2014 Fiscal Year Annual Research Report
共生による生命システムの統合と進化:アブラムシ細胞内共生系をモデルに
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25291083
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
重信 秀治 基礎生物学研究所, 生物機能解析センター, 特任准教授 (30399555)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 共生 / アブラムシ / 進化 / 抗菌ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
共生系において、いかにして異なる生物の構造や機能が融合し統合されたひとつの生命システムに進化するのか?その遺伝子基盤を明らかにするために、昆虫アブラムシと共生細菌ブフネラの細胞内共生系をモデルに研究している。本課題では、3つの小課題を設定しているが、本年度は特に新規分泌ペプチドBCRの解析に重点を置いて研究を進め、大きな進展があった。私は、アブラムシにしか見られない新規の分泌タンパク質ファミリーを同定し、それらのmRNAが共生器官特異的に発現することを明らかにしていた。これらは、N末の分泌シグナルに続いて約60アミノ酸残基の比較的短いペプチドをコードし、システインを6~8個持つ特徴的な一時構造をもっており、われわれはBCR遺伝子群と呼んでいる。 今年度は、BCRの機能解析を重点的におこなった。その結果、BCRが抗菌ペプチドとして機能することがあきらかになった。フローサイトメトリーにより、細菌のpolyploidy化、膜浸透性の変化が確認された。また、抗体作成にこれまで苦慮していたが、今年度、質の良い抗体を作出することに成功した。免疫組織化学的にアブラムシ組織を本抗体で染色したところ、共生細菌のまわりに局在することが明らかになった。また、ペプチドを人工的に合成し、リフォールディングすることによって、比較的大量の活性ペプチドを得ることができるプロトコールを確立したため、生化学的なアプローチによる実験も容易になった。共免疫沈降法による相互作用分子のスクリーニングなどの実験を進行中である。 マメ科植物の根粒の内部でもシステインリッチペプチドが共生器官特異的に発現し、共生の維持と制御に重要であることが示されている。システインリッチペプチドの進化は、動植物の共生系に共通の原理なのではないかと考えている。国内外の植物研究者とも連携を深めているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
3つの小課題のうち、新規分泌ペプチドの解析は、その生理活性やタンパク質の局在をあきらかにできるなど、想定以上の大きな進展があった。残りの2つの小課題、細胞膜の生合成の問題と、宿主発生プログラムと共生細菌感染のプロセスについては、技術的な問題により進展が当初の予定よりやや遅れている。したがって総合的には、小課題によってばらつきはあるが、おおむね順調に進展している、と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
小課題1のBCRの研究については、昨年度までに念願の抗体が完成するなど解析ツールがととのってきた。これらを使って具体的に以下の解析によって、BCRの抗菌作用の分子メカニズムの解明と、共生系における機能解析を推進する。BCRの局在を超高解像度イメージング等も活用してさらに詳細に観察する。抗体を使った共免疫沈降と質量分析によるタンパク質プロファイリングにより、BCRと相互作用する分子を探索・同定する。細胞膜成分など、タンパク質以外がBCRの標的である可能性も考慮した上で実験をデザインする。またBCRの立体構造をX線構造解析で明らかにする。さらに、CRISPR/Cas9を使ったアブラムシのゲノム編集技術によるBCRの機能解析を行う。 宿主発生プログラムと共生細菌感染の統合的プロセス(小課題2)を明らかにするために、共生器官細胞(バクテリオサイトと呼ばれる)にpreferentiallyに発現する転写因子Distal-lessの遺伝子発現制御ネットワークを明らかにする。ChIP-seqによる転写因子のターゲット同定と、ゲノム編集によるノックアウト実験を計画している。 細胞膜の宿主・共生細菌の統合的生合成の問題(小課題3)にアプローチするために、共生細菌の細胞膜を構成するリン脂質の組成をLC-MSで同定・定量し、すでにわかっている両者のゲノムデータからリン脂質合成パスウェイを推定する。 平成27年度は最終年度であるので、論文として成果をまとめることを意識した研究を展開する。
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Causes of Carryover |
小課題2と3において技術的な問題で実験の遂行を足踏みしているものがあり、例えば、ChIP-seqは次世代シーケンシングの費用など比較的高額な解析経費を次年度にまわさざるを得なかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年まで足踏みしていたChIP-seqなどの消耗品にあてる。技術的な問題をクリアする目処は立っている。また、研究をスピードアップするために、分子生物学的実験のための技術支援員を雇用する。
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