2015 Fiscal Year Annual Research Report
干潟のメイオベントスと粘土鉱物の多様性に着目した環境修復生態学の提唱
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25292113
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
豊原 治彦 京都大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (90183079)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡邉 哲弘 京都大学, その他の研究科, 助教 (60456902)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | セルラーゼ / セルロース / 湿地帯 / 干潟 / バイオリアクター |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではこれまでに湿地帯における難分解性多糖類、特に地球上の有機物の80%を占めるといわれるセルロースの分解過程を研究してきた。研究当初はバクテリアやカビなどの微生物が分解に主力となっていると予想していたが、抗生物質で微生物の増殖を抑制しても高レベルの分解活性が長期間にわたって維持されたこと、また1mm以下の小型無脊椎動物であるメイオベントスをすべて除去してもこれらの生物に由来する酵素によって分解が進んでいることが明らかとなった。これらの結果は湿地帯に生息する微生物や無脊椎動物によって体外に分泌された酵素が土壌成分に吸着して非生物的な一種の土壌バイオリアクターとして機能していることを示唆していた。自然界においてこのような土壌バイオリアクターが機能していることを証明する目的で、田中川河口干潟(三重県)においてヤマトシジミ由来酵素に注目し、調査を行った。その結果、ヤマトシジミが生息する土壌中にヤマトシジミ由来酵素が土壌に吸着してバイオリアクターとなって機能していることを、酵素的手法ならびに抗体を用いた免疫学的手法により証明することができた。ヤマトシジミ由来のセルラーゼ土壌中のどのような成分に吸着しているのかを知る目的で土壌成分を比重により分画したところ、多くは植物残渣からなる有機物質に吸着していることが分かったが、粘土分や金属酸化物への吸着も認められた。ヤマトシジミ由来のセルラーゼが植物成分に吸着することを確認する目的で、水槽で飼育したヤマトシジミが実際にセルラーゼを体外に分泌するのか、また分泌されたセルラーゼが植物の主要成分であるセルロースに吸着するのかを検討したところ、明らかに吸着することを酵素学的ならびに免疫学的に証明することに成功した。またこれらの成果を基に人工的な土壌バイオリアクターシステムの構築を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
湿地帯におけるセルロース分解に関する研究の結果明らかとなった土壌バイオリアクターシステムの環境修復への応用を目的として、全国各地から集めた土壌に加えエビ養殖場ならびに市販のろ過材計22種類について、酵素吸着能を調べた。用いた酵素源として将来の養殖場などでの利用を考慮し、安心安全の観点から各種食品由来のものを、エビ餌の分解能を指標に比較検討した。その結果、タイの伝統的発酵食品であるガピ由来の酵素が最も強いアミラーゼならびにプロテアーゼ活性を示した。そこで、これらの酵素を用いて上記22種の土壌成分に対する吸着のを比較検討した結果、北海道の十勝山系に属する標茶(しべちゃ)から採集した土壌が、アミラーゼならびにプロテアーゼ両方に対して極めて強い吸着能を示した。 標茶土壌が高い酵素吸着能を示す理由を知る目的で標茶土壌の成分分析を行ったところ、他の土壌と比較して結晶構造に組み込まれていない非晶質アルミニウムの含有量が高いことが分かった。土壌中では非晶質アルミニウムは空気酸化により酸化アルミニウムとして存在していると考えられる。このことを証明する目的で、酸化アルミニウムとガピ由来のアミラーゼ及びプロテアーゼを反応させることで作製した人工バイオリアクターのエビ餌の分解能を検討した。その結果、24時間以内に約70%のたんぱく質が、また72時間以内に85%のデンプンが分解されることを認めた。 これらの結果から金属酸化物、特に酸化アルミニウムに注目したバイオリアクターを用いることで高性能なバイオリアクターの作成が可能であることが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の結果、特にヤマトシジミ由来酵素に注目した研究から、天然条件下で土壌バイオリアクターが機能していること、飼育条件化で土壌バイオリアクターが再現できることを、及び酸化アルミニウムなどの金属酸化物が酵素吸着に重要な役割を果たしていることを明らかにすることができた。そこで、本年度は、酵素分子のどの部分が土壌吸着に機能しているのか、及び酸化アルミニウム以外の金属酸化物に強い控訴吸着能を有するものがないか、について特に重点をおいて研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
環境修復生態学の創出を目的とし、土壌バイオリアクターシステムを利用した環境負荷の少ない水産養殖のモデルとして、今後、重要性が高まると予想される陸上養殖システムを考案したが、ポンプ等の動きを制御するためのプログラム制御システムの開発に時間を要したため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新たにプログラムを開発し、コンピューター制御された陸上養殖システムを用いて、環境負荷の少ないサステイナブルな養殖を提案し、同システムを用いた養殖による土壌バイオリアクターシステムによる有機物分解能を評価する。
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[Journal Article] 有機物分解能に優れた高機能土壌バイオリアクターの開発2015
Author(s)
劉文、西垣内祐太、荒木誉之、李学広、渡邉哲弘、Wituspong Salikupt, 汐見浩二、豊原治彦
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Journal Title
Nippon Suisan Gakkaishi
Volume: 81
Pages: 81-89
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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