2015 Fiscal Year Annual Research Report
凍結下における植物細胞の生体膜ダイナミクスと凍結耐性機構
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25292205
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上村 松生 岩手大学, 農学部, 教授 (00213398)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 植物 / 環境応答 / 凍結耐性 / 凍結観察 / 生体膜ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
1.細胞内凍結動態の一般性:様々な季節で、木本および草本の複数の植物を用いて観察を試みた。木本類で小胞体を室温で観察したところ、細胞内に広がっているものの季節を問わず流動性はかなり低いものであった。一方、草本類では発達したネットワーク構造や高い流動性が観察され、常温における小胞体動態が木本類と草本類とで大きく異なった。セイヨウハコヤナギについては、凍結耐性が十分に上昇している2月において凍結動態の観察を試みたが、ネギで観察されたような凍結に伴う大きな構造変化は観察されなかった。草本植物についてはキクイモを含む双子葉類3種について3月から4月にかけて凍結観察を行ったところ、凍結に伴う小胞体の小胞化現象は見られなかったものの、流動の停止に関してはどの植物でも観察された。次に、葉緑体の自家蛍光によりその凍結動態観察を試みた。木本草本どちらの場合でも、組織により凍結前では活発な動きが観察されたが、これらの動きは凍結と共に停止することが確認された。アクチンフィラメントに関しては、ABD2-GFP を発現するシロイヌナズナを用いて凍結観察を試みたところ、凍結前ではフィラメントの活発な動態が観察されたが、これらも凍結とほぼ同時に停止することが確認された。 2.細胞内カルシウム動態観察:カルシウムセンサー蛍光タンパク質であるYC3.6を発現するシロイヌナズナ植物を用いて、低温および凍結下における細胞内カルシウム動態を観察できる系を開発した。また、個体観察が可能な新規の凍結顕微鏡の実験系と組み合わせ、植物体を傷つけずにカルシウムの凍結動態を観察したところ、凍結と同時に細胞内カルシウムが上昇し、また、20分程度の観察内ではあるが、その状態が維持され続けることが確認された。他の植物でもカルシウム動態が観察できるように、昨年度から引き続きカルシウム蛍光試薬の検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度も昨年度と同様、おおむね計画通りに、1)小胞体を中心とした細胞内凍結動態の植物における一般性、2)E細胞内カルシウム動態観察、に関し研究が進められた。細胞膜マイクロドメインの凍結動態に関しては全く出来なかったものの、凍結前後において葉緑体の細胞内動態の様子を木本を含む複数の植物および組織で観察できた。この葉緑体動態観察は当初の予定には無かったものの、小胞体とは異なる動態を示しただけでなく多くの植物で観察できたためより細胞内の凍結動態の様子が明らかとなった。細胞内オルガネラの動態はアクチンフィラメント動態と密接に関係しているため、同時観察が非常に重要となるが、平成27年度はアクチンフィラメント単体での凍結観察しか出来なかった。しかし、変異体の掛け合わせもしくは蛍光試薬の利用による同時観察の系は出来ているので、これらの観察は平成28年度に問題なく遂行できると判断している。非破壊で個体そのものを凍結顕微鏡観察できる系は出来たものの、構造上、今のところ10倍以上のレンズを使用することが難しい状態ではある。しかし、シロイヌナズナだけではあるが,この観察系を用いることにより非破壊で細胞内カルシウムの凍結動態の観察に成功し、より信頼性のある凍結下における情報が得られた。以上を総合判断して、現在までの達成度は“おおむね順調に進展している”とした。
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Strategy for Future Research Activity |
1.細胞内凍結動態の一般性:平成27年度は、様々な季節の木本植物を数種含めた野外サンプルを用いて、複数の組織において小胞体および葉緑体の凍結動態などについて観察及び解析を行ったところ、興味深い現象が捉えられ、また、その共通の性質も明らかになりつつある。平成28年度は引き続き、小胞体および葉緑体の凍結動態を野外試料に関しては1年を通して、また、単子葉植物に関してはまだ観察数が少ないのでライムギおよびカラスムギを加えて観察し、解析する予定である。 2.シロイヌナズナ変異体を用いた細胞内オルガネラの凍結動態観察:シロイヌナズナのみではあるが、ABD2-GFPを発現する変異体を中心とした実験系で、アクチンフィラメントと小胞体もしくは葉緑体の凍結動態の同時観察も試みる。細胞膜マイクロドメイン領域の観察には、マイクロドメインに局在するDRP1E-GFPを発現する植物を用いて、その凍結動態観察を行う予定である。また、非破壊で個体そのものを凍結顕微鏡観察できる系は今のところ10倍以上のレンズを使用することが難しい状態ではあるが、現在、より高倍率で観察できるように改良中であり、この系を用いて小胞体、葉緑体およびアクチンフィラメントを非破壊で凍結観察する予定である。 3.細胞内カルシウム動態観察:平成27年度に引き続き、カルシウムセンサー蛍光タンパク質であるYC3.6を発現するシロイヌナズナ植物を使用し、細胞内カルシウム濃度変化を凍結前後および凍結中において詳細に解析する。また、シロイヌナズナ以外の植物においてもいくつかの蛍光試薬を検討し、凍結前後における細胞内カルシウム濃度変化の解析を試みる。次に、オルガネラおよびアクチンフィラメントの凍結動態と細胞内カルシウムの凍結動態との同時観察を行い、その中で興味深い現象が観察されたら薬理的方法によりその関連性を検討する。
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Causes of Carryover |
年度末に研究補助員の雇用にかかる保険料率が改訂となり、未使用額が生じたため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品等に繰り入れる
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