2015 Fiscal Year Annual Research Report
地球環境変動に連動する藻場生態系の炭素固定機能とデトリタス連鎖系の応答
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25291098
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮島 利宏 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (20311631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浜口 昌巳 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 干潟生産グループ長 (60371960)
堀 正和 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (50443370)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 生態系 / 海洋酸性化応答 / アマモ場 / 微生物 / 底生動物 |
Outline of Annual Research Achievements |
交付申請書に記載した計画の通り、平成27年度は屋外メソコズムによる酸性化実験設備を構築して実験を進めた。瀬戸内海区水産研究所の屋外水槽施設に対照区を含めて4段階の酸性化環境を設定できる実験水槽を用意し、付近で採集されたアマモと主要な底生動物を投入して実験を行った。実験途中で設備に不具合が起きたため実験期間が計画よりも短くなったが、酸性化により付着藻類を基点とする生食食物網が弱体化すること、腹足類を中心とする腐食食物網はあまり影響を受けないことなどが判明した。また別に試験的に実施した同位体ラベル実験により、付着藻類を基点とする生食食物網は腐食食物網に比べて回転時間が短いことが示唆されている。引き続き実験条件を検討しつつ研究を継続している。 26年度からの継続として、室内分解実験によりアマモの分解過程に特異的に関与する細菌群集のクローンライブラリの作成、微生物の同定、細菌相のキャラクタリゼーションを進めた。特に分解過程の進行に伴う細菌相の経時変化に着目している。また微生物のセルロース分解酵素の検出系の構築を進め、特に原核生物由来と真核生物由来とを識別する技術の開発に取り組んだ。 自然状態及び実験状態でのデトリタス食物網の構造解析を目的とする同位体標識実験の技術開発とその応用を平成25年度から進めているが、27年度には、当初計画にはなかった試みとして、水素同位体を標識としたパルスチェイス実験を試験的に導入した。この方法により、アマモの光合成産物が根に転流されて地下部の微生物相を経由してデトリタス食物網に流れるプロセスが、比較的短時間の実験で正確に解明できること、また水素同位体を単独で標識に用いる場合は、天然の炭素・窒素同位体比による食物網解析が同時に可能であるため、上位食物段階へのフローの解析が容易になることが明らかになった。ただし実用化までには今後なお細かな技術的改良を要する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に関しては、当初計画した通り、メソコズム実験を軌道に乗せることができた。また室内での微生物学的実験も着実に進められている。一方、交付申請書の実施計画にある比較現地調査のうち、27年度に実施を予定していた亜寒帯域での調査は、調査地の事情(人為的な土砂流出)により十分な調査日数を確保することができなかったため、この部分は予定より遅れている。その一方でデトリタス生成過程とデトリタス食物網の構造解明のための標識実験は予定以上に進んでいる。全体としては概ね順調に進展していると判定される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は最終年度であり、交付申請時の実施計画通り、メソコスム実験の継続と全体の成果の取りまとめを中心に実施する予定である。また本事業の遂行過程で新たに生じた研究課題として、26年度の実績報告書で述べた、デトリタス生成プロセスの気候条件や堆積物(鉱物)組成に対する依存性の問題、上記の研究実績の概要に述べた水素同位体標識実験の可能性の探究と方法整備、ならびに(実績報告には記していないが)アマモ場細菌群集における硫黄関連細菌群の役割と有機物の非特異的硫黄化作用との関係という、3つの課題がある。本年度は時間の許す限りでこうした課題も掘り下げ、次年度以降に企画される新たな研究事業に発展させていくことを希望している。また最終年度であるので研究成果を論文・学会発表として積極的に公表していく。
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Causes of Carryover |
27年度に計画されていた現地調査のうち、亜寒帯沿岸海域での調査については、現地の事情(造成工事等)により調査日程を十分に確保できなかったため、調査のために要した費用が予定よりも少なくなった。また瀬戸内海区水産研究所で実施した屋外水槽酸性化実験において、本来は数か月以上実験を継続する予定であったが途中で設備の不調により目的の酸性化条件に維持できなくなり、約1ヶ月で中断した。その後、実験を再開継続しているものの、当初の予定に比べて実験の期間と得られた試料の数が大幅に少なくなり、そのため実験設備の維持や試料の処理・分析に要する費用が見積よりも少額になった。これらの観測調査及び実験と実験試料の分析は、27年度にできなかった分は次年度に実施する予定であるため、残っている予算を次年度使用額に回すことにした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額とした予算は、亜寒帯沿岸海域での追加の現地調査とそれに要する機材、及び得られる試料の分析のために使用する。また瀬戸内海区水産研究所で継続される酸性化水槽実験における設備の補修と維持、得られる試料の処理・分析等に使用する。その一部は、実験系の維持管理と試料の分析のために雇用する補助員の人件費としても用いられる予定である。
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Research Products
(1 results)