2014 Fiscal Year Annual Research Report
鉄触媒による精密制御を基軸とする新規な有機合成手法の開発
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25288018
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
占部 弘和 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (10176745)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 鉄触媒 / 低原子価鉄錯体 / 炭素―炭素多重結合 / グリニャール試薬 / 共役付加 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度当初の交付申請書記載の研究計画に沿い、あるいは新たに、以下の結果を得た。1. 鉄触媒存在下でシクロプロピルグリニャール試薬がα,β,γ,δ-不飽和化合物のδ位に選択的に付加し、 cis-オレフィンを有する付加体が初めて得られた。/2. 鉄塩触媒存在下でアリールグリニャール試薬をω-ヨード-α,β,γ,δ-不飽和エステルに作用させると、δ-選択的付加ののち分子内アルキル化により閉環し、ジ置換シクロヘキセン、同シクロペンタン、および同シクロヘキサンが、それぞれ立体選択的に得られた。/3. エンイノエート、sec- あるいはtert-アルキルグリニャール試薬、およびハロアルキンまたはハロアルカンの3成分カップリング反応が、Fe試薬だけでなくむしろCu触媒によって効率良く進行した。/4. 鉄塩触媒存在下で官能性アリールグリニャール試薬とエンイノエートから4置換アレンが合成でき、これを利用してアルカロイド・メロシンの形式的全合成を達成した。/5. 鉄触媒によるベンジルグリニャール試薬近傍のC-H結合の活性化反応を検討する過程で、ベンジルグリニャール試薬によるピリジン4位の位置選択的アルキル化反応を見出し、新反応として確立した。/6. 鉄触媒存在下でメチルグリニャール試薬によるジエンモノエポキシドの置換反応を利用し、イオノホア・(+)-ジンコホリンの全合成に必要なサブセグメントの合成に着手した。/7. 鉄塩触媒共存下でのニトロ化合物とグリニャール試薬の還元的カップリング反応の検討途上、これらの基質にCeCl3とCuFを作用させることにより、ニトロンを与えることを見出した。上記の項目1 ~7は、本年度当初の交付申請書記載の研究計画の項目①~⑦にそれぞれ対応するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記の「研究実績の概要」に示した通り、本年度当初の交付申請書記載の研究計画①、②、④、および⑥については、これらに沿った成果1、2、4、および6(「研究実績の概要」参照)が得られた。また、本年度当初の交付申請書の項目③、⑤、および⑦については、当初の計画に従い検討したところ初期の成果が得られなかったが、その過程で予期しなかった知見がそれぞれ得られ、これらを新たな成果3、5、および7(同)として、全体的におおむね順調に研究が進行している。また、本研究の目的は、有機合成試薬として必須な希少金属に代わり、卑金属(ベースメタル)である鉄塩を触媒あるいは試薬として利用しうる有機化学反応を、以下の3つの触媒反応群に重点をおいて開発し、更にそれらを利用した有用物質合成を行うことである。 (A) 鉄触媒存在下での炭素-炭素(C-C)多重結合と求核試薬の反応を基軸とした合成手法の開発/(B) 鉄触媒による炭素-水素(C-H)、C-ヘテロ原子、あるいはC-C結合の切断による合成手法の開発/(C) 鉄触媒と還元剤のコンビネーションを利用する新規官能基変換法の開発 これらの項目(A)については、「研究実績の概要」の項目1~4が、項目(B)には同5と6が、項目(C)には同7が該当している。また、応用利用として、4でアルカロイド・メロシンの形式的全合成を達成したほか、6ではイオノホア・(+)-ジンコホリンの全合成研究も継続している。さらに本研究過程で、鉄試薬以外の金属試薬を利用するものの、本課題の目的の大枠に合致する有用な新反応も見出すことが出来た(「研究実績の概要」の項目3、5、および7)。したがって、上記の(A)~(C)の目的に沿って、バランス良く幅広い研究が遂行されていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度(平成25年度)は、新反応開発について当初の申請書記載の路線に沿った基礎的な検討を行い相当の成果を得た。さらに次年度(平成26年度)では、引き続いてより斬新な反応開発を行うとともに、全合成などの応用分野の展開も本格的に開始した。その結果、(i) 申請課題であるFe触媒反応の開発で更なる進展をみる一方で、(ii) 当初に予定した成果は得られなかったものの、その検討過程で別の新反応の確立を行った課題も発生した。この新反応は、鉄試薬を使うものではないが、本研究課題の大枠である「有機合成における希有金属試薬の代替」という観点からは重要な知見である。また他方では、(iii) (i)と(ii)の応用の全合成の課題も達成できた。これらの初年度から次年度への経過をみると、第三年度(平成27年度)は、新反応開発で徐々に検討に困難を伴うことが多くなることが予想される。例えば、今後、鉄触媒に不斉配位子を共存し触媒的不斉合成を開発することにしている。しかし、すでに初期的検討を開始しているが、現在まで好結果が得られていない。一般的に、光学活性鉄触媒を利用する効率的な不斉反応はまだ例が少なく、今後はこの点のブレークスルーが、現在までの知見をさらに展開できるかの鍵となると考えられる。また新反応開発を利用した全合成も、上記の(iii)で記したものより複雑な化合物への応用が現在進行中である。したがって、第三年度はこれらの特に困難な課題を念頭に集中的に研究を進め、研究課題の全体的な質的向上を達成し、総括とする予定である。
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Causes of Carryover |
「今後の研究の推進方策」にも記した通り、初年度(平成25年度)は基礎的な検討が主であったが、次年度(平成26年度)以降ではやや困難な課題が増えつつある。基礎的な検討については、相応して基本的な試薬を作用させて行う条件検討が多く、比較的低廉な出費で済む。しかし、困難な課題が増えるにつれて幅広く特殊な試薬の利用を余儀なくされるため、試薬等の費用も急激に増加する。また、新反応開発を利用して行う全合成についても、比較的簡単なものは既に平成26年度で達成したが、これより複雑な化合物の全合成が現在も進行中であり、その検討とさらに原料補充等のため多額の費用を必要とする。そのため、第三年度(平成27年度)は本課題の総括も含めて十分な研究費が必要であり、次年度使用は計画的な研究遂行を円滑にするものである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すでに、第三年度(平成27年度)の交付申請書に記した通り、本研究の目的を達成するために7課題、さらに実際にはそれ以上の数の課題の検討を行う。この際、達成が困難な課題が増えてくるのに呼応して、基質・試薬ともに合成に出費がかさむより複雑なものへ移行する。例えば、光学活性鉄触媒反応の開発では、比較的高価な光学活性化合物を原料として使用する予定である。また、新反応の全合成等への応用では、より複雑な化合物の核心部分の合成検討を行うため、精緻な実験と大量の原料の追加合成が必要となり、十分な研究費が必要である。したがって、次年度(平成27年度)は、前年度よりも遙かに支出が多くなると想定され、この支出増予定分に充当し、当該年度配分額とも併せて計画的に使用する。
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