2014 Fiscal Year Annual Research Report
スルメイカの季節発生群の再生産の成否が影響する資源変動機構の解明
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25292117
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
桜井 泰憲 北海道大学, 水産科学研究科(研究院), 特任教授 (30196133)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 潤 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 助教 (10292004)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スルメイカ / 再生産仮説 / 気候変化 / 生涯1回産卵 / 卵塊の中層浮遊 / ふ化幼生 / 初期餌料 / 資源変動予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
気候変化に応答するスルメイカの季節発生群ごとの再生産―加入過程の成否を通した資源変動の解明と,各季節発生群の生活史・回遊モデルを構築し,今後の海洋環境の寒冷―温暖レジームシフト,将来の温暖化シナリオに依拠した生活史・回遊の変化,および資源動向の予測手法の確立を目的としている.具体的には,本種の再生産仮説をより強固な仮説とするため,卵塊からのふ化幼生の離脱遊泳過程,水温躍層水槽内での産出卵塊の挙動,これまで全く不明なふ化幼生の初期餌料の探索と幼生の育成,寒冷―温暖レジームシフトと温暖化シナリオに適用できる季節別発生群ごとの生活史・回遊モデルの構築,GIS解析と統計的手法によって季節発生群ごとの再生産―加入過程の成否の定量的評価を行い,過去の資源変動との照合による予測精度の確認,そして温暖化シナリオに対する資源動向の予測手法の確立を目指している. H26年度は,スルメイカの再生産仮説をより強固な仮説とするため,函館国際水産・海洋総合研究センターの約220トンの大型飼育実験水槽を用いて,本種の交接・産卵行動,卵塊からのふ化幼生の離脱遊泳過程,水温躍層水槽内での生存に不適な高水温に対するふ化幼生の行動と生残過程,これまで全く不明なふ化幼生の初期餌料の探索と幼生の育成を実施した.15個体の雌が18個の卵塊を産み,そのサイズは,15-80cm,小型卵塊を産むと再度産卵して死亡するが生涯1回産卵を確認した.さらに,卵塊が水温躍層より上層の適水温帯に滞留すること,底に沈むと全卵が死亡すること,加えてふ化の発達ステージ,ふ化幼生が有機けんだく物を最初の餌とする可能性など,多くの新知見を得ることができた.また,この再生産仮説による直近の資源予測を行い,2013年度の産卵場のGISマップを用いて,2014年度の資源動向を高精度で予測できることに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H26年度は,スルメイカの再生産仮説をより強固な仮説とするため,函館国際水産・海洋総合研究センターの約220トンの大型飼育実験水槽を用いた飼育観察実験が可能となった.このような飼育実験は,国内外でも例がなく,初めての試みであった.例えば,水深4.5mの表層半分を22℃,下層を17℃とした水温躍層の再現に初めて成功した.さらに,昼夜の照明方法の改良,壁に衝突して死亡しない工夫など,試行錯誤しながら確立することができた. 結果として,本種の交接・産卵行動,この間の個体間の行動の詳細と卵塊からのふ化幼生の離脱遊泳過程の映像を記録できた.また,水温躍層水槽内での産出卵塊がその躍層に滞留することを確認できた.例えば,何らかのストレスで小さな卵塊を産んだ場合は,その後摂餌して再び大型卵塊を産んで死亡し,1回で大型卵塊を産む雌は,数日以内に死亡すること,卵塊が水槽底まで沈んだ場合は,次第に卵塊が崩壊し,卵塊内の卵がすべて死亡することを確認できた.これは,本種の卵塊が実際の産卵場でも中層に滞留することが,再生産の絶対条件であることを検証できた.さらに,中層に卵塊を網でくるんで留め,卵塊からのふ化幼生の発育ステージを確認した結果,Stage31ー32であることを,初めて確認した.また,ふ化幼生はすべてが表面近くまで上昇遊泳して,水面近くに滞留することも確認できた.もっとも大きな成果は,スルメイカ類では,ふ化後は内卵黄を消化吸収する4-5日以内で死亡するとされていた.今回は,大型水槽内に,卵塊の残渣,自然海水を注入して粒子けんだく物(POM)と有機けんだく物(DOM)が豊富な条件下で粗放的に幼生を育成した.その結果,ふ化後10日まで生存しており,明らかにこれらのけんだく物を最初の餌とする可能性を見出すことができた.これは,スルメイカ類では,世界で初めての成果である.
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度が,本研究の最終年度であり,本研究の目的である「気候変化に応答するスルメイカの季節発生群ごとの再生産―加入過程の成否を通した資源変動の解明と,各季節発生群の生活史・回遊モデルを構築し,今後の海洋環境の寒冷―温暖レジームシフト,将来の温暖化シナリオに依拠した生活史・回遊の変化,および資源動向の予測手法の確立」に向けた最後の研究に取り組む.特に,申請者が提案していたスルメイカの再生産仮説は,今回の大型水槽での再検証によって,より強固な仮説にすることができた. これを用いた,寒冷―温暖レジームシフトと温暖化シナリオに適用できる季節別発生群ごとの生活史・回遊モデルの構築,GIS解析と統計的手法によって季節発生群ごとの再生産―加入過程の成否の定量的評価を行い,過去の資源変動との照合による予測精度の確認,そして温暖化シナリオに対する資源動向の予測手法の確立を目指す. 特に,H26年度の飼育実験で,スルメイカふ化幼生の初期餌料がPOMあるいはDOMである可能性が得られたため,より長期間の育成実験を遂行する.本種は,外套長4-5mmから融合触腕が親と同じ一対の触腕となり,甲殻類を摂餌できるようになる.つまり,外套長1mmのふ化幼生から4mm未満の摂餌と成長がブラックボックスのため.この間の育成実験,胃内容物のPCR解析によるバクテリア,原生動物を含む餌種の解明に取り組む. さらに,北大練習船「おしょろ丸」に搭載する新型ROVを用いて,GISによって推定した産卵場において,中層の密度躍層上層に滞留すると推定されるスルメイカ卵塊を探査する.加えて,外套長4mm未満の幼生を採集し,胃内容物のDNAを調べ,有機けんだく物捕食の実態を明らかにする.
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Causes of Carryover |
平成26年度からの飼育実験では,昨年6月に供用を開始した函館国際水産・海洋総合研究センターの大型水槽を使用している.この大型水槽の使用に際して,施設使用料は減免されているが,平成27度から海水使用料並びに光熱水量が派生する.平成26度は,函館市の支援もあり,8月までの水槽使用料は減免されていた.しかし,平成27年度は減免がないため,大型水槽を7月から11月まで使用した場合,その水槽使用料が生ずる.そのため,平成27年度の水槽使用料に繰り越した.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度の函館国際水産・海洋総合研究センターの大型水槽では,前年度に成功したスルメイカの長期飼育,その間の交接・産卵行動,産出卵塊の水槽内保持,ふ化幼生の初期餌料探索などを実施し,大きな成果を得ることができた.平成27年度は,この水槽でふ化幼生の育成を行い,発育に伴う初期餌料の探索,幼生の行動特性,群れ行動の発現,光などの外部刺激に対する反応行動など,これまで未知の研究に取り組む.そのため,大型水槽を7月から11月まで使用するため,この大型水槽の光熱水費並びに海水使用費に使用する.
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Research Products
(10 results)