2013 Fiscal Year Annual Research Report
トランスクリプトームとエネルギー代謝から紐解くマングローブの生態ニッチ決定機構
Project/Area Number |
25292091
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
渡辺 信 琉球大学, 熱帯生物圏研究センター, 准教授 (10396608)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 智美 独立行政法人国立環境研究所, その他部局等, 研究員 (80435578)
光田 展隆 独立行政法人産業技術総合研究所, その他部局等, 研究員 (80450667)
門田 幸二 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (60392221)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 植物生態生理 / マングローブ |
Research Abstract |
調査地を当初予定していた沖縄県八重山郡西表島の船浦湾から変更し、より河川規模と流域面積が大きい同島仲良川流域に生育するマングローブ林に本研究の調査プロットを設置した。調査地変更による利点は、長い河川流域に沿って分布するマングローブ林を対象とすることで、潮汐作用による塩分濃度、湛水頻度といった水環境の違いに対応したマングローブ樹種毎の生態ニッチの差がより明瞭になることである。このことにより必要な情報シグナルをノイズから分離する効果が期待できる。 仲良川流域の上流から下流まで湛水頻度が異なる河岸に生育するマングローブ林分を24カ所選定し、それぞれの場所に5m×5mの調査プロットを設置した。プロット毎に地盤高を測量した後、導電率、水位をロガーにより連続測定し、プロット毎の湛水頻度及び塩類ストレス強度を算出した。また樹木位置、樹種名、樹高、胸高直径を測定し、それぞれの林分成長を把握した。更に積算光量、光質、葉面積指数を測定し、基本的な光環境情報を収集、窒素化合物を中心とした土壌の化学性調査も行った。以上の野外調査により本研究に必要なプロットの基本的な環境因子と林分状況を把握する為のデータを得ることが出来た。 オヒルギ、ヤエヤマヒルギ、メヒルギの胎生種子を、自然環境における主要な環境ストレス因子を再現した人工環境下で栽培し、それぞれの樹種の生重量変化、発芽、発根を調べ、それぞれの樹種の自然生態系におけるニッチの確立との関係を解析している。栽培実験の最後に無酸素呼吸、エチレン合成、糖代謝、塩類ストレス耐性に関与する遺伝子群の発現と酵素活性について調べる。 主要なマングローブ樹種であるヤエヤマヒルギのギガシーケンス用RNA試料の調整が完了したが、メヒルギのRNA試料が一部調整できなかったため、再度室内栽培からの調整を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度の本研究の作業内容は、野外調査、栽培実験、次世代シーケンサーによるRNA-Seqで構成されている。野外調査、栽培実験は概ね順調な進捗状況だが、次世代シーケンサーによるRNA-SeqのRNA抽出工程で、材料の一つであるメヒルギ根系から抽出したRNAの品質が次世代シーケンサーのレギュレーションを満たすことが出来ず、シーケンスを進めることが出来なかった。そのため本研究の達成度をやや遅れていると評価した。現在は今年3月に採取したメヒルギの胎生種子を栽培し、新たなRNAの調整を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に研究対象河川に沿って分布するマングローブ林に設置した全24プロットの環境測定を実施する。今迄に測定した環境因子データと併せ、各々のプロットの光環境、水環境、塩分環境、林分構成を総合的に解析する。これ以外に以下の調査及び実験を実施する。 ■野外調査:マングローブ樹種毎の群落レベルの光合成を把握する為に、窒素含量を光合成特性の指標とした光ー光合成関係のモデリングを行う。 ■栽培実験:春から秋の間に研究対象である3種のマングローブ樹木の胎生種子をフィールドで採取し、栽培実験に供する。トランスクリプトーム及びリアルタイムPCR解析の為に、高塩類濃度、湛水頻度、光強度を各々数段階に設定し、複数の条件を組み合わせた状態で栽培を行い、葉、根を主な分析用試料として採取、もしくは非破壊的な各種測定を行う。対象となるのは以下の遺伝子である。光合成に関係するカルビン回路関連遺伝子群、糖代謝に関係するスクロース合成関連遺伝子群、耐塩性に関係するNa+/H+アンチポーター及びH+-ATPase関連遺伝子、無酸素呼吸に関係するアルコール発酵関連遺伝子群、乳酸発酵関連遺伝子群、通気層形成に関係するエチレン合成関連遺伝子群。 ■次世代DNAシークエンスによるRNA-seq、プロファイリング、トランスクリプトーム解析:樹種毎に乾燥、湛水、高塩類濃度、高温(40℃)、低温(8℃)、強光、弱光条件で栽培した植物体から葉と根を採取し、通常栽培の植物から採取した花、蕾、葉、茎、根を加え、プロファイル作成用試料とする。機能遺伝子プロファイルを作成するために、次世代DNAシークエンサー、Illumina HiSeq2000でRNA-seqを行う。得られたコンティグの相同性をオープンソースで検索、アノテーション付けし、マングローブ樹種毎の機能遺伝子プロファイリングを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次世代シーケンサーによるRNA-SeqのRNA抽出工程で、材料の一つであるメヒルギ根系から抽出したRNAの品質が次世代シーケンサーのレギュレーションを満たすことが出来ず、シーケンスを進めることが出来なかった。そのためトランスクリプトーム解析を行うことが出来ず、従って分担研究者に配分していた旅費が使用されずに次年度使用額が生じた次第である。 平成26年度は予定通りシーケンスを実施し、分担研究者と相談及び議論をしながらトランスクリプトーム解析を進める予定である。
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