2015 Fiscal Year Annual Research Report
冬生一年草の生活史成立鍵因子である種子春化遺伝子の解明研究
Project/Area Number |
25292015
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Research Institution | Fukui Prefectural University |
Principal Investigator |
吉岡 俊人 福井県立大学, 生物資源学部, 教授 (10240243)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 種子春化 / 花成制御遺伝子 / 冬生一年草 / 生活史進化 / シロイヌナズナ / ヒメムカシヨモギ |
Outline of Annual Research Achievements |
種子春化は、可変性冬生一年草には認められるが真性冬生一年草では認められない形質である。一方、緑体春化は可変性冬生一年草、真性冬生一年草ともに認められる。したがって、種子春化は、近年分子機構の解明が進んだ緑体春化とは異なる経路で花成を誘導すると考えられる。平成26年度までの本課題研究で、可変性冬生一年草であるヒメムカシヨモギ(Erigeron canadensis)からマイクロビーズアレイで種子春化候補遺伝子ILS1を単離し、3'末端を含む部分鎖長384 bpの塩基配列を決定した。 平成27年度には、SMARTer 5’RACE法でヒメムカシヨモギILS1の全鎖長取得を試みて、5’ capを含むと考えられる661 bpの塩基配列を得た。ところが、この塩基配列の読み取り枠をシロイヌナズナ種子春化候補遺伝子に合わせると、翻訳開始点から間もない箇所に終始点が現われた。そのため、ILS1から正常なタンパク質が合成されるかどうかを検討する必要性が生じた。 そこで、ヒメムカシヨモギILS1塩基配列からプライマーを設計し、真性冬生一年草であるオオアレチノギク(Erigeron sumatrensis)ILS1のゲノムDNAおよびcDNAの全鎖長配列を読んでいるところである。ヒメムカシヨモギとオオアレチノギクのLS1遺伝子配列を比較して、ヒメムカシヨモギではスリップ複製等によって読み取り枠がずれるようなILS1遺伝子変異が生じているとすれば、ILS1タンパク質が合成されないことが、種子春化の形質発現を誘導すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度にヒメムカシヨモギILS1の全鎖長と考えられる661 bpの塩基配列を得た。当初計画では、全鎖長ILS1が取得できれば、ヒメムカシヨモギILS1遺伝子あるいはシロイヌナズナILS1様遺伝子をシロイヌナズナの種子春化機能喪失変異型株に導入し、種子春化の機能が相補されるかどうかを検討する予定であった。 ところが、この塩基配列の読み取り枠をシロイヌナズナ種子春化候補遺伝子に合わせると、翻訳開始点から間もない箇所に終始点が現われた。ヒメムカシヨモギではILS1タンパク質が合成されないことが、種子春化の形質発現を誘導するとも考えられる。そこで、種子春化の形質をもたたない真性冬生一年草であるオオアレチノギク(Erigeron sumatrensis)ILS1のゲノムDNAおよびcDNAの全鎖長配列を読んでいるところであり、シロイヌナズナへのILS1遺伝子の導入実験が未完了である。 また、遺伝子導入するシロイヌナズナは、当初、Col-0系統の種子春化機能喪失系統を用いる予定であったが、種子春化機能を有する系統が必要となった。これについては、シロイヌナズナ系統Wsが種子春化の形質を発現することを確認済みであり、準備が整っている。 以上の状況から、研究の進展がおよそ半年遅れていると自己評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
種子春化の形質をもたたない真性冬生一年草であるオオアレチノギクILS1の全鎖長配列を読み、ヒメムカシヨモギILS1遺伝子と配列比較する。ヒメムカシヨモギのILS1遺伝子に変異が生じている可能性が検証されれば、ヒメムカシヨモギではILS1タンパク質が合成されないことが種子春化の形質発現を誘導し、オオアレチノギクではILS1タンパク質が存在することで、低温による種子春化が抑制されると想定できる。 その後、オオアレチノギクILS1遺伝子およびシロイヌナズナILS1様遺伝子を、種子春化の形質を有するシロイヌナズナ系統Wsに導入して、ILS1過剰発現体を作成する。さらに、マイクロアレイあるいはRNA seqによって、低温および高温遭遇させたシロイヌナズナWs種子の発現誘導あるいは発現抑制遺伝子を網羅的に解析する。これらから、ILS1が種子春化を負に制御する遺伝子であることを確定する。 本研究の植物材料であるヒメムカシヨモギはAPGⅣ分類では真正キク類Ⅱに属する。APGⅣ分類真正キク類Ⅰであるリンドウ科トルコギキョウのILS1様遺伝子の部分鎖長300 bpの塩基配列はヒメムカシヨモギILS1と100%一致した。しかし、APGⅣバラ類のアブラナ科シロイヌナズナのデータベースを用いたBlast検索では、最上位でヒットするILS1様遺伝子のbit scoreは42であり、塩基類似度は必ずしも高くない。そこで、APGⅣバラ類からキク類に至る植物種におけるILS1様遺伝子の塩基配列類似度を比較し、ILS1遺伝子あるいは種子春化の機能がどのような進化段階で獲得されたかを検討したい。
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Causes of Carryover |
49,582円の未使用額が生じ、これを次年度使用額とした。これはHPLCの修理費に充てる予定であったものであるが、年度内の修理完了が難しくなったので、次年度へ持ち越したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
HPLCの修理を行い、それに充当する。
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Research Products
(1 results)