2015 Fiscal Year Annual Research Report
M期染色体動態を制御する核小体RNA-タンパク質ネットワークの解析
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25290064
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
木村 圭志 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (50332268)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 分裂期 / 染色体 / 核小体 / RNA / NOL11 / Aurora B / リン酸化 |
Outline of Annual Research Achievements |
核内構造体の一つである核小体は、rRNAの転写とリボソーム生合成の場としてしられてきた。近年、核小体がこの古典的な機能に加え、細胞周期の制御、ストレス応答など多様な生命現象に関与することが知られてきた。本研究計画では、核小体因子の分裂期(M期)での役割を解明することを目的とした。 我々は、約600種類の核小体タンパク質のRNAiスクリーニングから、約60種類のタンパク質がM期の進行に関与することを見出し、最も顕著な表現型を示した、rRNAプロセシング因子であるNOL11の解析を進めた。 FACS解析からNOL11のノックダウンにより細胞周期のうちでM期に特異的に遅延が観察された。さらに、生細胞のタイムラプス観察から、M期の前中期から中期の過程に遅れが生じた。また、NOL11のノックダウンにより、姉妹染色体分体間の対合や染色体整列異常が観察され、その原因としてAurora Bキナーゼの動原体への局在に異常が考えられた。そこで、Aurora Bの局在異常の原因を探るため、ヒストンの修飾を調べたところ、NOL11ノックダウンにより、ヒストンH3の3番目のスレオニン残基(H3T3)、及びヒストンH2Aの120番目のスレオニン残基(H2AT120)のリン酸化に異常が生ずることを見出した。 また、NOL11に加え、WDR3やPES1等のプロセシング因子のノックダウンでも、M期の顕著な遅延が観察され、姉妹染色体分体間の対合や染色体整列異常が生じることを見出した。一方で、プロセシング因子の一つであるRRP5のノックダウンはM期の進行には影響を与えなかった。 さらに我々は、M期染色体周辺にrRNAが濃縮されていること、rRNAを足場としてプロセシング因子が局在すること、RNA除去により、M期染色体の表面構造や、M期染色体の動態に異常が生ずることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画1の「核小体RNAによるM期染色体動態の制御」に関しては、M期染色体周辺にrRNAが濃縮され、RNase処理やrRNAの転写因子のsiRNAによりRNAを除いた場合に、染色体の表面構造に変化が生ずること、また生細胞ではM期染色体の対合や整列の過程に異常が生じ、M期が遅延することを見出した。 計画2の「NOL11によるM期染色体動態制御」では、NOL11がAurora Bの動原体整列に関与すること、またその過程にHaspinキナーゼによるH3T3のリン酸化制御に加えて、Bub1キナーセによるH2AT120のリン酸化やシュゴシンの制御が関与することを見出した。 計画3の「核小体RNA-タンパク質ネットワークの解明」に関しては、M期染色体周辺のrRNAを足場としていくつかのプロセシング因子が局在すこと、NOL11に加えWDR3やPes1等のプロセシング因子がM期進行やM期染色体動態に関与することが示され、核小体のRNAとタンパク質のネットワークがM期制御に関与することを示すことができた。 計画4の「核小体RNA-タンパク質ネットワークの制御」に関しては、rRNAの転写因子のノックダウンにより、M期染色体周辺のRNA量を制御することができること、またp53が不活性化した細胞を用いることによりM期染色体の構造・動態に変化が生じることを見出した。 上記のように、研究計画はおおむね順調に進行したと考えられる。一方で、我々はNOL11のノックダウンが、H2AT120リン酸化制御、シュゴシン制御にも影響を与えていることを見出た。我々は、研究期間を一年延長して、NOL11をはじめとした核小体因子が、これらの経路にどのようなメカニズムでどのような制御をしているかを明らかにして、本研究計画を完了したい。
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Strategy for Future Research Activity |
前述したように、研究計画はおおむね予定通りすすんでいるが、核小体のプロセシング因子NOL11が、H2AT120リン酸化やシュゴシンの制御にも影響を与えていることを見出したので、研究計画を1年間延長して、これらの経路を研究したい。 Aurora Bの局在制御には、Aurora BによるHaspinキナーゼの活性化、H3T3のリン酸化、Auora Bの動原体局在の促進という経路と、Aurora BによるBub1キナーゼの活性化、H2AT120のリン酸化、シュゴシンの局在化、Auora Bの動原体局在の促進という二つのポジティブフィードバックにより制御されている。後者には、Mps1キナーゼやPP2Aホスファターゼが関与している。さらに、これらの二つの経路をお互いにクロストークをしている。 本研究計画では、主に後者の経路に焦点を絞り、NOL11のノックダウンが、個々のタンパク質の活性や局在、リン酸化にどのような影響を与えているかを明らかにしたい。また、NOL11をノックダウンした条件で、Bub1キナーゼやシュゴシンを強制的に動原体に局在させる実験を行うことにより、NOL11ノックダウンした際に、どの因子がAurora Bの動原体への局在や、M期染色体動態の制御に関与しているかを明らかにしたい。 さらには、NOL11以外のプロセシング因子や、M期染色体周辺のRNAの後者の経路に対する役割を解析することにより、核小体RNA-タンパク質ネットワークによる、Aurora Bの動原体局在を介した染色体動態の制御機構を解明する。
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Causes of Carryover |
平成27年度、核小体因子NOL11が、H3T3リン酸化に加えて、H2AT120リン酸化、シュゴシン制御を介したAurora Bの局在制御、M期染色体動態の制御に関与していることを見出した。核小体RNA-タンパク質ネットワークによるM期染色体ネットワークの全貌をとらえるためにも、研究期間を延長して新たな制御機構を解析する必要性が生じたため。 また、研究を遂行する上で、効率的に予算を使用して研究費の節約に努めた。従って、予定していた予算よりも少ない経費で、予定していた研究を完了することができ、研究計画を延長して新たに発見した経路を解析するための次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、シュゴシン、Bub1、PP2A、H2AT120の局在や活性リン酸化状態を解析する予定である。これらを解析するためには抗体を用いた解析が有効であるため、市販抗体の購入や抗体作製のための費用に充てたい。また、これらの経路に関わる因子のノックダウンをするためにsiRNAの購入をする。また、実験を遂行するためのプラスティック機器の購入や、試薬の購入、実験に使用するツメガエルの購入代金に充てる。 さらには、研究成果を社会に還元するために、学会に参加するための学会参加費や旅費、論文の掲載料にも経費を使用する予定である。
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Research Products
(4 results)