2014 Fiscal Year Annual Research Report
X線及び中性子溶液散乱法による高次ヌクレオソーム複合体の動態構造解析
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25291037
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
佐藤 衛 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (60170784)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小田 隆 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 特任助教 (00573164)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 溶液散乱 / 小角散乱 / クロマチン / ヌクレオソーム / セントロメア |
Outline of Annual Research Achievements |
H2AのバリアントであるH2A.Bを含むモノヌクレオソーム(H2A.Bモノヌクレオソーム)の中性子溶液散乱(SANS)解析を行った。H2A.Bモノヌクレオソームは通常のH2Aを含むモノヌクレオソーム(H2Aモノヌクレオソーム)と生化学的な性質が異なるため、立体構造に大きな違いがあるものと推測されているが、結晶構造は明らかにされていない。昨年度のX線溶液散乱(SAXS)解析から、H2Aモノヌクレオソームでは146bpのDNAがヒストン8量体にしっかりと巻きついているのに対し、H2A.BモノヌクレオソームではDNAの両端の20~30bpがヒストン8量体からはがれて大きく揺らいだ状態にあることが推測されていた。そこで、本年度のSANS実験では溶媒の重水と軽水の比を変化させることで溶媒とヒストンとDNAの散乱のコントラストを変化させて測定を行った。その結果、H2A.BヌクレオソームのDNAは両端がヒストン8量体からはがれていることが明確に確認でき、このような性質によりH2A.Bは緩んだ状態のクロマチンを形成できることが明らかになった。さらに、ヌクレオソーム内部のヒストン8量体にも構造の違いが観測された。この違いはヒストンテールの構造状態の違いによるものと推測された。また、セントロメア特異的なCENP-A(H3のヒストンバリアント)を含むヌクレオソーム(CENP-Aモノヌクレオソーム)についてもSAXS解析を行った。これまでの研究からCENP-Aモノヌクレオソームもヒストンに巻きついたDNAの両端がはがれていることが示されている(Tachiwana et al, 2011 Nature)。そこで、H3またはCENP-Aを含む3つのヌクレオソームをつないだトリヌクレオソーム(H3-CENP-A-H3)のSAXSを測定したところ、H3-H3-H3のトリヌクレオソームとは異なる散乱パターンが観測され、動的な構造に違いがあることが示され、セントロメア領域のクロマチン構造の違いを反映していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度行ったX線溶液散乱(SAXS)解析で推測されたH2AとH2AのバリアントであるH2A.Bを含むモノヌクレオソームの違いをコントラスト変調法を利用した中性子溶液散乱(SANS)で解析し、H2A.BヌクレオソームのDNAは両端がヒストン8量体からはがれていることを実験的に証明し、このような性質によりH2A.Bは緩んだ状態のクロマチンを形成できることを明らかにしたこと、および、H3またはCENP-Aを含む3つのヌクレオソームをつなげたトリヌクレオソームのSAXSを測定し、H3-CENP-A-H3トリヌクレオソームとH3-H3-H3トリヌクレオソームが異なる散乱パターンを示して両者の動的構造に違いがあることを明らかにし、本研究の目的である高次ヌクレオソーム複合体の動態解析に目途を立てることができたことなどから、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
H2A.BモノヌクレオソームおよびH3-CENP-A-H3トリヌクレオソームについて、分子動力学シミュレーションを行う。これにより通常のH2AモノヌクレオソームおよびH3-H3-H3トリヌクレオソームとの動的な挙動の違いを解析し、これらのヒストンバリアントが高次のクロマチン構造に与える影響を明らかにする。 このような巨大複合体では実際の溶液中の分子挙動を正しく再現するためには計算と実験の両面で様々な工夫が必要である。そこで、分子動力学計算では全原子シミュレーションの代わりに疎視化シミュレーションを行う。疎視化シミュレーションではアミノ酸残基1つを1粒子、塩基1つを3粒子とすることで巨大複合体を簡素化し、全原子シミュレーションでは追えないような長時間にわたる大規模な構造変化を追うことができる。しかし、疎視化シミュレーションでは各粒子間に働く相互作用を全原子シミュレーションのように正確に再現できないので、正しく解析を行うために計算パラメータを様々に変動させて計算を行い、得られる構造アンサンブルからSAXSおよびSANSの散乱パターンを計算し、実測の散乱パターンとの一致度を確認しながら解析を行う。 同時に、これまでに収集したSAXSデータおよびSANSで観測されたヒストン8量体とDNAの散乱パターンを利用する。ただし、前述のように、疎視化シミュレーションでは静電相互作用などのパラメータを様々に変えて計算するため、必要に応じてSAXSおよびSANS実験でも塩強度を変えて測定し、これらとの一致度を確認しながら解析を行う。 さらに、特定のヒストンバリアントを重水素化することでそのヒストンバリアントのみの散乱パターンをSANSで収集し解析の精度をあげる。なお、分子動力学シミュレーションは横浜市立大学の池口博士、京都大学の高田博士、原子力研究機構の河野博士らと協力して進める予定である。
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Causes of Carryover |
今年度(H26年度)におけるタンパク質の発現・調製・精製実験は、昨年同様に共同研究先で行ったのでタンパク質精製用クロマトシステム(AKTA FPLC)を購入する必要がなかった。また、超低温で安定保存するタンパク質の量もそれほど多くはなかった。そのために次年度の使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は高次ヌクレオソームの構造・動態解析を本格化させるために、タンパク質精製は昨年同様に共同研究で行うが、様々なヒストンバリアントを含む高次ヌクレオソームを大量に調製する必要があること、さらに、当該構造・動態解析を様々な物理条件や溶媒条件で行う必要があるため、高純度の高次ヌクレオソームを常時大量に調製し、かつ決められたマシンタイム時に大型施設に出張して行うX線・中性子溶液散乱実験まで超低温で安定に保存する必要がある。そのために超低温フリーザー(パナソニック・MDF-U73VS5)を購入する計画である。加えて、昨年度に引き続き、高次ヌクレオソームの中性子溶液散乱測定を計画しているため、そのために必要な高額の重水および重水素化試薬の購入も計画している。
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Research Products
(12 results)
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[Journal Article] A magnetic anti-cancer compound for magnet-guided delivery and magnetic resonance imaging2015
Author(s)
H. Eguchi, M. Umemura, R. Kurotani, H. Fukumura, I. Sato,.J-. H. Kim, Y. Hoshino, J. Lee, N. Amemiya, M. Sato, K. Hirata, D. J. Singh, T. Masuda, M. Yamamoto, T. Urano, K. Yoshida, K. Tanigaki, M. Yamamoto, M. Sato, S. Inoue, I. Aoki, Y. Ishikawa
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Journal Title
Scientific Reports
Volume: 5
Pages: 9194-9207
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Molecular basis for SMC rod formation and its dissolution upon DNA binding2015
Author(s)
Y. Soh, F. Bürmann, H. Shin, T. Oda, K. S. Jin, C. P. Toseland, C. Kim, H. Lee, S. J. Kim, M. Kong, M. Durand-Diebold, Y. Kim, H. M. Kim, N. K. Lee, M. Sato, B. Oh, S. Gruber
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Journal Title
Mol. Cell
Volume: 57
Pages: 290-303
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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[Journal Article] Distinct Features of the Histone Core Structure in Nucleosomes Containing the Histone H2A.B Variant2014
Author(s)
M. Sugiyama, Y. Arimura, K. Shirayama, R. Fujita, Y. Oba, N. Sato, R. Inoue, T. Oda, M. Sato, R. K. Heenan, and H. Kurumizaka
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Journal Title
Biophysical J.
Volume: 106
Pages: 2206-2213
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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