2014 Fiscal Year Annual Research Report
近赤外差動型レーザー誘起表面変位顕微鏡の開発と単一生細胞レオロジー計測への応用
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25288070
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
由井 宏治 東京理科大学, 理学部, 教授 (20313017)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 近赤外 / 細胞膜 / 粘弾性 / パワースペクトル / 顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
近赤外レーザー光源を用いて生きた細胞1個における細胞膜の粘弾性を非接触に計測するレーザー誘起表面変位顕微計測装置の設計・開発を行った。細胞膜に表面変位を誘起するためのポンプ光源として、近赤外波長変換CW(連続発振)レーザー光源を用いた。ポンプ光の波長は、水の吸収の最も少なく熱損損傷を最小限に抑えることができ、さらに生体透過性が高い800 nmを選んだ。音響光学素子を用いてポンプ光の強度を変調させ、プローブ光(633 nm)と同軸に試料に入射し、透過プローブ光の光子密度変化から表面変位を検出した。このときポンプ光を対物レンズ(開口数 = 0.65)で絞り、試料に照射することで、水平方向に対して2–3マイクロメートルの空間分解能を達成した。試料として、テトラデカンを用いて信号の検出を試みた。計測原理から、試料界面でポンプ光とプローブ光の両方が合わさった時のみ、ポンプ光強度の変調周波数と同周波数成分をもつ信号が検出されると予想できる。ポンプ光強度の変調周波数を80 kHzまたは100 kHz, 120 kHzに設定し計測を行ったところ、それぞれのレーザー光のみの場合では信号は検出されず、両方の光を照射した時のみ同周波数成分をもつ信号が検出された。さらに、パワースペクトルを計測したところ、変調周波数が120 kHzまでのプラトー領域、120 kHzから500 kHzまでの遷移領域、500 kHz以上の信号が熱揺らぎに埋もれて傾きが–2となる領域という典型的なパワースペクトルが観測された。本スペクトル形状は、これまで開発してきた可視光をポンプ光源とする顕微計測装置の場合と同様であった事から、近赤外光を用いてもパワースペクトルの検出に成功したと言える。このように近赤外光源を用いたレーザー誘起表面変位顕微計測装置の開発に成功し、次年度における生きた細胞1個での計測に向けた基盤を築いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、水の吸収の少ない生体の窓である800 nmの近赤外光を用いてレーザー誘起表面変位顕微計測装置の光学系を構築し、液体表面からのMHz帯域までのパワースペクトルの検出に成功した。また、開口数0.65の対物レンズを用いてポンプ光を絞って試料に照射することで、焦点面水平方向で2–3 mの空間分解能を達成した。このように近赤外レーザー誘起表面変位顕微計測装置の開発により、細胞膜の粘弾性を細胞が生きたまま長時間追跡する事や組織深部に埋もれた細胞の粘弾性特性の計測を可能にする新しいツールを提供することが期待できる。一方、近赤外レーザーによって誘起された表面変位のプローブの方法は、次年度の検討課題として残った。現行は、試料を透過したプローブ光の光子密度変化を計測しているが、細胞のような内部に小器官のような構造体を有している試料では、プローブ光が散乱され、細胞膜の変位に起因した信号が効率的に得られない可能性がある。そこで透過ではなく試料表面で反射したプローブ光の光子密度変化の検出が今後の目標となる。以上を統合すると、近赤外光を用いたレーザー誘起表面変位顕微計測装置を開発し、液体表面のパワースペクトルの検出に成功したものの、実際の細胞の計測に対しては光学系の改善必要箇所が明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
現行の透過型配置での計測、さらには反射型配置の設計および計測を、細胞1個に対して集中的に行う。とりわけ、反射型配置の構築では、ポンプ光として近赤外光を用いたことによるプローブ光との焦点位置の深さ方向のずれ(収差)の補正を行い、同じ焦点位置に集光させる必要がある。さらに、試料の表面変位の絶対値を定量評価するために、差動型光学配置を導入し干渉光強度の計測を行う。また、細胞外マトリックスの一種であるコラーゲンや細胞骨格の微小管の発達度合いと細胞の粘弾性との相関を得るために、それら発達度合いを無染色でプローブ可能な第二高調波を現有している近赤外フェムト秒パルスレーザー光(パルス幅:140 fs、繰り返し周波数:80 MHz、可変波長: 680 nm−1080 nm)により発生させ、その部位での表面変位顕微計測を目指す。
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Research Products
(4 results)