2014 Fiscal Year Annual Research Report
凍結下における植物細胞の生体膜ダイナミクスと凍結耐性機構
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25292205
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上村 松生 岩手大学, 農学部, 教授 (00213398)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 植物 / 環境応答 / 凍結耐性 / 凍結観察 / 生体膜ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
1.ERの凍結動態の一般性について 12月から3月初旬までの冬期においてセイヨウハコヤナギの枝を用いて、ER凍結動態の観察を試みた。放射柔組織を凍結下で観察したところ層状の構造物が観察されたが、それ以外の組織では明確な凍結後の変化は観察できなかった。次に、冬期のセイヨウハコヤナギの細胞では、20℃に3時間以上置いてもERは小胞状かつ静止したままであった。そこで冬期の野外から草本類3種、木本類から常緑樹2種および落葉樹3種選び、20℃におけるERの形態および動態について観察を行った。その結果、草本類では20℃の観察では、冬期のサンプルであってもERはフィラメント状で活発に動いている様子が観察された。一方、木本類の場合、落葉樹および常緑樹関係なく、葉を含むどこの組織においてもERは小胞状かつ静止したままであった。 2.新規凍結顕微鏡観察系の開発 平成25年度に完成した新規の凍結顕微鏡観察系では、これまでより高解像度での凍結観察が可能となったが、サンプルを安定的に冷やすには、作動距離1mm程度の20倍レンズ(0.75NA)が限界である事が明らかとなった。そこで新規の凍結顕微鏡観察系をさらに発展させるためいくつかの試作を行った。その結果、サンプルからレンズまでを温度制御できるジャケット付きビーカー内に入れる観察系が、最も温度を安定的に制御できることが分かった。少なくとも現時点で植物個体丸ごと凍結しながら共焦点顕微鏡観察が出来ることを確認した。 3.細胞内カルシウム動態観察系の開発 細胞内カルシウムの低温および凍結動態を行うため、カルシウムセンサー蛍光タンパク質であるYC3.6を発現するシロイヌナズナ植物、および、カルシウム蛍光試薬であるFluo-4 AMなどを使用し検討した。その結果、蛍光試薬では安定した結果を得ることが難し事が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度も昨年度と同様、おおむね計画通りに、1)蛍光マーカータンパク質を発現する変異体植物の作成、2)ER凍結動態の一般性についての解析、 3)ER凍結動態の詳細な解析、4)細胞内カルシウム動態観察系の開発、に関し研究が進められた。しかし、その一方で、平成25年度に完成した新規の凍結顕微鏡観察系の限界が明らかとなり、当初予定には無かった観察系のさらなる改良が必要となった。また、冬期に草本類および木本類を数種含めた野外サンプルを用いてERの動態について解析を行ったところ、凍結前の段階で草本類と木本類で大きな違いが観察された。常温における観察は当初予定の観察では無かったが、ER凍結動態の意味を理解するために必要と判断し時間をかけて解析を行った。以上の理由のため、平成26年度にはさらに行う予定であった細胞膜、細胞膜マイクロドメインおよびアクチンフィラメントの凍結動態観察にかける時間が無く平成27年度に行う課題とした。しかし、これらの観察も、改良された観察系により予定以上の情報が得られることが期待できる。以上を総合判断して、現在までの達成度は“おおむね順調に進展している”とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.細胞膜およびERの凍結動態の一般性について 昨年度は、冬期に木本植物を数種含めた野外サンプルを用いてERの凍結動態などについて観察及び解析を行ったところ、興味深い現象が捉えられた。本年度は、元々の予定にはない計画であるが細胞膜およびERの凍結動態一般の性質を理解するために、季節変化に伴う様々な植物サンプルでの凍結動態の変化を観察し、解析を行う。 2.細胞膜、ERおよびアクチンフィラメントの凍結動態の詳細な解析 平成25年度に完成した新規の凍結顕微鏡観察系では、これまでより高解像度での凍結観察が可能となったが、昨年度はさらにこの系を発展させ、植物体から切片などを作らずに個体そのものを凍結及び観察できるようになった。本年度はこの系を用いて植物体を傷つけずに、ERおよびアクチンフィラメントの凍結動態の同時観察や、細胞膜マイクロドメイン領域の凍結動態観察を試みる。 3.凍結による細胞内カルシウム濃度変動とその影響 カルシウムセンサー蛍光タンパク質であるYC3.6を発現するシロイヌナズナ植物を使用し、細胞内カルシウム濃度変化を凍結前後および凍結中において解析する。また、シロイヌナズナ以外の植物においても蛍光試薬Fluo4-AMを使用することにより細胞内カルシウム濃度変化の解析を試みる。膜の凍結動態と細胞内カルシウムの影響カルシウムと膜動態との同時観察を行い、その中で興味深い現象が観察されたら、薬理的方法、例えばカルシウムであればガドリニウムなどのチャンネルブロッカーや細胞内カルシウムキレート剤であるBAPTA-AMなどを使用して、凍結動態との関連性を検討する。また、カルシウムとアクチンとの同時観察や薬理的実験も行う。
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