2015 Fiscal Year Annual Research Report
インフルエンザウイルス進化予測理論のブレークスルー
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25291099
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
佐々木 顕 総合研究大学院大学, その他の研究科, 教授 (90211937)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | インフルエンザウイルス / A香港型 / 抗原進化予測 / 多次元尺度法 / マルコフ連鎖 / ベイズ予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
インフルエンザウイルスの抗原進化予測については、過去に流行したウイルス変異体の間のアミノ酸配列に基づく距離情報が、多次元尺度法によって低次元空間上の単純な進化軌道として表現されることが指摘されて以降(Smith et al. 2004)、新たな展開を見せている。 A香港型ヘマグルチニン遺伝子のアミノ酸配列2000本の距離関係に多次元尺度法を適用することにより(1)1968年以降のA香港型のヘマグルチニン配列の進化の軌跡が、2002年頃に大きく方向を転回する直線状の軌道として埋め込まれること(2)埋め込み次元数については2次元まででウイルス系統間の距離情報の9割程度を説明できること(3)最初の何年分かの配列データのみを用いて多次元尺度法で埋め込んだ軌道の進行方向の先に、その後に出現する配列データの埋め込み点が落ちること(予測可能性)(4)埋め込まれた進化軌道の大きな方向転換が系統樹の主要な枝(クレード)の絶滅に対応することを見出した。 さらに、インフルエンザ亜型の抗原進化の年次変化を(1)特定のウイルス株の流行、(2)宿主の集団免疫獲得によるウイルス抗原タイプに対する適応度地形の変化、(3)免疫エスケープ突然変異体の定着とその流行という3つのプロセスの連鎖として表現するマルコフモデルを構成することにより、進化軌道の直線性や方向転換の原因やその生起条件を理論的に解明するとともに、次年度流行タイプの予測をベイズ更新過程として表現することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
多次元尺度法も用いて抽出されたインフルエンザウイルス抗原進化の4つの特徴:(1)1968年以降のA香港型のヘマグルチニン配列の進化の軌跡が、2002年頃に大きく方向を転回する直線状の軌道として埋め込まれること(2)埋め込み次元数については2次元まででウイルス系統間の距離情報の9割程度を説明できること(3)最初の何年分かの配列データのみを用いて多次元尺度法で埋め込んだ軌道の進行方向の先に、その後に出現する配列データの埋め込み点が落ちること(予測可能性)(4)埋め込まれた進化軌道の大きな方向転換が系統樹の主要な枝(クレード)の絶滅に対応することは、配列の系統解析だけでは分からなかった特徴であり、多次元配列空間上の複雑な進化が、多次元尺度法という分析手段によって抽出されたものである。これをさらに2次元抗原空間上のマルコフ連鎖モデルとして表現することにより、進化軌道の直進性や予測可能性について理論的な結果を得たことは大きな前進である。
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Strategy for Future Research Activity |
多次元尺度法による埋め込み空間の上ので進化軌道の直進性を、軌道変化の角度分布等として表現することができたため、これを用いて台風の進路予想のような進化軌道予測が可能になる。この理論的結果を過去のインフルエンザ抗原進化データに適用することが最も緊急性の高い発展方向であり、それを実行に移す予定である。
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Causes of Carryover |
基礎理論の構築に平成27年度いっぱいかかったため、ウイルスの配列データを用いた解析を次年度以降に行う必要が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度までモデルの構築と解析を行ってきた研究補助員を、平成28年度秋から年度末まで雇用することが可能であるので、データ解析部分を半年間で完成させる。
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