2013 Fiscal Year Annual Research Report
デジタルホログラフィック計測と共焦点マイクロPIVを用いた血球挙動の3次元計測
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25289027
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大石 正道 東京大学, 生産技術研究所, 技術専門職員 (70396901)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 赤血球 / デジタルホログラフィ / 3次元計測 / マイクロPIV |
Research Abstract |
マイクロスケールの細動脈を流れる血流は、血中の体積分率の高い赤血球の物性と挙動に大きく支配されており、高血圧や脳梗塞などの病変と密接に関係があると言われている。本研究では3次元的である赤血球の形状変化や軸集中挙動を計測するため、新たな3次元計測手法である、“デジタルホログラフィック計測”の開発を行う。本手法を従来の2次元共焦点マイクロPIV計測と併用することにより、血球の変形やタンクトレッド運動、軸集中挙動および周囲流動を3次元的かつ定量的に計測し、流動メカニズムの解明を目指す。以上より、本研究の目的は大きく分けて3つある。それらは(1)3次元デジタルホログラフィック計測の開発、(2)血流のマイクロ流動の解明、(3)新たな血液診断デバイスへの開発応用、である。 3ヵ年計画の初年度である平成25年度は、Step 1の「流路設計とホログラフィックシステムの構築、および血球モデルの3次元位置制御」を行った。具体的にはまず、実験の再現性確保と血球の3次元挙動計測を実現するために、流路内を流れる粒子を同じ位置にコントロールできる流路を開発した。次に、粒子位置の確認のためには、流路の深さに対して十分な被写界深度を持つ3次元計測手法が必要になる。今回新たに、そのような計測を可能とするデジタルホログラフィック計測という光学計測手法を構築し、球形粒子を用いて位置制御を検証した。 ホログラフィックシステムの構築には、光学設計と機器購入によるハードウェア面と、得られたホログラフィ画像から粒子の3次元位置を検出するアルゴリズム開発というソフトウェア面双方の構築が必要とされる。本年はハードウェア面の構築をほぼ完了し、アルゴリズム開発も単相流に適用できる基本的なプログラムが完成した。これを用いて球形粒子の3次元位置計測を行い、現段階ではその計測精度の検証に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の主な研究テーマであるStep 1「流路設計とホログラフィックシステムの構築、および血球モデルの3次元位置制御」に関しては全体的におおむね順調に進行している。この軸に沿って設定した具体的な研究項目について、それぞれの内容と達成度を検証する。 1-1)粒子位置制御流路の設計:当初の計画では、曲がりによるDean Flow(二次流れ)を用いた粒子位置の高さ制御を目指していたが、解析と実験の結果、生体内の環境よりも数倍速い流速レンジが必要なことが判明し、また技術的にも難易度高いことが分かった。代替案として、2層を貼り合せたSheath flow流路を作成し、上下と左右から血球が含まれた流れを挟み込むようにして血球の位置を制御する手法を考案した。 1-2)デジタルホログラフィック計測装置の構築:1-1)で設計した流路の粒子位置制御機能を検証するために、光学系とデジタルカメラ、レーザにより構成されるデジタルホログラフィックシステムを構築した。ホログラフィ方式としては位相シフトが必要なインライン式ではなく、参照光を傾けるオフアクシス式を採用し、さらに撮像素子にハイスピードカメラを用いることで高速流れの時系列計測を可能としている。 1-3)球形粒子の3次元位置計測:粒子の検出にはホログラフィから3次元再構築した複数枚の位相差画像を解析することで行われる。球形粒子の場合は光の位相がすべて同様に歪められるため、そのパターンを検出することで位置を特定できる。実験ではまず粒径の揃った標準粒子を用いて精度を検証した。次に、同じ粒子を位置制御流路に混入させて赤血球に見立て、その制御性能を評価した。粒子は赤血球のサイズに近い直径10ミクロンを用いている。その結果、Dean flow流路、Sheath flow流路共に、粒子の半径サイズ(4~5ミクロン)内に集めることに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降はStep 2「血球の位置制御と3次元形状の計測」を経て、Step 3「血球と流れの相互作用の解明と診断デバイス開発」へと研究を進めていく。2年目の平成26年度にはStep 2に対し、アルゴリズム開発を主に、以下に示す各項目を優先的に進めていく予定である。 2-1)赤血球の3次元位置計測:流路に実際に赤血球を流し、1-3)の球形粒子と同様の位置制御が行えるかどうかを確認する。本計測では球形粒子用のアルゴリズムとは異なる、球形ではない血球の位置を正確に計測できる新たな解析アルゴリズムの開発を行う。球形粒子とは異なることや、血球が持つ個体差の影響により、位相の歪み方が一様でないことが懸念されるが、歪み方の変化率などを計算することにより検出可能か検討する。また、位置制御性能の確認ののち、流路の直線部分を用いて軸集中挙動の計測も行う。さらに必要に応じて、長距離追従計測のための並進ステージシステムを用いた長距離観察に挑戦する。 2-2)赤血球の3次元形状計測:ホログラフィック計測は粒子の3次元位置の特定と、物体表面や界面の3次元形状の測定という、2通りの計測ができる。血球の変形とタンクトレッドや剛体回転などの挙動との関連性、ひいてはそれらが軸集中に及ぼす影響を明らかにするため、Step 1で開発するホログラフィック計測を応用して、2つ目の利点である血球表面の3次元形状計測を試みる。血球の位置計測に比べて高倍率での撮影が必要になるため、100倍程度の高倍率対物レンズを用いる。ただし、透過光を用いるホログラフィック計測で3次元形状を取得するには、形状が面対称であることが求められ、赤血球の非対称な形状では、従来のアルゴリズムが適用できない。よって、本課題においては新たなアルゴリズムの開発もしくは、反射光を用いる新たな光学系の導入が必要となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の計画では、主な使用額として初年度のため物品をメインに計上しており、それらはデジタルホログラフィック計測システム、ハイスピードカメラ、レーザ光源の3点であった。その中で、ホログラフィックシステムは発売元の会社の都合により、機器としての販売を停止したため、同様の装置を光学素子レベルで購入して構築することとし、それによって生じた余剰分をハイスピードカメラのスペック増強に費やした。ホログラフィックシステムの構築は、ウシオ電機株式会社の松尾司氏の協力を得て、透過法として最小限必要なシステム構成とすることにより、費用を抑えている。 ハイスピードカメラに必要なスペックは、赤血球流路の流速レンジをもとに算出し、必要な撮影速度かつ、感度を有するモデルを選定した。カメラの感度の高さにより、現時点での低倍率な計測においては、安価で低出力なHe-Neレーザにて充足したことも差額の要因である。 次年度の研究計画として、「血球の位置制御と3次元形状の計測」を掲げており、それに必要な物品としてまず、長距離追従計測のため並進ステージシステムを導入する予定である。それに伴い、並進ステージが通過する部分に切欠きや補強を入れるなど、システムの改造費用も予想される。また、他の物品としては、高倍率での3次元血球形状測定に向けて、高倍率対物レンズや反射法に用いる光学素子の購入を検討する。さらに、より高速度、高倍率での撮影において光量不足が懸念されるため、必要に応じて高出力のレーザ購入も視野に入れている。その他、計測システムは微弱な振動がノイズとして乗りやすいため、除振装置の導入も検討する。 物品以外の費用としては、今年度も含め有望な結果が出つつあるため、投稿論文や学会発表を多めに予定している。また、データの取得や光学設計にかかる人件費も多少計上した。
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Research Products
(3 results)