2013 Fiscal Year Annual Research Report
細菌の共生による害虫の農薬抵抗性化:農薬分解菌はどこから来て、どう選択されるのか
Project/Area Number |
25292208
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | National Institute for Agro-Environmental Sciences |
Principal Investigator |
早津 雅仁 独立行政法人農業環境技術研究所, その他部局等, 研究員 (70283348)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
多胡 香奈子 独立行政法人農業環境技術研究所, その他部局等, 研究員 (20432198)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 農薬分解 / 農薬耐性 / フェニトロチオン / 有機リン系殺虫剤 |
Research Abstract |
これまでに我々が農耕地土壌から分離した有機リン系農薬(フェニトロチオン)分解細菌と産総研のグループが分離したカメムシ消化管に共生する細菌(非農薬分解菌)は、近縁な分類群に属することが示された。そこで産総研と共同研究を行い、我々が分離したフェニトロチオン分解細菌を、ダイズの難防除害虫ホソヘリカメムシの体内に共生させ、フェニトロチオン抵抗性になるという新規な現象を発見した。本研究では農薬分解細菌の土壌中における存在量と多様性および農薬分解能に関する特徴を総合的に解析し、土壌からカメムシへの移行経路を明らかにすることを目的とした。 害虫カメムシが消化器にフェニトロチオンを分解するBurkholderia属細菌を共生させることによって殺虫剤に対する抵抗性を獲得することを実験的に示した。一方で、Brkholderia属分解菌を共生させたカメムシが実際に沖縄県南大東島のサトウキビ畑で見つかった。このことからサトウキビ畑土壌に存在する分解菌の多様性と菌数とそこに占めるカメムシ共生分解菌の割合を調査した。その結果、土壌中にはフェニトロチオンを分解するBurkholderia属細菌が多数・多様に存在し、そのうち限られた種がカメムシに共生している可能性を示した。 さらに感染特性と分解菌の性質を明らかにするためマイクロコズム実験で得たBurkholderia属の分解菌8株を用いて性質を検討した。分解菌はフェニトロチオン資化性菌で、既存の分解菌と同様の代謝経路を有していた。また分解菌の増殖速度やKm値とVmaxは多様であった。また分解菌のフェニトロチオンに対する親和性(Km値とVmax)が、分解菌が土壌で優占するために重要であることを示した。以上から、カメムシの感染能力は分解能ではなく系統分類的な違いが重要であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目的は農耕地におけるフェニトロチオン分解能を有するBurkholderia属細菌の多様性と菌数の解析およびこれらの農薬分解菌の増殖と群集構造の形成メカニズムについて検討し明らかにすることである。各項目について当初計画している実験を実施し目的の成果を得た。具体的には下記に示した。 1)フェニトロチオン分解能を有するBurkholderia属細菌の菌数と多様性を土壌マイクロコズム実験により明らかにし、個々の分解菌の分解特性からKm値とVmax値が多様性形成に重要であるという結論を得た。 2)実際にフェニトロチオン分解能を有するBurkholderia属細菌と耐性カメムシが発生している農耕地を見出し、現場における調査を行いBurkholderia属細菌の多様性と菌数を調べた。その結果、土壌中のBurkholderia属細菌がカメムシに移行していることを明らかにした。さらにBurkholderia属細菌特異的PCRプライマーを設定しメタゲノム解析を行った。 以上、計画通りに進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
土壌中に存在するBurkholderia属細菌の全体像を解明しつつある。即ちBurkholderia属細菌特異的PCRプライマー設定と次世代シーケンサーによる分析条件を確立して、大規模なメタゲノムデータを得られるようにした。さらにメタゲノムデータの解析パイプラインを構築し、分解能と多様性の関係性を系統的発生との関係から見出すように効果的にメタゲノムデータを使用する。 一方、個別菌の解析が重要であることもマイクロコズム実験で明らかにした。代表的な分解菌については、ゲノム解析を実施し、分解酵素や分解代謝系などの情報を得て、個別菌の情報に基づいた多様性形成機構や優先種決定機構の解明に役立てる。 特に分解菌群集の解析では数理生物的解析が有効と思われるので、その分野の研究者の助力を得て、分解菌多様性機構をシミュレーションする実験に着手する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現地での調査が5月下旬に行いそのときのサンプルの調製等に時間を要したため、次世代シーケンサーの稼働回数が予定よりも少なかった。また微生物の分離作業が中心となり、遺伝子解析等の高額試薬の使用が次年度にずれ込むことにより、平成25年度分の予算執行が予定より少なく次年度使用額が生じた。 平成26年度は、次世代シーケンサーを複数回稼働する。さらに分離菌の遺伝子解析等において高額試薬の使用が多くなる予定であり、これらにかかる経費を支出する。また一連の遺伝子解析作業では、熟練のテクニシャンを雇用し、効率的に実験を進めるために、賃金を支出する予定である。以上により適正な予算執行を計る。
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Research Products
(2 results)