しており、平成27年度は満を持して三角格子系の超伝導状態の対称性を確定するNMR測定に注力する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は平成26年度に異動をし、新研究室の立ち上げを行った。これにより9Tまでの磁場下で、回転機構付き圧力セルを用いたNMR測定を行う環境の構築に成功している。 これを用い、平成27年度は三角格子系EtMe3P[Pd(dmit)2]2に対し、クランプ式圧力セルを用い静水圧を印加し、圧力下13C-NMRを行い、圧力下超伝導の対称性の確定を行う予定である。 具体的には、まずNMR共振回路を用いるac磁化率測定から圧力下超伝導の基礎特性を把握した後に、13C-NMR測定を行い、緩和率・ナイトシフトから対称性の議論を行う予定である。緩和率に関しては、電子状態を反映した情報の他に、(a)分子運動 (b)ボルテックスの情報を反映する可能性があり、この点が対称性の議論を難しくする可能性がある。しかしながら、(a)については、平成26年度の1H-NMRの成果により、超伝導転移温度以下の温度領域では、分子運動はもはや消失しており、緩和率に影響を及ぼさないことを見出している。また(b)については、印加磁場を面並行にすることにより、ボルテックスロックイン状態を実現することで、その影響を排除する予定である。これにより、ナイトシフト・緩和率から純粋な電子状態の情報を引き出し、超伝導対称性を確定する予定である。
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Causes of Carryover |
平成26年度は研究代表者の異動(東大→東京理科大)があり、新研究室を立ち上げ研究環境の構築に注力した。また、三角格子系において遅い電子揺らぎを持つ新奇電子相が見出されたためその追求を行った。さらにこれに加え、三角格子新物質が発見されたことを受けて、その電子状態解明を追及することも行った。 これらの理由により、超伝導対称性を解明する実験時期の変更を行い、これにあわせて予算使用時期の変更をおこなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度において、EtMe3P[Pd(dmit)2]2の圧力下超伝導状態における13C-NMR測定を行う予定である。このための消耗品代(圧力セル購入費等)が必要であり、これに次年度使用額を充てる。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Spin frustration and magnetic ordering in the S=1/2 molecular antiferromagnet fcc-Cs3C602014
Author(s)
Y. Kasahara, Y. Takeuchi, T. Itou, R. H. Zadik, Y. Takabayashi, A. Y. Ganin, D. Arcon, M. J. Rosseinsky, K. Prassides, and Y. Iwasa
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Journal Title
PHYSICAL REVIEW B
Volume: 90
Pages: 014413, p1-6
DOI
Peer Reviewed
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