2013 Fiscal Year Annual Research Report
契丹壁画墓の集成と公開-唐滅亡後の東アジアにおける国家形成過程の視覚的理解-
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25300007
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Kyushu National Museum |
Principal Investigator |
臺信 祐爾 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 課長 (80163715)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今津 節生 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, 課長 (50250379)
畑 靖紀 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部文化財課, 主任研究員 (80302066)
市元 塁 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部企画課, 主任研究員 (40416558)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 考古学 / 東洋史 / 美術史 / 国際研究者交流 / 中国内蒙古自治区 |
Research Abstract |
平成25年9月に、塔拉内蒙古博物院長と三輪嘉六九州国立博物館長が、本研究の円滑な研究計画実施の前提となる研究協定書を締結した。その内容は、大きくは3つである。 1.一般公開されていない契丹(遼代)壁画墓の現状確認調査、壁画の高精細デジタル記録、三次元立体測量、壁画に用いられた顔料の蛍光x線分析調査を通して、各種のデータを蓄積する。2.将来的には、壁画墓に関する多種多様な取得データをもとに、博物館展示室内に墓室空間を立体的に再現することで、来館者が墓室内空間を再体験できるような、新たな展示手法の開発と実践を目指す。3.内蒙古契丹(遼代)壁画の保護計画制定にむけた基礎的な作業を、内蒙古博物院や関係機関と開始する。 研究協定書にうたった壁画墓現地調査実施の可否については、上級官庁との協議も必要とされることから、協定書締結後の平成25年11月に、高解像度スキャニング装置を利用して、すでにはぎ取りした壁画断片で保存処置が済んだもの約30点について、内蒙古博物院において高精細画像を作成した。なお、高解像度スキャニング装置は、本研究の連携研究者である井手亜里京都大学教授と九州国立博物館が共同開発したものであり、井手亜里教授と大学院生が実際のデータ採取に従事した。 一度に記録することの出来る画面の大きさに制約があるため、場合によっては壁画1点の高精細画像を作成するのに、壁画そのものを数回移動させる必要があった。パソコン上で、比較検討や閲覧するためには、こうした部分的なファイルを統合するとともに、画像処理ソフトで取り扱えるように加工する必要があった。そのため、きわめて大きなデータ量をもつファイルを統合し、壁画1点ごとの高精細画像ファイルを作成し、ハードディスクに保管した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究代表者は、平成20~22年度に受領した基盤研究B海外学術「トルキ山遼墓出土品からみた唐滅亡後の東アジア工芸技術」を通して、契丹金銀器の製作技法や文様表現の変遷を明らかにするとともに、内蒙古博物院・内蒙古文物考古研究所の研究者ときわめて良好な関係を構築している。また平成23年度には九州国立博物館、静岡県立美術館、大阪市立美術館、東京藝術大学美術館において、特別展「草原の王朝 契丹」を企画開催し、優れた美術作品の展示にとどまらず、科学的な調査研究によって得られた最新の研究成果についても、広く一般に示すことができた。 こうした蓄積をもとに、すでに墓室内壁面から切り取られ保存処理がされた契丹壁画墓の壁画の記録にとどまらず、原位置における壁画の高精細画像や三次元立体測量データ、蛍光x線分析によるデータなどを総合的に集積するとともに、博物館展示室内における復元的展示手法を開発するという今回の研究計画内容についても、現地研究者の理解と協力が得られている。 平成25年11月には、切り取り後保存処理が終了した壁画資料について、内蒙古博物院において高精細画像データを、井手亜里京都大学教授の協力のもと、作成した。現地で作成した大容量のデータを統合し、パソコン上で閲覧検討ができるような、画像処理をすませている。 研究の目的達成に向けて、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに、内蒙古文物考古研究所の研究者を中心に、内蒙古自治区各地で契丹(遼代)壁画墓の発掘調査が行われており、その壁画の内容についてもある程度写真資料や測量図が公にされている。しかしこれら壁画墓の多くは、調査後に入り口部分を塞ぐことで、環境の安定を図りながら現地保存されているため、必要に応じて研究者が墓室に入り、研究をするという体制になっていない。 また調査終了時までに切り取られ墓室内から持ち出された壁画断片は、保存処理後に額装され、博物館で展示されるか、収蔵庫内で保管収蔵されている。 しかし、切り取り作業の過程で、当初の壁画画面が分断されるだけでなく、画面の一部のみが選択されたり、作業過程で画面そのものが欠失してしまう結果もまま認められる。また平滑でない壁面であったものが、保存処理の過程で平らな状態に矯正されることも知られている。切り取りおよび保存にかかわる作業過程にともなう様々な要因により、原位置から遊離した壁画からは、不十分な情報から引き出せない結果が生まれている。 現在進行している上級官庁との交渉が順調に推移した場合、内蒙古自治区内で現地保存されている契丹(遼代)壁画墓の調査を実施し、高精細画像データ、三次元立体測量データ、蛍光x線分析による顔料データおよび温湿度データなど、多面的なデータの取得を目指すこととする。 もし、今回の交渉が不調に終わった場合には、フフホトの内蒙古博物院・内蒙古文物考古研究所の切り取り壁画だけでなく、赤峰博物館など地方研究組織が所蔵する壁画類について、さまざまなデータを集積する作業を継続して行うこととする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
保存処理済みの切り取り壁画について、内蒙古博物院にて高精細画像データを引き続き取得することを考えていたが、計画時期に高解像度スキャニング装置を実際に操作できる京都大学関係者の都合がつかなかったため、実施を断念した。 次年度の調査費用に充填することとする。
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