2014 Fiscal Year Annual Research Report
多段階プロセスとしての胎児型赤芽球の循環開始機構の解明
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25291051
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
瀬原 淳子 京都大学, 再生医科学研究所, 教授 (60209038)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ADAMプロテアーゼ / 血管形成 / 血液循環 / 造血 / ゼブラフィッシュ / ライブイメージング / 再生 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊椎動物発生過程において最初にまず胎児型赤血球が産生されるが、そこで産生される赤血球がどのように循環し始めるのか、その制御機構は殆ど解明されていなかった。我々はゼブラフィッシュ胚において胎児型赤血球の循環開始が血球で高発現する膜型メタロプロテアーゼADAM8を必要とすることを発見した。そこでホ乳類における ADAM8の役割を探るため、 ADAM8ノックアウト(KO)マウスの解析を行ったが、ADAM8 KOマウスは、赤血球の循環にしては異常がなかった。 そこでADAM8を強く発現する炎症細胞に着目し、これらの細胞の浸潤が起こる骨格筋再生におけるADAM8の役割を検討した。 損傷した骨格筋が再生するためには炎症細胞の働きが不可欠であることが知られるが、その動態や役割には不明な点が多い。ADAM8は筋損傷1日後に浸潤してくる好中球で高い発現が認められた。ADAM8の筋再生に対する関与を調べるため、デュシェンヌ型筋ジストロフィーモデルマウスとADAM8 KOマウスを掛け合わせ、遺伝的に筋損傷を誘導したマウスの再生筋を解析した。その結果ADAM8欠損マウスでは壊死した筋繊維の顕著な残存と石灰化像の亢進が観察された。筋損傷時に好中球は損傷筋繊維の基底膜を越えて侵入し、凝集塊を形成する。ADAM8 KOマウスではこの凝集塊を形成する割合が減少していた。さらにADAM8が切断に関与する接着分子P-selectin glycoprotein lignad-1(PSGL-1)の発現を調べたところ、基底膜を通過して損傷筋繊維内に侵入した好中球ではPSGL-1の発現の減少が見られ、ADAM8 KOマウスではPSGL-1lowの好中球の割合が有意に低下していた。このことから好中球の損傷筋組織内移動はPSGL-1消失を伴い、その消失に対する ADAM8の寄与が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は本研究において、 ADAMというプロテアーゼの働きを研究することによって、これまで知られていなかった血液細胞の循環や動態の制御機構の解明を目指してきた。ゼブラフィッシュの一次血球前駆細胞で発現する ADAM8が赤芽球の循環を制御しているのに対し、マウスでは、そこに ADAM8は関与していなかった。しかしマウスADAM8の欠損により、成体の筋再生において好中球が血管内から筋組織に浸潤するプロセスを、血管から間葉組織、間葉組織から基底膜を越えて筋管内へ、という2つのプロセスに区別することができ、 ADAM8の欠如が後者に必要であることを見出した。その意味で、好中球浸潤の多段階性の解明に寄与し、この研究が研究計画に沿って、概ね順調に進展したと言える。さらに、筋再生における好中球の役割は不明であったが、筋管への好中球の浸潤は、障害を受けた骨格筋を効率よく除去し再生させるために必要であることを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、 criper-cas9システムを用いて、ADAM8以外の ADAMプロテアーゼのノックアウトゼブラフィッシュの作成に成功し、それらを用いて、血管・血球形成のそれらのプロテアーゼ依存性とメカニズムを調べようとしている。また、インテグリンと細胞外基質の関与に関しても、再考する研究を行い、血管・血球形成を細胞レベレルできちんと解明しようとしている。現在の状況から考え、今後、これらの分子を起点とした血管形成・造血システムの解明が出来るものと考えている。今回、 ゼブラフィッシュでの研究成果を元に、ADAM8の好中球の動態への関与をマウスで証明することができた。主動・静脈がどのようにできるのか、その際、赤芽球やマクロファージはどこでどのように産生され、そのあとどのように挙動するのか、血管形成に血球は何らかの役割を果たしているのか、などの問題をイメージングを用いてきちんと解明できるのは、ゼブラフィッシュやメダカのような小型魚類の胚であるに違いないと考え、これらの小動物での検討を基本とする方針に揺るぎはない。
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Causes of Carryover |
従来小型魚類を用いた研究では、遺伝子を アンチセンスモルフォリーノなどを用いた遺伝子発現抑制により解析してきた。昨年度、260万円を繰越したのは、 最近確立されたcrisper-cas9システムを導入し、遺伝子の解析を遺伝子変異体の作成によって検討するという、より信頼性の高い実験系を取り入れたことにある。遺伝子ノックアウトゼブラフィッシュを得るには世代を越えてこれらの掛け合せをする必要があり、当初計画していた研究内容を今年度に繰り越して行う必要があった。結果として、現在4種類の ADAM プロテアーゼ欠損ゼブラフィッシュの作成に成功している。本プロジェクトは、これによってより確実で、再現性の高い研究結果が得られる手段を得る。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
現在、 criper-cas9システムを用いて、ADAM8以外の ADAMプロテアーゼのノックアウトゼブラフィッシュの作成に成功し、それらを用いて、血管・血球形成のそれらのプロテアーゼ依存性とメカニズムを調べようとしている。また、インテグリンと細胞外基質の関与に関しても、再考する研究を行い、血管・血球形成を細胞レベレルできちんと解明しようとしている。繰越により、インテグリンおよび細胞外基質タンパク質遺伝子のノッカウアウトゼブラフィッシュを作成し、これらの掛け合わせ、胚の観察、遺伝子発現解析などを計画している。
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[Presentation] Mechanisms of Skeletal Muscle Regeneration.2014
Author(s)
Atsuko Sehara-Fujisawa
Organizer
Symposium “Genomic and epigenomic insights into vertebrate regeneration, development and evolustion - development and evolution - Xenopus and fish as models”
Place of Presentation
Pontificia Universidad Catolica de Chile(チリ・カトリカ大学)
Year and Date
2014-11-05
Invited
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