2014 Fiscal Year Annual Research Report
がん幹細胞を標的とするグアニン4重鎖リガンドの開発
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25290060
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
清宮 啓之 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター分子生物治療研究部, 部長 (50280623)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | がん幹細胞 / テロメア / 分子標的 / DNA損傷 / G4リガンド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、グアニン4重鎖(G4)を安定化する新規化合物「G4リガンド」を創製し、がん幹細胞に対する選択的増殖抑制効果を評価するとともに、その分子機構を明らかにすることを目的とする。我々はこれまでに、テロメスタチンに代表されるG4リガンドがテロメアG4を安定化し、DNA損傷を誘導することを示してきた。一方、難治がんの一種である神経膠腫のがん幹細胞(神経膠腫幹細胞/glioma stem cells: GSC)がテロメスタチン系化合物に感受性を示したが、その詳細な分子機構は不明である。今回、テロメスタチンおよびその新規誘導体をGSCおよび血清刺激によって幹細胞性を消失させた非幹神経膠腫細胞(non-stem glioma cells: NSGC)に処理し、GSC選択的に発現が変動する遺伝子群を網羅的に同定した。これらの遺伝子群の中にGSCの選択的増殖抑制に関与するものが存在すると想定し、今後さらに検討を進める予定である。一方、前年度の検討により、G4リガンドによるDNA損傷は複製および転写に依存して生じることが判明したため、複製や転写の過程で生じる核酸の1本鎖構造がG4形成に寄与すると想定した。解析の結果、G4の解消を司るヘリカーゼ群のタンパク質発現がGSCで高く、NSGCへの分化とともに低下することが見出された。この結果は遺伝子発現解析でも再現された。G4リガンドのGSC選択性を説明しうる分子変動として、その意義をさらに精査する予定である。また、ヒトがん細胞パネルJFCR39を用いてテロメスタチン系化合物の感受性プロファイリングを実施したところ、神経膠腫細胞株が高感受性を示すことが確認された。さらに、in vivoでも制がん効果が再現された。以上の成果は、神経膠腫幹細胞を標的とする新薬開発のための基盤的知見であり、ひいてはがんの再発抑止・予後改善に繋がると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回、テロメスタチン系G4リガンドによるGSCにおける遺伝子発現変動およびヘリカーゼ群のGSC選択的発現を見出すことが出来、これらのG4リガンドのGSC選択性を解明するうえでより詳細に検討すべき分子が絞られてきた。一方、当初の目標では消化器がんについても検討を進める予定であったが、ヒトがん細胞パネルを用いた感受性プロファイリングの結果、神経膠腫細胞のG4リガンド高感受性が支持されたため、後者のがん腫を対象とした検討を優先させた(消化器系臨床がん由来の細胞株の樹立については、中止ではなく、別途検討を進めている)。以上より、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
1)ヒト神経膠腫幹細胞の同所移植モデルを確立する。この系に新規テロメスタチン誘導体を処理し、腫瘍増殖に対する影響を調べる。薬剤の投与経路としては、通常の腹腔内投与に加え、薬剤が血液脳関門を通過しない可能性も想定して脳内投与も試行する。マウスの行動を観察しながら、一定期間の飼育後に脳組織切片を作製し、ヒト特異的抗体を用いた免疫組織染色により、腫瘍組織の拡がりと薬剤によるその抑制の程度を観察する。腫瘍内のがん細胞の増殖および細胞死は、Ki67および活性型カスパーゼ-3(もしくは壊裂型PARP)などの染色でそれぞれ検定する。本研究計画については、がん研究会動物委員会の倫理審査で予め承認を得たのちに実施する。 2)神経膠腫幹細胞において、テロメスタチンおよび誘導体を処理したときにDNA損傷がゲノム上のどのような場所で生じるか、クロマチン免疫沈降シーケンシング法で検討する。まずはクロマチン免疫沈降の条件検討から実施し、これが達成されてからシーケンシングに着手する。また、神経膠腫幹細胞にこれらのG4リガンドを処理したときの遺伝子発現変化については、前年度までにGeneChipマイクロアレイにて網羅解析しているが、今年度は薬剤の処理濃度や時間を変えて追試し、データを拡充する。これらの解析で顕著な発現変化を示すと判断された遺伝子群のうち、プロモータから第一エクソン近傍領域にG4形成モチーフが豊富に存在するものを絞り込み、実際の遺伝子発現変化とDNA損傷反応の局在一致性を検証する。また、これらの遺伝子発現が神経膠腫幹細胞の分化誘導でどのように変動するか調べ、同遺伝子の発現レベルの違いがG4リガンドの選択的効果の根拠に結びつくかどうかについて検証する。
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Causes of Carryover |
消化器系臨床がん由来の細胞株を樹立させるうえで、in vivo腫瘍形成実験の実施を延期したため、当該実験動物にかかる経費を次年度に繰り越すこととなった。その理由として、「研究実績の概要」および「現在までの達成度」に記述の通り、神経膠腫に関する研究の進展が著しかったためにこれを優先させたことが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は引き続き神経膠腫を用いた検討を優先させ、さらにはゼノグラフト治療実験を本格化させるため、また、順調に進めば消化器系がんについても検討するため、実験動物にかかる経費が増大する見込みである。
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