2014 Fiscal Year Annual Research Report
チューリングではなく一方向阻害モデルによる指の個性と本数の決定原理の解明
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25291050
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
鈴木 孝幸 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (40451629)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 指形成 / 肢芽 / パターン / 軟骨 / ニワトリ胚 / 発生 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は当初の予想に反し、指原器が形成される前から細胞レベルで軟骨形成領域と非軟骨形成領域に違いがある可能性が明らかになったことから、この現象の本質を見極めることが研究を進めるために不可欠であると判断し、当初の計画を27年度の9月末まで延長して研究を行った。その結果、指原器が形成される直前の段階で、細胞の密度が高くなる領域があることが分かった。この領域は将来指原器が形成される領域の基部側かつ背腹軸に沿った方向の中心部分に核をなすように細胞が凝集している領域に相当していた。またニワトリ胚後肢においては、最も後側の指である第4指から第3、2、1指と前側に細胞密度の高い領域が現れることが分かった。次にこの領域の細胞密度の状態を定量化するために、パラフィン切片を用いてDAPI染色を行い、その蛍光強度をImageJを用いて定量的に解析した。その結果、視覚的に見て細胞密度がわずかに高いと思われる領域に輝度値が高い領域があるのが検出された。この結果は恣意的な要素を排除したものであり、軟骨凝集塊が肉眼で観察されるより前の段階で、いでに細胞が集まり密度が高くなっている領域があることを示している。次にこの領域でどの遺伝子が特異的に発現しているのかを大規模遺伝子発現スクリーニングにより解析した。その結果、この領域のみに発現している遺伝子は見つからなかったが、軟骨凝集塊形成に必須であるSox9がこれらの細胞を含む自脚領域全体に発現していることが分かった。その他これまで指原器の形成に必須であると言われて来たBMPR1b遺伝子や、Aggrecan遺伝子はまだ発現してなかった。これらの結果は、軟骨凝集塊が形成されるより前の段階で何らかのシステムによって指原器の軟骨が形成される場所が決まっている可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、指形成に必須であるHoxA13, HoxD13遺伝子の下流で指の軟骨パターンや指の軟骨凝集塊が形成される場所が決まると考えており、これらの遺伝子の機能解析をマイクロマスカルチャーを用いて行う予定であった。しかしながら、これまで我々が軟骨凝集塊と呼んでいたものは、肉眼で観察され指の軟骨原器のことであり、本研究で観察した軟骨凝集塊が目で見えるより前の段階ですでに細胞が凝集しているという想定を超える結果が得られた。これらの結果から、HoxA13, HoxD13遺伝子が直接軟骨パターンや指の軟骨凝集塊が形成される場所を規定しているのではないという解釈が正しいと考えられる。このため、当初の予定とは異なり、細胞の凝集の解析を進めることとなったが、予定を変更後、この解析をスムーズに行うことが出来た。これらの解析は、指の軟骨パターン形成の真の実体に迫るための新しい知見であり、意外な結果ではあったが、今後はさらに独自の研究の展開がスムーズに出来ることが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度の結果より、HoxA13, HoxD13遺伝子以外のメカニズムによって指の軟骨原器の場所が決まっていることが想定される。我々は、これまでの結果を見てあることに気付いた。それは将来指になる細胞が凝集する時には必ず一定の等間隔の距離を置いて、さらに順番に形成されていくということである。このことから、我々は肢芽の前後軸にかけての長さや厚みそのものが、指の軟骨凝集塊の形成数(指の数)を規定するのではないかと考えた。実際に肢芽の前後軸方向の幅が広い変異体においては指の本数が多くなり、少ないとニワトリの前肢の様に3本しか指が形成されない。これまでニワトリ胚肢芽において3次元でその形状や前後軸の正確な幅、また細胞密度の変化を計測した報告は無い。そこで今後はまず肢芽の形状そのものを定量的に解析し、指が形成される自脚領域がどのような形態をしながら成長して行くのかを理解する必要があると考えた。 そこで次年度では、DiI, DiOを用いて肢芽全体の形態変化の過程を明らかにするためのfate mapを作成したい。また指が形成される領域の細胞群がどの部分に由来するのか発生初期のその細胞の位置情報を知りたい。また3次元における肢芽の形状を理解するためにOPTスキャナーという実体顕微鏡レベルで観察される大きさの器官の3次元断層像を取得出来るシステムを利用して肢芽全体の形状の情報を取得したい。取得した情報を用いてどの時期で自脚領域が背腹軸方向に薄くなって行くのか、また前後軸方向にどのように広がって行くのか定量的に評価したい。このようにして得られた情報と軟骨になる細胞群が凝集する位置を比較することにより限られた空間の中でどのような原理に従って指の軟骨パターンが形成されるのか発生学的な原理を明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
遺伝子発現を解析するためのIn situ hybridization法の実験を翌年度にも行いたいため、それを執行するための分子生物学試薬代金23,515円を翌年度に使用したいと考えた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
軟骨原器の位置を確認するためのIn situ hybridization法の実験に用いる分子生物学試薬代金に用いる。
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