2013 Fiscal Year Annual Research Report
統合失調症の病態におけるKv9.3カリウムチャンネルサブユニットの重要性について
Project/Area Number |
25293247
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
橋本 隆紀 金沢大学, 医学系, 准教授 (40249959)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
戸田 重誠 金沢大学, 大学病院, 講師 (00323006)
吉原 亨 金沢大学, 子どものこころ発達研究センター, 助教 (00401935)
上田 なつ子 (辻野 なつ子) 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構, 助教 (40432166)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 脳神経疾患 / 死後脳研究 |
Research Abstract |
統合失調症の大脳皮質では、周期性皮質活動γオシレーションの形成を担うパルブアルブミン陽性の介在ニューロンの機能変化が、認知機能障害に関与していると考えられる。カリウムチャンネルサブユニットKv9.3は、パルブアルブミン陽性介在ニューロンに特異的に発現し、その電気生理学的特性を規定することで、γオシレーションの形成に関わる。我々は本研究に先立って、Kv9.3 mRNAの発現レベルが統合失調症の前頭前野において有意に低下していることを見出した。 本年度は、統合失調症で認められたKv9.3 mRNAの低下への抗精神病薬の影響を調べるために、ハロペリドール、オランザピン、プラセボの経口投与を1年以上行ったオスの成体サルの前頭前野においてKv9.3 mRNAの発現を評価した。各条件につき6頭ずつのサルの前頭前野から2枚の組織切片を作成し、in situ hybridization法にて前頭前野の46野におけるKv9.3 mRNAの発現を検出し定量した。その結果、ハロペリドール、オランザピン、プラセボの投与を受けたグループの間で、kv9.3 mRNAの発現レベルには有意な変化は認められなかった(F(2,10)=0.4, P=0.66)。 また、Kv9.3 mRNAの発現低下をタンパク質レベルで確認するために、ヒトの前頭前野組織からタンパク質サンプルを抽出し、4種類のKv9.3に対する抗体を用いてWestern blotを行った。しかし、予想される56kDaの分子量に相当する位置には陽性のバンドは検出できなかった。また、4種類の抗体で検出される陽性バンドの位置は抗体間で異なっていた。 以上の結果から、統合失調症で認められたKv9.3 mRNAの低下は、抗精神病薬の長期投与の結果ではなく、病態を反映している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
抗精神病薬の長期投与の影響の評価は予定通りに行うことができたが、Kv9.3 タンパク質のWestern blotによる検出と定量に困難が生じている。 Kv9.3 サブユニットのノックアウトマウスの作成は、当初はカリフォルニア大学デービス校のKnockout Mouse Project (KOMP)に委託しておこなっていた。KOMPでは胎児性幹細胞に、ノックアウトのための遺伝子断片を化学的に行っているが、この方法を複数回試みても、遺伝子導入に成功しなかった。そこで、遺伝子導入に同大学のMouse Biology Project(MBP)にて行われている電気穿孔法をもちいることを勧められ、MBPに委託先を変更した。その結果遺伝子断片の導入には成功したが、ノックアウトマウスの作成に遅れが生じた。
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Strategy for Future Research Activity |
Kv9.3タンパク質の解析については、人のサンプルでは死後のタンパク質分解などの問題がありWestern blotによる解析の確立が難しい可能性がある。そこでまずマウス脳から調整したタンパク質サンプルでKv9.3タンパク質の検出定量を確立することを目指す。これは、ノックアウトマウスにおけるKv9.3タンパク質の発現量の評価にも役立つと考えられる。 ノックアウトマウスの作成については、現在はKv9.3遺伝子がノックアウトされた胎児性幹細胞の染色体数の確認中であり、今後は胚盤胞への注入、キメラマウスの作成、生殖細胞に移行したマウスの交配によるヘテロマウスの作成のステップを経て、10か月ほどでノックアウトマウスの作成が完了する予定である。ノックアウトマウスを入手し次第、コロニーの樹立とKv9.3サブユニットの発現レベルの評価を行い、その後の解析に備える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
マウスにおけるKv9.3遺伝子(KCNS3)ノックアウトのための胎児性幹細胞への遺伝子導入を、カリフォルニア大学デービス校Knockout Mouse Project(KOMP)において、複数回試みたがいずれも失敗した。そのため、同大学同校の別の組織であるMouse Biology Project (MBP)で行っている電気穿孔法を利用した遺伝子導入をおこなうことにした。しかしそのためには予定よりも多くの費用が必要となり、当初予定していた物品の購入をとりやめて、カリフォルニア大学デービス校MBPにマウスの作成を委託した。MBPでのノックアウトマウスの作成に対しては、すべての費用を一括して支払うのでははく、数段階のステップごとに、進捗状況を確かめながら支払う方式をとっている。平成25年度では胎児性幹細胞への遺伝子導入と遺伝子型の決定までのステップに対し費用を支払ったため、残りのステップに支払う費用が残った。 平成26年3月時点で胎児性幹細胞への遺伝子導入と遺伝子型の決定が成功している。今後は、Kv9.3遺伝子(KCNS3)がノックアウトされた胎児性幹細胞を胚盤胞に注入し、キメラマウスの作成、そしてノックアウトマウスの作成と進む予定である。本年度の残額はすべて今後のノックアウトマウス作成の費用の一部となる。
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