2015 Fiscal Year Annual Research Report
森林昆虫ー共生微生物の共進化と温度反応及び気候変動から予測される動態予測
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25292082
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
久保田 耕平 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (30272438)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 森林昆虫 / 共生微生物 / 冷温帯林 / ルリクワガタ属 / 酵母 / 共進化 / 遺伝子解析 / 高温耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では森林昆虫、特に冷温帯林に生息する昆虫を対象とし、それらの分化・多様化のプロセスを解析し、進化的重要単位の提唱を行う。また、昆虫の共生微生物の分離を試み、共生微生物の温度適応・高温耐性と系統関係を解析し、昆虫との共進化の有無を検討する。さらには、昆虫種の詳細な分布情報、環境データを利用して、多くの種の分布適地を推定し、環境データの操作により、過去の分布状態の再現、将来気候変動が進行した場合の分布予測を行う、等の目的を設定している。 本年度は、ルリクワガタ属について、RADシーケンス解析用サンプル収集を完了し、日本産全分類群を含むサンプルの試料調整を完了した。また、これまでに収集した韓国産種の遺伝子解析も100サンプル以上行った。日本産ルリクワガタ属に関しては、環境要因から分布適地を推定する解析も進めており、種によって推定精度に差があることも明らかになりつつある。共生酵母に関しては、ホストのクワガタとともに遺伝子解析を進めて共進化過程の概要がより明確になった。また、共生酵母の高温耐性に関する培養実験もさらに進み、共生酵母の系統および生息標高の制約を受けていることがより鮮明となった。野外のホスト材にデータロガーを設置して温度変化を測定し、ホスト材の夏季の温度が培養実験における共生酵母の高温限界温度を超えないことも確認した。また、共生酵母とホストクワガタ幼虫との親和性について、複数種の共生酵母に晒した場合、飼育温度によって幼虫体内で優占する酵母の種類が入れ替わることが明らかになった。 その他の分類群でも遺伝子解析、形態解析によって、関東地方のグンバイムシ科、ヒメフナムシ属の中で、隠蔽種と思われる個体群の存在が認められた。 また、オオオサムシ亜属、オオトラフハナムグリ種群、アリガタハネカクシ属の遺伝子解析等、前年度までに行った解析を含め、多くの論文が投稿準備中となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
主たる材料として想定されていたルリクワガタ属に関しては、多くの新規知見が得られ、当初の目的のかなりの部分が達成された。これらは多くの個体群から共生酵母株も得られており、酵母の遺伝子解析や培養実験から今後発展的な研究が期待される。RADシーケンス解析は本年度の予定から次年度に先送りとしたが、すでに試料の調整は完了しており、解析の遅れはまもなく回復できる予定である。その他の分類群に関しても基礎的な解析や情報の収集が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ルリクワガタ属に関しては、韓国、中国の研究者とも連携を取りつつ、東アジア全体での多様化、共生微生物との共進化、今後の進化動態の予測に取り組んで行く。また、他の分類群に関しても国内を対象に遺伝子解析、進化動態予測を進めて行く予定である。
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Causes of Carryover |
ルリクワガタ属のRADシーケンス解析に関して、サンプル収集は順調に進んだ。しかし小型の昆虫であるため、解析用試料に十分なDNA量と純度を確保するための調整に手間取り、試料の準備が予定より遅れてしまった。おおむねこの解析に使用する金額が次年度使用額となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
すでに試料の準備は完了しており、ただちに次世代シーケンサーによるRADシーケンス解析を発注できる状態になっている。次年度当初に使用できる見込みである。
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