2013 Fiscal Year Annual Research Report
トポロジカル欠陥の引き起こす相転移の大規模並列シミュレーションによる解明
Project/Area Number |
25287097
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
川島 直輝 東京大学, 物性研究所, 教授 (30242093)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 光格子 / 量子モンテカルロ / 統計力学 / ボーズ凝縮 / 超流動 |
Research Abstract |
格子ひずみによって1つの鏡像面しか持たないような3角格子上の古典ハイゼンベルクモデルにおいて,Z2 渦の乖離を伴う2次転移がおこることをモンテカルロシミュレーションによって見出した.[Tamura, Kawashima, et al, JPSJ 77, 103002] この転移は鏡像対象性の破れと同時に起こる.臨界現象は2次元イジング普遍性クラスに属することが確認された.Z2 渦の乖離を伴う相転移現象として,確認されたものとしては,はじめてのものである.また,われわれは,量子 SU(N) ハイゼンベルクモデルに量子ゆらぎをコントロールする相互作用項を付加した SU(N) JQ モデルに関して,その量子臨界現象をモンテカルロシミュレーションによって調べた.このモデルでは,VBS 秩序変数を擬スピンとみなすと,4回対称性をもった古典クロックモデルに対応させることができるが,この転移を擬スピンのつくる渦の凝縮転移であるとする理論ではこの転移は2次転移となるが,一方で,対称性の一般的な考察から,これは1次転移であるとする考え方もある.われわれは,臨界指数評価の系統的なサイズ依存性を調べ,従来2次転移を仮定して評価されていた臨界指数の値は,サイズとともに,大きく変化し,信頼のできる評価には,さらに大きなサイズが必要であるとが分かった.[Harada, Kawashima, et al, PRB 88, 220408(R)] さらに,われわれは,トポロジカルな励起を伴う臨界現象をより効率的に研究するための手段として,標準的なものでありながら,並列計算にむかないとされてきたワームアルゴリズムを並列化する手法を開発し,10,000×10,000×16 のボーズはバードモデルについて立証計算を行った.[Masaki-Kato, Kawashima, et al, PRL 112, 140603]
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Z2 渦の乖離転移に関しては,2つの方向からのアプローチを試みた.ひとつは,Z2 渦の乖離転移が期待されている古典 SO(4) モデルに関する大規模計算,もうひとつは,他の対称性の破れに伴う Z2 渦の乖離である.第一のアプローチに関しては,システムサイズが 1000 格子間隔を越える系を緩和させる計算を実施することに成功し,転移点における相関長の見積もりを行うことができた.この見積もりに応じた更なる大規模な計算についても見通しがたっており,最終的に Z2 渦の乖離転移の有無を検証する準備が整った.第2のアプローチについては,すでに転移の存在を確認しただけでなく,臨界現象の分類にも成功した.最後に,グラファイト上のヘリウム原子系の研究に必要となる,大規模ボーズ凝縮系のシミュレーションに関して,従来は困難であるとされてきたワームアルゴリズムの並列化にも成功し,これによって可能となるボーズハバードモデルの大規模計算により,周期ポテンシャルのもとでの,ボーズ凝縮や,新奇な量子相実現の可能性検証に近づいた.また,この成果は今回のプロジェクトの目的に直接的に役立つだけでなく,ワームアルゴリズムが有力な研究手段となっている,量子磁性体やその他のボーズ系の研究に対しても大きなインパクトを与えるものと期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
シングルスピンフリップ状態更新と Wolff 型クラスタ更新とを交互に行うハイブリッド型のシミュレーション手法に基づき,並列化計算プログラムの高度化を行う.具体的には,空間分割による並列計算のためのプログラムを計算効率を向上させる.もっとも技術的に困難なのは,クラスタ更新部分の並列化であるが,とくにどのスピンと同じクラスタに属しているかのテーブルを作る「クラスタ認識」の部分の並列化については,申請者のグループで従来からおこなってきているプログラム開発のノウハウを活かして新規に開発する予定である.また,前年度に引き続き,三角格子反強磁性古典ハイゼンベルクモデルのモンテカルロシミュレーションを行う.異方性の効果を重点的に調べ,系統的に XY モデルからハイゼンベルクモデルへのクロスオーバーを詳細に調べることによって,通常の KT 転移と Z2 渦転移との間の関係を明らかにする.また,ボーズ凝縮系の量子モンテカルロシミュレーションを行う.本プロジェクトでは,実験家や解析計算のグループとも協力し,ボーズ系における渦生成の様態や,グラファイト上に吸着されたヘリウム系の物性を明らかにすることを目指す.また,非可換なトポロジカル数をもつ渦糸のダイナミクスに及ぼす影響や相極子間相互作用の長距離性と従来の固体物理では実現されにくかった異方性に起因する新しい層の実現を検証する.とくに今年度開発に成功した並列化可能なワームアルゴリズムに基づく,量子モンテカルロ法プログラムのさらなる高性能化を行い,これを用いて2次元系における新しい量子相,とくに超流動固体相などを含む相図を完成し,関連実験との比較を行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に雇用を予定していた特任研究員の採用に時間を要し、着任が平成26年度からとなったため。 平成26年度は研究を更に進めるために特任研究員を雇用し人件費として使用する予定である。
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