2014 Fiscal Year Annual Research Report
発達中の脳における麻酔薬の神経毒性に関する包括的研究
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25293331
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Research Institution | National Defense Medical College |
Principal Investigator |
風間 富栄 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 医学教育部医学科専門課程, 教授 (40158837)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 泰司 防衛医科大学校(医学教育部医学科進学課程及び専門課程、動物実験施設、共同利用研究, 病院, 講師 (10505267)
照井 克生 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (90256074)
神尾 陽子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, その他部局等, その他 (00252445)
鈴木 康之 独立行政法人国立成育医療研究センター, その他部局等, その他 (60179265)
遠藤 昌吾 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), その他部局等, その他 (60192514)
中田 隆博 石川県立看護大学, 看護学部, 准教授 (40273932)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 麻酔 / 神経発達 / 臨界期 / 細胞内情報伝達 / ERK / 神経毒性 / 自閉症 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在臨床で広く用いられている全身麻酔薬は、脳機能への不可逆的な影響は無いとして使われてきた。しかしながら近年、動物実験の結果から、小児期、胎児期などでは長期的には認知・精神機能が悪影響を受ける可能性が指摘されている。小児の外科手術において全身麻酔は不可欠なものであり、小児臨床医療への影響の大きさを考えると、この問題の解決が喫緊の課題である事は論を待たない。当該研究では動物実験から臨床応用を視野に入れた、臨床応用可能な対処法の開発やヒトでの疫学調査を含む包括的な研究を行い、小児麻酔の安全性の向上を目指すことを大きな目的としている。当該年度は、病態の分子メカニズムに着目して研究を進めた。その結果、発達期の脳においては麻酔薬によって酸化ストレスが増大し、さらに細胞外情報シグナル伝達キナーゼ(ERK)のリン酸化阻害が大きく阻害されることが分かった。発達期マウスにおいてERKのリン酸化を薬剤によって抑制しても麻酔薬の毒性の大部分を再現できることから、ERKリン酸化の阻害が毒性メカニズムに大きく関わっていると思われる。この結果の一部は学術論文として報告した(Yufune et al., Sci Rep, 2015 in press)。これらの基盤研究を基に、当該研究では臨床応用可能な対処法として水素の抗酸化作用に着目した治療法の開発研究を行っている。我々はマウスを用いた実験によって、分子状水素ガスは麻酔薬の動性を劇的に減少させることを過去に報告したが(Yonamine et al., Anesthesiology, 2013)、当該年度はその分子機構を詳細に解析した。その結果、分子状水素ガスは麻酔薬による酸化ストレスを軽減すると共に、ERKリン酸化の阻害を抑えることを見出した。これらの知見は分子状水素ガスの臨床応用に向けた重要な情報となると思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の4つの計画(①行動レベルでの病態解明、②短期間内での臨床応用実現を視野に入れた対処法の開発、③分子レベルでの麻酔薬の神経毒性メカニズムの解明、④ヒトにおける副作用の解析及び治療戦略の検討)の内、当該年度は、主に②及び③を遂行した(①については初年度に実行した)。②については我々が過去に報告した、水素ガスを用いた毒性軽減法(Yonamine et al., Anesthesiology 2013, 10.1097/ALN.0b013e318275146d)を基に、分子状水素ガスの臨床応用に備えての各種試験を行った。その結果、麻酔器の部品の中に分子状水素ガスに耐久性が無いものが存在することや麻酔ガス存在下では水素濃度測定機器に若干の不具合が出ることが判明したが、水素供給回路の改良によって解決した。③については、麻酔薬曝露と酸化ストレス、ERKリン酸化との関係を解析した。その結果、発達期の脳においては麻酔薬曝露によって酸化ストレス及び小胞体ストレスを惹起し、それと共にERKのリン酸化が阻害されることが分かった。発達期のマウスにおいて、ERKのリン酸化を阻害する薬剤を用いても麻酔薬の毒性がほぼ再現できることから、ERK経路が麻酔薬の神経毒性メカニズムと大きく関わっていることが判明した。この結果の一部は雑誌にて発表した(Yufune et al., Scientific Reports, 2015 in press, doi: 10.1038/srep10252)。④については、現在アンケートを対象者に送付中であり、回収後に解析、統計処理する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
動物実験では、今後特に病態の分子メカニズムの解明に特に力を入れる。当初計画では水素の抗神経毒性効果を検証するため、臨床研究の前にサルを用いて解析をする予定であったが、水素の安全性は既に他分野の多くの臨床研究において十分確立されているため、サルを用いた実験の必要性が乏しくなり、サルを用いた実験を省略してマウスを用いた実験終了後に臨床実験に移行することとした。動物実験については順調に進んでいるが、疫学調査は未だに解析が始まっていないので、今後研究を加速する必要がある。疫学調査は対象数が多いため効率的な解析が必要である。
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Causes of Carryover |
動物実験用に購入予定だった行動実験装置を既存の機器の改造で補うことができたため、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今回生じた次年度使用額を活用して、顕微鏡の更新に充当する予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] 神経発達とセボフルラン2015
Author(s)
佐藤泰司、湯舟晋也、風間富栄
Organizer
日本麻酔科学会第62回学術集会
Place of Presentation
神戸ポートピアホテル(兵庫県神戸市)
Year and Date
2015-05-28 – 2015-05-30
Invited
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