2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
25292127
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
中尾 実樹 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50212080)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杣本 智軌 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (40403993)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 魚類 / 栓球 / 免疫 / 血液凝固 / 白血球 / 食細胞 / 貪食活性 |
Research Abstract |
栓球は哺乳類以外の脊椎動物に存在する、血液凝固に関わる血球である。本研究では、栓球が生体防御において果たす役割を明らかにするため、コイをモデル生物として用い、各魚種の栓球を特異的に認識するモノクローナル抗体を用いて栓球を標識し、その機能を解析した。 まず、外来異物のモデルとして蛍光ビーズ、大腸菌を投与したin vitro貪食試験では、栓球による活発な異物の取り込みが認められた。この栓球による異物の取り込みは、温度、培養時間、細胞伸長の阻害剤の影響を顕著に受け、補体の結合によるオプソニン化によって促進される等、既知の典型的な食細胞と同様なメカニズムによるものであることが確認された。その一方で、これらの栓球の異物取り込みは、単離した栓球ではほとんど認められず、他の白血球の存在下もしくはその培養上清の添加によって誘起されたことから、免疫系における栓球と他の免疫細胞との密接な相互作用が示唆された。 コイ生体に直接ビーズを注射したin vivo貪食試験では、末梢血中、脾臓、腎臓でビーズを取り込んだ栓球が観察された。特に末梢血中では実際にビーズを取り込んだ白血球の半数近くが栓球であったことから、生体内に侵入した異物の除去に栓球が大きく貢献していることが示唆された。 さらに、異物取り込み後の栓球による異物分解、殺菌活性の検出を試みた。異物を取り込んだキンギョおよびコイの栓球では、取り込んだビーズや菌体の周囲にlysosomeと考えられる酸性の細胞小器官が集合・融合し、phagolysosomeを形成することが、lysosome標識蛍光色素を用いた顕微鏡観察によって確認された。さらに、コイ栓球に大腸菌の生菌を加え培養、貪食させると、栓球内に取り込まれた生菌数が経時的に減少したことから、栓球は異物の取込みのみならず、殺菌能をも備えた機能的に完全な食細胞として機能することが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、外来異物のin vitro貪食試験では、栓球による活発な異物の取り込みが認められた。この栓球による異物の取り込みは、細胞の積極的な活性であり、補体の結合によるオプソニン化によって促進される等、既知の典型的な食細胞と同様なメカニズムによるものであることが確認された。注目すべきことに、これらの栓球の異物取り込みは、単離した栓球ではほとんど認められず、他の白血球の存在下もしくはその培養上清の添加によって誘起された。すなわち、栓球の食作用活性は、これまでに報告されている食細胞(マクロファージ、好中球、B細胞)とはことなり、他の白血球依存的な活性であることが本研究で初めて示唆された。 この食作用は、生体内でも有意な程度機能していることが、コイ生体に直接ビーズを注射したin vivo貪食試験で明らかとなった。つまり、末梢血中、脾臓、腎臓でビーズを取り込んだ栓球が観察された。特に末梢血中では実際にビーズを取り込んだ白血球の半数近くが栓球であったことから、生体内に侵入した異物の除去に栓球が大きく貢献していることが示唆された。 さらに、異物取り込み後の栓球による異物分解、殺菌活性の検出を試みた。異物を取り込んだコイの栓球では、取り込んだビーズや菌体の周囲にlysosomeと考えられる酸性の細胞小器官が集合・融合し、phagolysosomeを形成することが、lysosome標識蛍光色素を用いた顕微鏡観察によって確認された。さらに、コイ栓球に大腸菌の生菌を加え培養、貪食させると、栓球内に取り込まれた生菌数が経時的に減少し、栓球の殺菌能が初めて証明された。 以上のように、本年度の研究成果は、当初目標とした栓球の詳細な機能解析を達成しており、さらに予期しなかった栓球機能に関する新知見を得ることもできた。
|
Strategy for Future Research Activity |
栓球の貪食が、栓球単独では起こらず、他の白血球からの刺激による活性化を必要とすることが判明したので、この分子メカニズムを早急に解明する必要がある。また、本研究で栓球が血液凝固と貪食のdual roleを持つことが明らかとなったが、栓球は両機能を同時に果たすことができるのか、あるいは何らかの刺激によってどちらかの機能に特化するように分化を遂げるのかは不明なままである。 これらの問題は、栓球が魚類の生体防御のなかで果たす役割とメカニズムを理解するために解決すべき重要な点である。そこで次年度は、各種活性化栓球の遺伝子発現をRNAseq法を用いて網羅的にかつ精密に解析し、各種活性化反応に鍵となる分子の特定を急ぐ。また、タンパク質レベルでもプロテオーム解析を行い、栓球が異なる活性化状態に達するために鍵となる因子を特定する。これらの実験を遂行するためには、セルソーターおよび次世代シーケンサーが必須となるが、幸い、九州大学大学院農学研究院には共通利用機器として両機器が使用可能となっているで、これらを活用する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
栓球の発現遺伝子解析について、計画当初は従来型のEST解析を予定していたが、農学研究院に配備された次世代シーケンサーによるRNAseq法が極めて有効であることが判明したので、このRNAseq法を適用するための予備的な実験をH25年度に進めた。実際のRNAseq法の実施はH26年度となるために、そのための予算をH26年度に持ち越すこととした。 RNAseq法に必要な高額なRNA精製キット、配列決定用試薬キットなどの購入に充てる。また、H26年度実施予定のプロテオーム解析のための試薬にも、H26年度補助金と合わせて使用予定である。
|