2015 Fiscal Year Annual Research Report
医療関連感染バーデン減少のための患者手指衛生推進戦略の構築
Project/Area Number |
25293438
|
Research Institution | The Japanese Red Cross Hiroshima College of Nursing |
Principal Investigator |
岡田 淳子 日本赤十字広島看護大学, 看護学部, 准教授 (40353114)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
深井 喜代子 岡山大学, 保健学研究科, 教授 (70104809)
前田 ひとみ 熊本大学, その他の研究科, 教授 (90183607)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 手指衛生 / 患者 / 環境表面 / 看護ケア / 医療関連感染 |
Outline of Annual Research Achievements |
患者の手指衛生について医療従事者の関心は低く,患者の手指は汚染されたままのため,感染源になる可能性がある。しかしながら,患者の手指衛生が感染防御となり得ることを証明するだけのエビデンスは不足しているため,看護師のケアによって患者から看護師への細菌伝播を確認した。患者の手指から検出された主な細菌はブドウ球菌群計12種で,患者の環境表面からは患者の手指と同じブドウ球菌群18種が検出された。看護師の手指からは患者の環境表面と同じ3種が検出された。菌量は対象物によって異なり,患者の手指から最も多く検出された。また,患者への検温の場面における看護師の平均接触頻度は,身体が14.2±16.2回,環境表面が11.1±10.8回であった。すなわち,患者の手指と環境表面に多くの細菌が存在しているが,看護師が患者に看護ケアを実施する場合,看護師の手指には主に患者の環境表面から細菌は伝播されていた。この結果は,同一施設のサンプルで数が少ないため,証明には至っていない。 そこで,新たに地域包括ケア病棟を有している300床の総合病院で実施した。対象は一般病棟に勤務する看護師25名と,対象看護師が調査日に担当した患者で手洗い場へ自力で移動できない25名とした。看護師が患者に看護ケアを提供する検温の場面に参加し,ビデオ撮影によって看護師の手指が患者と患者の環境表面に接触する実態を明らかにした。看護ケア前後の看護師の手指と患者の手指およびベッド柵・床頭台・ナースコールなどの環境表面はeスワブ480C○R(Copan Italia S.p.A)を用いて拭き取り検査を行い,培養・同定検査を実施した。さらに,「看護師」「患者」「環境」のうち2者で共通したグラム陰性菌とMRSAが分離された場合に薬剤感受性試験を実施し,MIC(最小発育阻止濃度)1管差までを同一とみなして検討した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
看護師の手指と患者の手指および患者周囲の環境表面で検出された菌種のうち3者が一致したのは14事例であった。看護師と患者の手指の一致は1事例,看護師と環境表面の一致は4事例であった。主な分離菌は,Staphylococcus属が最も多く,Enterococcus属,Bacillus属,Enterobacter属,Klebsiella属等であった。看護師や患者の手指から分離された細菌は環境のベッド柵,オーバーテーブルと多く一致しており,前回の調査結果と同様であった。看護師の手指衛生は流水石鹸手洗い後に速乾性手指消毒剤を使用する方法としていたが,半数は流水石鹸手洗いのみであった。前者のほうが明らかに手指への付着菌種と菌量は減少し,患者からの伝播も減少していた。 患者への検温の場面における看護師の平均接触頻度は,身体が56.88±44.63回,環境表面が31.36±30.71回であった。検温における看護師の病室滞在時間は326.04±177.23秒で,滞在時間が長いほど患者や環境表面への接触回数は有意に増加していた(p<0.05)。前回調査した急性期病院と比較すると,滞在時時間に差異はないが接触頻度が2倍を超えていた。これは,患者の介護度の違いや看護業務を細分化する内容が施設によって異なっていたことが影響したと思われ,看護師と患者間の微生物伝播は施設の特徴によって異なる可能性が示唆された。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果から,患者の手指や環境表面から看護師の手指に病原微生物が伝播する過程は,看護ケアに要する時間が長いほど患者や環境表面への接触回数は多くなり細菌を伝播しやすくなることが明らかになった。同時に,看護師が速乾性手指消毒剤を用いて適切に手指衛生を遵守すれば,看護師の手指付着した細菌は容易に除去することが可能になり,伝播される菌量も減少することができていた。しかしながら,看護師の手指衛生が徹底されても,患者自身に付着している細菌量は減少できないことから内因感染や,多床室の場合,患者間で伝播する可能性は否定できなかった。 そのため今後は,患者の手指衛生が感染症発症率に影響を及ぼす可能性を確認するために,病原菌の存在を確認できた病棟を対象に,患者の手指衛生を徹底的に実施する。そして,通常の看護ケアを実施した時期と患者の手指衛生を強化した時期で,感染症発生率を比較する。その際,専従の感染管理認定看護師の協力を得て実施する。
|
Causes of Carryover |
平成27年度は複数の施設でデータ収集を実施する予定であったが,2施設の間で調査結果に大きなばらつきが生じた。その要因は調査時期の違いと施設基準が異なったことと分析し,データ収集時期を限定した。そのため,旅費や検体検査の費用が予定通り拠出できなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は患者の手指衛生を強化して感染症発症率について検討する。そのため,患者に手指衛生を実施してもらう介入補助者への報酬が必要になる。さらに,患者の手指衛生強化期間前後で,患者の手指汚染の程度を比較する。方法は平成27年度同様に,看護師が患者にケア提供した前後の看護師の手指と,患者の手指および環境表面から検体採取を行うため検体検査に係る経費が必要となる。 そして,患者の手指衛生を重視してもらうために,ポスター掲示や研修会の開催などの啓蒙活動のために助成金を使用する。
|