2015 Fiscal Year Annual Research Report
大容量塩基配列に基づくハダニ類の系統解析と近縁種の簡易識別法の開発
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25292033
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
後藤 哲雄 茨城大学, 農学部, 教授 (60178449)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 美穂 基礎生物学研究所, 形態形成研究部門, 特別研究員 (80548470)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ダニ・線虫管理 / 系統関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新規な着想である「ハダニ1個体をそのままPCRのテンプレートとしてPCR反応液に加え、PCR反応後に回収し、同定用標本とする」方法の開発に成功した。具体的には、ハダニの動きを静止させるために低温にしたPCR反応液にTetranychus属のハダニの雌成虫、または雄成虫を有柄針で1個体ずつ移し、そのままPCRを行った。主たるPCR領域としては、DNAバーコーディング領域かつハダニにおける増幅効率が悪いミトコンドリアCOI領域(約700bp)を選択したが、本方法では高い増幅効率を示し、明瞭なバンドが観察された。テンプレートとして用いたハダニを顕微鏡で観察したところ、同定形質である体毛に損傷がないことが確認できた。 従来、PCR法による簡易識別にはDNA抽出(約2時間)、PCRによる特定遺伝子の増幅(約3時間)、電気泳動による結果確認(約1時間)の3過程を要したが、本成果は最初のDNA抽出の過程を不要とし、簡易識別を容易かつ迅速とするものである。さらに、電気泳動に代わる迅速な結果確認手法として、PCRで増幅される二本鎖DNAを特異的に染色する方法を発案した。この目的に適した迅速な染色試薬を用い、1分間を要さずにCOI配列のPCRの結果確認が可能であることを示した。すなわち、本成果は簡易同定に要する過程を1過程に削減した。 同時に、本研究により得られたハダニ類の複数遺伝子由来の塩基配列に基づく系統樹は、現時点でほぼ完成しているが、いくつかの不明瞭な箇所が存在する。特にミトコンドリア遺伝子の結果については母系遺伝する共生微生物による影響が予想される箇所があるため、追加実験を行った上で、現時点で考え得るもっとも適切であると推定される系統樹に仕上げる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
簡易識別法に関する新たな手法を開発しており、当初の目標以上にスピーディに簡易同定ができることが分かった。また、系統関係に関する解析もほぼ終わっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はまず、ナミハダニ特異的かつ迅速なPCR系を確立するために、RNA-Seqによって得られている候補遺伝子の塩基配列から、近縁種間での塩基置換が豊富に存在する領域を絞りこむ。特に、SNP(一塩基多型)の特定を行い、得られた遺伝子情報を元にプライマーを作成してPCR反応系の樹立を試みる。この際、反応産物が700bp以上であれば、二本鎖DNA特異的な染色試薬を用いた高感度な検出が可能であるため、700bp以上の増幅を目標とする。ナミハダニ特異的な増幅が確認されたPCR系について、次の2つの方法で検出時間の削減を試みる。まず、高速な増幅が可能であるPCR酵素(例えばタカラバイオのZ-Taq)によるPCR条件を構築する。それに続けて、PCRのサイクル数を検出限界近くまで減らしていくことで、短時間(1時間程度を目標とする)でのナミハダニ同定が可能なPCR系を設立する。併せて、RNA-Seqで得られたデータから、マルチプレックスPCRに利用可能な遺伝子領域の情報を抽出・解析することを進めていく。さらに、多種類のプライマーの利用が可能な特殊酵素(例えばタカラバイオのMultiplex PCR Assay Kit Ver.2)の使用により、より検出力が高いマルチプレックスPCRを構築する。これらの結果に基づいて、ハダニ各種の簡易識別へと発展させ、最終的に全ての種の簡易識別法を提供できる予定である。
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