2014 Fiscal Year Annual Research Report
適応進化と生態系ネットワークのフィードバック機構の解明
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25291102
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大串 隆之 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (10203746)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内海 俊介 北海道大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (10642019)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 間接相互作用 / 群集ネットワーク / 侵入生物 / 遺伝子型 |
Outline of Annual Research Achievements |
植食者(セイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシおよびアワダチソウグンバイ)による食害がセイタカアワダチソウの花形質の変化を通して、アワダチソウの繁殖成功と訪花者に与える影響を圃場実験によって調べ、以下の結果を得た。(1)グンバイによる食害は花数と花蜜量を減少させた。(2)アブラムシによる食害は花数と花蜜量を増加させた。(3)花数の増加は送粉者だけでなく、盗蜜者や花食者も増加させた。(4)盗蜜者や花食者の結実種子数に対する効果は送粉者より小さかった。(5)アブラムシはアワダチソウの当年種子数を増加させたが、グンバイは減少させた。 日本に侵入したセイタカアワダチソウの起源を推定するために、日米の集団を対象に中立遺伝マーカーを用いた集団遺伝学的解析を行なった。これによって、日本のアワダチソウは北米南東部の集団に起源すること、日本には2回以上の侵入がおこったこと、侵入後の遺伝子流動によって遺伝的多様性が維持されていることがわかった。 外来植物の分布拡大とそれに追随する外来植食性昆虫の定着プロセスを明らかにするため、セイタカアワダチソウの分布拡大の前線である北海道北部で圃場実験を行った。南方由来の遺伝子型も北方由来の遺伝子型もいずれも冬季の生残率は100%で、亜寒帯気候は生存には影響しなかった。アワダチソウに定着するアブラムシの個体数は、各年ともにアワダチソウの遺伝子型によって異なっていた。分布拡大の前線域では、異なる場所から異なる遺伝子型のアブラムシが毎年確率的に飛来しており、植物と昆虫の遺伝子型のマッチングが外来昆虫の分布拡大に大きく貢献すると考えられた。この仮説を検証するため、分子マーカーによる検討を開始した。圃場のアワダチソウからアブラムシを採集し、近縁種での増幅が確認されているマイクロサテライトマーカーを用いて増幅した結果、8つのマーカーについて増幅が確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
植食者による食害はセイタカアワダチソウの繁殖成功に負の影響を与えるだけでなく、間接的に正の影響も与える可能性があり、この繁殖成功に対する植食効果の逆転現象という結果は、植物の形質進化に対する間接相互作用の効果が植食者の種に依存していることを世界に先駆けて示したものである。このため植食者の種やギルドに注目することにより、植物と植食者間の間接相互作用の理解に大きく貢献できる可能性が開かれた。 日本に侵入したセイタカアワダチソウの起源集団の特定は、日米のアワダチソウと昆虫群集ネットワークを比較する本プロジェクトを推進する上で大きな成果である。さらに、日米のアワダチソウを用いた相互移植実験のより正確な実験デザインと得られたデータの解釈の妥当性を検討する上で、不可欠な知見である。 「植物と昆虫の相互作用における両者の遺伝子型のマッチングが外来昆虫の分布拡大を促進する」という仮説を検証することにより、生物間相互作用の遺伝的側面を重視する「生態進化ダイナミクス」と「侵入生物の保全生態学」の研究分野の融合を達成する可能性が開かれた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度では成果概要で示したように、セイタカアワダチソウ上の昆虫群集ネットワークの実態と繁殖成功度の関係、日本に侵入した起源集団の特定、セイタカの分布拡大と外来昆虫の役割について興味深い結果が多数得られた。これらの成果を今年度の実験計画に活かすとともに、学会や論文等で公表する準備を進めている。 昨年度は日米のアワダチソウの遺伝子型の相互移植実験を空間的に拡大するために、滋賀と北海道に加えて佐賀大学と山形大学の実験圃場でも移植実験を開始したが、米国のアワダチソウの生存率がきわめて悪く、植物の形質とそれに対する昆虫群集のデータが十分に得られなかった。このため、今年度は米国のアワダチソウの定着率を改善することで、昆虫群集ネットワークの地理的変異についてのデータを得ることに専念したい。 昨年度から行なっている米国での実験圃場から得られるアワダチソウの防衛・成長・繁殖形質と昆虫群集ネットワークのデータに基づき、日本の集団とその起源である北米南東部の集団に注目して昆虫群集ネットワークの差異を比較検討する。 外来生物が分布拡大する際の適応動態を調べる。引き続き圃場実験を継続しながら、昨年度から開始した分子解析を推進し、アワダチソウとアブラムシそれぞれの遺伝子型のマッチングとその空間動態がアブラムシの定着と増殖に与える効果を解析する。 3年間で得られた成果の基づき、本プロジェクトの目的である進化と生物群集・生態系機能の連関についての仮説と研究アプローチを提唱することにより、異なる生物階層を統合する新たな生態学の創成に資する。
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Causes of Carryover |
次年度の日本とアメリカ各地のアワダチソウ集団を対象とした群集調査と、日本の4カ所新たに行なう圃場実験のための旅費および分析用の試薬への更なる投資が必要になったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も引き続き日米の圃場実験に加え、日米で採集したアワダチソウの防衛・繁殖形質と昆虫群集ネットワークの解析を行なう。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Herbivorous insect decreases plant nutrient uptake: the role of soil nutrient availability and association of below-ground symbionts2014
Author(s)
Katayama, N., Silva, A.O., Kishida,O., Ushio, M., Kita, S. & Ohgushi, T.
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Journal Title
Ecological Entomology
Volume: 39
Pages: 511-518
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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