2015 Fiscal Year Annual Research Report
エピジェネティックな遺伝子発現制御を介した分子育種法の開発
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25292002
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
金澤 章 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30281794)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 遺伝子 / 発現制御 / 植物 / 色素 / RNA |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者はこれまでに、アントシアニン色素合成系の酵素遺伝子CHS-AのコサプレッションによるRNA分解が起きることで、着色しない花弁を産生するペチュニア系統を用いて研究を行ってきた。この系統では各世代で安定にこの遺伝子のRNA分解が起きるものの、植物体を長期間育成していると、色素合成が復帰した細胞が生じ、花弁の着色が見られるようになる。この現象にDNAのメチル化を含むエピジェネティックな変化を介した外来遺伝子の転写抑制が関与することを見出していた。このような変化が生じる機構の詳細を明らかにする目的で、これまでに行った外来遺伝子のプロモーター領域に関するDNAメチル化の解析に加え、内在性ならびに外来のCHS-A遺伝子のさまざまな領域に関してメチル化状態の解析を行い、RNA分解により着色しない花を産生する植物体と、長期間の育成により着色するようになった植物体の間で比較した。その結果、着色しない系統では、外来遺伝子のさまざまな領域でメチル化が検出され、特にエキソン2において高い頻度でメチル化が検出された。それに対し、長期間育成した個体では、解析した各領域において高い頻度でメチル化が検出された。Short interfering RNA (siRNA)の産生状態を遺伝子領域にわたり詳細に解析したところ、高い頻度でメチル化が検出されたエキソン2領域に対応するsiRNAが多く検出された。これらのことから、siRNAを介したDNAのメチル化が起き、それが遺伝子領域において広がり、転写抑制が起きたことが示唆された。研究の現状に基づき、エピジェネティックな変化を利用した育種の方策として、少なくとも低分子RNAを介したDNAの修飾による遺伝子発現の変化を誘導することが有効であるものと考えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
植物体の長期間の育成によってDNAのメチル化が起きる機構に関し、低分子RNAの産生との関連を見出した。当初予定していたランダムにエピジェネティックな変化を誘導することについては大きな進展はなかったものの、上記の結果から、遺伝子特異的なエピジェネティックな変化により特定の遺伝子の転写抑制が誘導される現象が説明づけられ、概ね当初の計画どおりに研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究における解析対象であった、特定の遺伝子のRNA分解からの復帰を示す植物材料は、少数の細胞において起きたエピジェネティックな変化を可視化できる点で、ユニークな解析系を提供するものと考えている。研究代表者はこのような復帰現象が植物体の育成期間に関連して起きることを見出しており、実際にエピジェネティックな変化が同一の植物個体を維持している過程で蓄積していくのか否かなど、今後の研究対象として大いに関心がある。最近、トランスポゾンのエピジェネティックな制御機構に関して提起されたモデルでは、第一にRNAポリメラーゼIIによる転写により生じたRNAに対する分解経路が作動し、これにより生じた低分子RNAを介したトランスポゾンのエピジェネティックな抑制が起きる。つづいて、この抑制状態がRNAポリメラーゼIV、Vを含むエピジェネティックな抑制経路へ移行することが言及されている。このようなエピジェネティックな抑制機構の変化が本研究で対象とした外来遺伝子の発現抑制においても起き得るものであるか否かは、今後の研究対象としての重要性を持つものと考える。
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Causes of Carryover |
解析機器は購入したものの、主に塩基配列の解析に係る費用を含む核酸の解析に要する費用が当初の予定より少なくなり、直接経費を節約できた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究精度をより高める目的で、次年度に追加の調査・解析を行うこととし、未使用額はその経費(研究補助員の雇用ならびに解析用試薬等の購入のための費用)に充てる予定である。
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