2014 Fiscal Year Annual Research Report
気象環境の変化がイネの水分動態と生育に及ぼす影響とアクアポリンの役割
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25292152
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Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
桑形 恒男 独立行政法人農業環境技術研究所, 大気環境研究領域, 上席研究員 (90195602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 圭介 独立行政法人農業環境技術研究所, 大気環境研究領域, 主任研究員 (20549555)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 農林水産物 / 農業生産環境 / イネ / 植物水分生理 / アクアポリン |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 昨年に引き続き、蒸散要求量の変化が、栄養生長期におけるイネの水分動態(蒸散量、水分状態など)と生育(乾物重、地上部/地下部の分配比など)に与える影響を調べた。これまでの予備実験などで得られた結果を整理し、形質が異なる2品種を対象とした新たな実験を開始した。 (2) 蒸散要求量がイネの根の通水コンダクタンスに与える影響を調べた結果、蒸散要求量の増加が根の通水コンダクタンスを高めている可能性が示された。また、イネの通水機能の変化を支配しているアクアポリン分子種を特定するために、根に発現する全アクアポリン分子種を対象に、遺伝子発現量の蒸散要求量による変化を調べた。根に特異的に発現しているPIP2;4やPIP2;5などの分子種の遺伝子発現量が、日々の蒸散要求量と高い正の相関を持つ一方で、蒸散要求量との関係が無相関や負の相関となる分子種も見いだされた。 (3) 前年度に引き続いて、蒸散要求量が群落レベルの光合成速度と気孔開度に与える影響を調べた。同じ晴天日でも早朝に曇天条件となっている日には、日中の気孔コンダクタンスが低く抑えられる可能性があることが、一部のデータから示唆された。根に特異的に発現するアクアポリンの遺伝子発現量が早朝の蒸散要求量と正の相関を持つことと整合性のある結果であるが、不確定な要因も存在し、さらなる詳細な検討が必要である。蒸散要求量による気孔開度や光合成の変化を支配している、葉内のアクアポリン分子種の候補を特定するために、異なる蒸散要求量の下で取得した葉サンプルを対象に、アクアポリンの遺伝子発現量の分析を開始した。 (4) 昨年度に引き続き、植物の吸水-蒸散・光合成モデルに関わる文献を調査した。それらの文献による調査結果と、これまでに得られている実験結果などに基づいて、アクアポリンによる通水機能の変化を考慮したイネの吸水-蒸散・光合成モデルの基本構造を決定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者、研究分担者ならびに連携研究者が手分けをして、以下の4つのサブ課題に取り組んだ。各サブ課題とも、年度初めに予定していた内容をほぼ実施することができ、おおむね順調に進展していると判断される。 サブ課題のタイトル: (1) 蒸散要求量の変化がイネの水分動態と生育に与える影響の解明 (2) 蒸散要求量の変化が通水機能に与える影響と関連アクアポリンの特定 (3) 蒸散要求量の変化が気孔開度と光合成に与える影響と関連アクアポリンの特定 (4) アクアポリンによる通水機能の変化を考慮したイネの吸水-蒸散・光合成モデルの構築
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 蒸散要求量の変化がイネの水分動態と生育に与える影響の解明:蒸散要求量の変化がイネの水分動態(蒸散量、水分状態など)や生育などに与える影響について、品種間差と窒素栄養状態の違いを考慮して評価する。今年度は、これまでの研究ならびに本研究によって得られた結果を取りまとめ、蒸散要求量の変化がイネの水分動態と生育に与える影響の解明を目指す。 (2) 蒸散要求量の変化が通水機能に与える影響と関連アクアポリンの特定:蒸散要求量の変化がイネの根の通水コンダクタンスに与える影響を、プレッシャーチャンバーなどを用いて調べる。蒸散要求量の変化が根の形態におよぼす影響についても考慮し、蒸散要求量がイネ植物体の通水機能に与える影響を解明する。地上部と地下部に発現した、通水機能との関連性が指摘される全アクアポリン分子種を対象とした、遺伝子現量の蒸散要求量による変化にもとづいて、イネの通水機能を支配しているアクアポリン分子種を特定する。 (3) 蒸散要求量の変化が気孔開度と光合成に与える影響と関連アクアポリンの特定:前年度に引き続いて、蒸散要求量の変化が気孔開度と光合成に与える影響について、屋外ならびに人工気象室における測定データに基づいて調べる。アクアポリン発現量の蒸散要求量による変化等の測定結果を考慮することで、蒸散要求量による気孔開度や光合成の変化を支配している、葉内のアクアポリンの分子種の候補を特定する。 (4) アクアポリンによる通水機能の変化を考慮したイネの吸水-蒸散・光合成モデルの構築:昨年度に決定したモデルの基本構造に基づいて、(1)~(3)で得られた各プロセスの結果を定量化し、イネの吸水-蒸散・光合成モデルを構築する。水田長期フラックス観測サイトのイネ生育・蒸散量・光合成データなどを用い、蒸散要求量と窒素条件の変化に着目して、モデルの検証と入力パラメータの調整を行う。
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Causes of Carryover |
昨年度から2年間、研究費を効率よく使用した結果として、残額として次年度使用額が発生した。次年度は本研究課題の最終年度にあたることから、研究計画の遂行と取りまとめのために、次年度の研究費と合わせて使用する。次年度は、データ分析&取りまとめのための人件費や、イネ実験資料の遺伝子分析のための委託経費などに、多くの予算の出費が見込まれる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の予算の使用用途として、実験や分析のために必要な「旅費」(つくばから盛岡にある東北農業研究センターに出張・滞在するための経費、打ち合わせのための旅費も含む)や「人件費」(実験補助やデータ分析&取りまとめのための補助員あるいは契約研究員の雇用経費)、「物品費」(実験に使用する備品、消耗品)、ならび「その他」(イネ実験資料の遺伝子分析のための委託経費、論文投稿に必要な経費など)を計画している。
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