2013 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外差動型レーザー誘起表面変位顕微鏡の開発と単一生細胞レオロジー計測への応用
Project/Area Number |
25288070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
由井 宏治 東京理科大学, 理学部, 教授 (20313017)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | レーザー / 近赤外 / 細胞 / レオロジー / 顕微鏡 |
Research Abstract |
開発初年度である本年度は、近赤外レーザー光源を用いて生きた細胞1個の表面変位を誘起・検出する顕微計測装置の設計・開発を行った。レーザー照射による細胞の熱損傷を軽減するため、初めに近赤外波長変換フェムト秒パルスレーザー(パルス幅:140fs、繰り返し周波数:80MHz、680nm~1080nm)を励起光源として用い、テトラデカンでの表面変位信号の取得を試みた。繰り返し周波数が極めて高いメリットがあるが、一方でパルス幅が極めて短いことで界面が光圧で変形される前にパルス光が照射されない状態になり、有為な界面変形の観測が困難であった。観測できるレベルの界面変形にはある程度のレーザー照射時間が必要であることが分かったため、次に励起光源として近赤外波長変換CW(連続発振)レーザー光源(700nm~1030nm)を用い、これをAOMで断続照射とする装置開発を行い基本的な光学設計・配備を完了した。 上記と同時に、可視光によるレーザー誘起表面変位顕微計測も進め、粘弾性特性を計測可能な試料の大きさを検討するために、内径1μmの細胞内小器官である芽胞の計測を行った。その結果、芽胞の表面変位の変調周波数依存性(パワースペクトル)の取得に成功し、さらに芽胞を形成する枯草菌細胞との差異も検出した。そのことから従来の原子間力顕微鏡フォースカーブ計測のような接触法では原理的に不可能であった細胞内に埋もれた細胞内小器官の粘弾性計測への道を拓いた。さらに、典型的な細胞骨格を有する繊維芽細胞のパワースペクトルから、細胞骨格の一種である微小管が細胞膜の弾性に寄与していることも明らかにした。従来、微小管は細胞内での物質輸送のレールとしての役割が示されてきたが、初めて細胞膜の粘弾性特性への寄与を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、近赤外レーザー光源を用いたレーザー誘起表面変位顕微計測装置の光学系を構築した。試料の表面変位を誘起するために、励起光源を近赤外パルスレーザー光源から近赤外CWレーザー光源に切り替えた光学系に設計し直し、基本的な光学路の設計を完了した。さらに、これまで開発されてきた可視光を励起光源として用いた表面変位顕微計測装置を用いて、枯草菌細胞と芽胞のパワースペクトルの差異の検出に成功し、芽胞がもつ多層膜構造の粘弾性寄与も明らかにできた。さらに、繊維芽細胞を用いて微小管の細胞膜への弾性寄与を示し、微小管の細胞膜の力学特性への寄与を明らかにした。これらの内容で現在、2報の論文を投稿準備中である。以上を総合すると、近赤外の光学系に対して基本的な光路が完了し、同時に可視光を利用した計測によって細胞の粘弾性に対して新しい知見が得られたことから、全体としておおむね順調に達成していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
初めに、新たに開発した近赤外CWレーザー光源を用いて開発した装置を用いて、可視光励起で既に測定値を掴んでいる細胞について、細胞1個からのパワースペクトルの検出、可視光励起時との結果の比較を集中的に行う。その際、細胞の熱損傷を軽減し、長時間の計測を可能とするために、レーザー波長を水の吸収の少ない「生体の窓」と言われている800 nm近傍の波長域を使用し、音響光学素子によるレーザー光強度変調のDuty比の最適化を行っていく。さらに、試料のナノメートルオーダーの表面変位の絶対値を定量評価するために、差動型光学配置を導入し、干渉光強度から計測を行う。また、細胞外マトリックスの一種であるコラーゲンや細胞骨格の微小管の発達度合いと細胞の粘弾性との相関を得ることも考えている。その目的のために、その発達度合いを無染色でプローブ可能な第2高調波を近赤外フェムト秒パルスレーザー光により発生させ、顕微鏡下で同一部位での表面変位顕微計測を検討している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、光学部品ならびに固定部材を購入予定であったが、既に研究室で保有していたものを工夫・代用することで対応できたので、物品費や生体試料費への有効的な振り分けを考え、次年度使用分が生じた。代用することで対応できたので、研究の進行に支障は生じていない。 次年度は、実験する過程で生じた、より信号を最適化するための光学素子や操作性を向上させるための固定部材、ならびに細胞などの生体試料費として使用する計画である。
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Research Products
(3 results)