2013 Fiscal Year Annual Research Report
基幹的代謝の最適化に基づくオオムギの鉄欠乏適応機構の解明
Project/Area Number |
25292038
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
樋口 恭子 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (60339091)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴井 伸郎 独立行政法人日本原子力研究開発機構, その他部局等, 研究員 (20391287)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 鉄欠乏 / オオムギ / 代謝 / 光合成 |
Research Abstract |
鉄欠乏に強いオオムギ品種エヒメハダカNo.1、鉄欠乏に弱い品種シロハダカおよびカイリョウオオガラで、部位ごとのC/N比を比較したところ、エヒメハダカNo.1の下位葉および根では鉄欠乏時にC/N比が顕著に上昇した。これは鉄欠乏時の下位葉の老化促進と根からのムギネ酸大量分泌と矛盾しない。13Cトレーサー実験および15Nトレーサー実験により、鉄欠乏エヒメハダカNo.1の下位葉に固定された炭素と窒素は1週間から2週間にわたって根に優先的に分配されていた。一方11Cトレーサー実験により、下位葉に同化直後の炭素の分配は鉄欠乏の影響を受けないことが明らかになった。また鉄欠乏時に老化関連遺伝子の発現が早まることが分かった。これらの結果から鉄欠乏に強いオオムギでは下位葉の老化を促進し生体成分を分解して根や上位葉に分配することで鉄欠乏に適応していると考えられる。 鉄欠乏オオムギの下位葉では老化が促進されるが、老化が目視できるようになるまでは鉄十分オオムギと同等の光合成速度を維持していることが分かった。したがって老化の進行を制御して、代謝を異化に傾けつつ同化反応も活発に行っていると考えられる。同化と異化のバランスを制御する分子として知られているSnRK1リン酸化酵素複合体のサブユニットをコードする各遺伝子の発現パターンを解析したところ、鉄欠乏に強いオオムギ品種エヒメハダカNo.1では、鉄欠乏により地上部でSnRK1リン酸化酵素複合体の遺伝子発現が上昇し、根では減少していた。また老化関連遺伝子の発現が鉄欠乏により上昇するのに先立ち、機能未知のレセプター様キナーゼの発現が上昇することが分かった。これらシグナル伝達系の分子により、鉄欠乏オオムギの代謝が調節されていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
鉄欠乏オオムギの炭素と窒素の動態、およびその鉄欠乏適応への貢献度を明らかにし、その成果の一部は論文として受理された。 代謝の制御系に関わる分子についてはクローニングとmRNA蓄積パターンの解析が終了した。 機能未知のレセプター様キナーゼについてはその生理機能を推定するため、その遺伝子をイネに導入し恒常的に発現するようにした形質転換イネを作成した。
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Strategy for Future Research Activity |
鉄欠乏オオムギにおける代謝を調節するシグナル伝達機構の具体的な分子とその機能、および鉄欠乏適応に対する貢献度を明らかにする。具体的には、特徴的な生理現象について鉄欠乏耐性の異なる品種間で比較し、耐性との相関を検討する。 鉄欠乏適応時の代謝における葉の役割を、葉の発達段階ごとに明らかにし、オオムギが鉄欠乏条件下でも成長を継続する機構を明らかにする。
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