2013 Fiscal Year Annual Research Report
養育行動の分子基盤~Usp46変異マウスを活用して~
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25292186
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
海老原 史樹文 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (50135331)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高田 耕司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30179452)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マウス / 脱ユビキチン化酵素 / 児童虐待 / モデル動物 |
Research Abstract |
(1)細胞内機能に関する研究:エピソーマル発現ベクターpEBMulti-Hygにヒト野生型USP46または変異型USP46(ΔK92)の各遺伝子を組み込み、続いてそれらの上流にFLAG遺伝子を挿入した。その後、ハイグロマイシンBでの選択培養を継続したところ、FLAGペプチドと融合した野生型またはΔK92型USP46を安定的に発現する2種類の細胞株が得られた。これらの培養細胞を用いて、免疫沈降及びLC-MS/MS解析を行ったところ、複数の細胞内タンパク質が見出され、標的分子の候補として現在分析を進めている。 (2)脳内中枢機序に関する研究:Usp46KOマウス(レポーター遺伝子としてLacZ遺伝子)を利用してUsp46の発現部位を特定するとともに、内側視索前野(MPOA)における養育刺激によるc-Fosタンパク質発現を検討した。その結果、Usp46は海馬,扁桃体をはじめ様々な領域で発現していることが分かった。また、養育刺激によるc-Fosタンパク質の発現については、KOマウスと野生型で差は見られなかった。 (3)行動表現型に関する研究:Usp46変異マウスと正常マウスを用いて里親交換実験を行い、成長後の養育活動が育ての親によりどのように変化するかを検討した。その結果、変異マウスに育てられた正常マウスで養育活動が悪くなり、正常マウスに育てられた変異マウスでは正常に近くなった。また、ストレス負荷によりUsp46変異マウスの養育活動が低下すること、養育行動テストにおいて、一旦養育行動が悪くなったマウスは何度でも同じ傾向を示すことが分かった.さらに、GABAに関連する様々な行動を調べ、Usp46はGABA系に関連する様々な行動に影響することが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)細胞内機能に関する研究 これまでの検討から、USP46の標的分子を検索するためにはタグペプチドで標識したUSP46を安定発現するex vivoの細胞培養系が必要であり、その構築は最重要課題に位置付けられていた。しかし、当初の検討では、神経モデル細胞に外来遺伝子を導入すること自体が困難であったため、HeLa細胞やHEK293細胞での予備検討を進めた。その後、遺伝子導入のための試薬と条件を至適化することで目標としていた神経モデルSH-SY5Y細胞のFLAGペプチド融合USP46安定発現株が確立された。また、同細胞を用いた一連の実験を通じて、実際に標的分子の候補が得られ、USP46の細胞内機能を探る手掛かりが得られた。 (2)脳内中枢機序に関する研究及び行動表現型に関する研究 児童虐待のモデルマウスとしてUsp46変異マウスの可能性を検討しているが、これまでに、この変異マウスは児童虐待の特徴とされる(1)世代間連鎖、(2)ストレス脆弱性、(3)虐待の継続性の三つの特徴を全て備えていることを明らかにした。また、様々な行動試験を行いUsp46変異マウスの様々な行動変容を把握すると共に、免疫組織学的手法によりUsp46の脳内発現部位を特定した。さらに、Usp46がGABA神経系に影響することを突き止めた。以上の経過から、現在までの達成度は、おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)細胞内機能に関する研究 FLAGタグ融合野生型(またはΔK92型)USP46を安定発現するSH-SY5Y細胞を用いた免疫沈降によって同定された複数種のタンパク質に関しては、それらの細胞内の量や局在がUSP46によって制御されるか、同様の培養細胞を用いたUSP46の過剰発現系およびsiRNA-発現抑制系で解析する。また、必要に応じて、こうした一連の解析をマウスのNeuro2a細胞ならびにATRA等で分化誘導した両細胞においても進め、USP46の標的分子のリストアップを進める。さらにUSP46と標的分子の細胞内機能を解析するため、それらの量や活性に依存して変動する細胞内タンパク質をプロテオミクスによって同定し、データをパスウェイ解析に供する。また、蛍光カルシウムプローブを用いて細胞内Ca2+の挙動に対する影響を分析する。これらの結果を総合的に評価することでUSP46-標的分子系と神経機能に関する作業仮説を構築する。 (2)脳内中枢機序に関する研究及び行動表現型に関する研究 Usp46がGABA系を介して養育活動に影響する可能性が出てきた。そこで、この点について薬理学的手法などを用いて検討する。また、GABA系の異常の部位を特定するために、GABA受容体のサブユニットの発現解析をおこなう。これらの結果を踏まえた上で、USP46脱ユビキチン化酵素がどのような機構によりGABA系に影響を及ぼし、ひいては行動異常を引き起こすかを検討する。最終的には、上記(1)のin vitroと(2)のin vivoの研究成果の両面からのアプローチにより、Usp46が制御する養育行動の細胞内及び神経制御機構を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Usp46ノックアウトマウスのGABA受容体サブユニットやAMPA受容体のmRNAが大きく変化していることが明らかとなり、USP46脱ユビキチン化酵素の転写に及ぼす影響を網羅的に解析する必要が生じてきた.予算を一部繰り越し理由は、ノックアウトマウス組織の必要量サンプリングが次年度になるためである. (1)Usp46が及ぼすmRNA発現への影響の検討 ノックアウトマウスと野生型マウスの海馬や嗅球組織を採取し、マイクロアレーにより網羅的にmRNAの発現を調べる.差の見られたmRNAについてqPCRなどで確認後、変化のあった遺伝子に共通する転写因子などについて検討する.これにより、USP46脱ユビキチン化酵素のターゲット分子が特定できる可能性がある.
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