2013 Fiscal Year Annual Research Report
イネの次世代耐塩性品種育成に重要な組織耐性の生理機構の解明
Project/Area Number |
25292012
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
三屋 史朗 名古屋大学, 生命農学研究科, 助教 (70432250)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 植物 / イネ / 環境 / 耐塩性 / 生理機構 |
Research Abstract |
本研究では、イネの耐塩性向上を目指して、イネの耐塩性機構に重要な組織耐性の生理機構の解明を目的とした。本年度は、複数のイネ品種を土耕および水耕条件下で栽培して塩を処理することにより、組織耐性が実際に存在しイネの耐塩性に寄与するものなのか、また組織耐性にはどのような形質が関与しているのか、組織耐性の新規制について調べた。 はじめに、イネ品種IR29およびFL478を耐塩性の基準とし、多様な遺伝背景を持つ34のイネ品種を水耕栽培し、塩を施した。その結果、水耕を用いた場合は耐塩性を示す品種はすべてナトリウムイオンの吸収抑制を示し、組織耐性を示す品種は得られなかった。一方、フィリピンではDawなどの一部品種は組織耐性を示したことから、フィリピンと日本の環境の違いが、組織耐性の発現に関与したと考えられた。 次に複数品種のイネを土耕栽培し、分げつ期におけるイネの耐塩性に重要な形質の同定、および組織耐性の有無を調べた。その結果、塩存在下では分げつの数が減少し、それに伴って植物体全体の乾物生産が減少することが分かった。一方、耐塩性が比較的高い品種は、感受性品種と同程度地上部にNaイオンを蓄積した時の分げつ数の減少程度が抑制されることが分かった。これらの結果から、この分げつ数の塩感受性の違いがいわゆる組織耐性として植物体全体の耐塩性に寄与することが示唆された。 さらに東北大学生命科学研究科湛水生態系野外実験施設においてイネの複数品種を圃場条件において栽培し、分げつ期から登熟期までの塩ストレスが及ぼす収量への影響を調査した。その結果、分げつ期に分げつ数を維持した品種が、個体あたりの穂数を維持することにより収量も比較的維持するということが分かった。したがって、イネの耐塩性には、分げつの成育を塩存在下で維持することが重要であり、その分げつの成育自体が組織耐性として重要な形質であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度の研究計画のうち、特にイネの耐塩性における組織耐性を定義づけるという目的は十分達成できたと考えている。研究の当初、フィリピンの国際稲研究所で組織耐性を示した新奇イネ耐塩性品種DawおよびEratioを用いたところ、日本の温室という栽培環境下ではDawは組織耐性を十分に発現せず、耐塩性も十分に発揮されないことが分かった。そのため、さらに研究室に保持されていた複数のイネ品種を用いて、日本の栽培環境下で組織耐性および耐塩性を示す品種を選抜する必要が出た。組織耐性を示す新奇耐塩性イネ品種の選抜実験の結果、組織耐性を示し耐塩性を発揮する品種が複数選抜されたため、それらのイネ品種を用いて当初の目的に沿った実験を遂行することができた。当初研究計画のうち、特に植物体内における水ポテンシャルに関係するパラメータは本年度は調査しなかった。その理由として、耐塩性に重要な組織耐性の実態が、当初考えていたように葉の組織における細胞内水ポテンシャルの減少やナトリウムイオンの隔離よりもむしろ、分げつ茎の発生および光合成・蒸散の維持が重要であることが分かったため、分げつ茎数の維持の生理機構解明に注目した方がよいと判断したためである。しかし、大きく研究内容が変わることはなく、当初の計画目的に沿った実験を十分に行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、初年度に日本の栽培環境において組織耐性および耐塩性を示したイネ品種を用いて、イネの耐塩性における組織耐性の生理機構および生理的役割の解明を行う。また、塩存在下のイネの成育維持に重要な形質として、植物体全体における蒸散量を維持すること、その蒸散量の維持に分げつ茎の数または大きさが重要であることが分かったため、本年度の研究計画に、当初の研究計画にはなかった、分げつ茎に注目した研究計画を追加した。すでに分げつ数の塩感受性が異なる品種が得られたため、これらの品種を用いることで研究を推進したいと考えている。さらに、イネの耐塩性に重要な塩排除能と組織耐性は、独立した耐塩性機構であると考えていたため本研究では組織耐性に注目してきたが、初年度の研究において、耐塩性イネ品種がこれら2つの形質が相互作用して発現すること、具体的には分げつへの塩の流入を減らすことによって初期分げつ成育を盛んにし、さらに成育した分げつにおいて蒸散量を確保することが分かった。そこで、イネの耐塩性に重要な形質として、組織耐性だけではなく、塩排除能のメカニズムおよび組織耐性との相互作用についても加味して研究を行うことが重要であることが分かった。特に分げつにおける塩排除能や、分げつにおける塩濃度と蒸散量の関係などはまったくの未知であるため、品種を絞り、極めて短時間分げつを切除することによる影響を調べるなどして、効率的に研究を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
学術研究助成基金助成金の直接経費について、次年度使用額とした。その理由であるが、特に本年度当初計画の際に使用予定であった新奇耐塩性イネ品種が、フィリピンの気候では耐塩性を示したものの、日本の栽培環境下では十分に耐塩性を示さなかった。そこで本年度は、日本の栽培環境下で組織耐性を持ち耐塩性を示すイネ品種の選抜から行ったため、いくつか当初計画した研究が完全に終了することはできなかった。それらの研究は次年度にも研究を行い確認していく予定である。とくに本年度は、フィリピン国際稲研究所から提供されたイネ品種が、日本の栽培環境下でどのように成育を示すのかを調べる必要があったため、特に本年度は基礎的知見を得ることを優先し、さらに追加して調べることが出てきたため、次年度の研究計画に盛り込むことにした。 次年度は特に東北大学湛水生態系実験施設において多くのイネ品種を栽培し、収量に及ぼす塩処理の影響を調べる。その際、多くの助けが必要であり、その実験に予算が必要である。また、イネ耐塩性における組織耐性には、組織内でのナトリウムイオンの分布を調べる必要がある。その実験にはコロナグリーンなどの高価なナトリウムイオン標識蛍光色素などが必要であり、使用計画に入れている。また、組織耐性に重要な分げつ茎における蒸散速度などを調べるために必要な記録媒体などにも予算が必要であり、使用計画にいれている。
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Research Products
(9 results)