2014 Fiscal Year Annual Research Report
帝政ロシアによる露領アメリカ経営と環太平洋における海洋秩序の変容について
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25300031
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
麓 慎一 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 教授 (30261259)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 海洋 / ロシア / イギリス / アメリカ合衆国 / 日本 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年の研究成果を踏まえて、二年目には以下の研究実績を得ることができた。第一に、2014年6月に実施したロシア海軍文書館・ロシア国立歴史文書館・ロシア国立図書館の調査と史料の収集によりロシアとアメリカ合衆国やロシアとイギリスの毛皮獣の規制の条約が非条約締結国の日本にも適用されようとしていたことを発見することができた。また、ロシアの大蔵省関係の資料にもこの問題に関係する史料があることを見つけることができた。第二に、2014年12月に実施したイギリスの国立文書館における調査によってロシア領アメリカの売却に関連する史料を収集することができた。さらに、イギリス外交文書に所収されているラッコおよびオットセイ猟の規制に関する史料を写真撮影することができた。1880年代から系統的にこれらの史料を解析中である。このイギリス外交文書の分析にあたってはイギリス議会文書と対照しながら分析を進めている。第三は、2015年3月にロシア海軍文書館において実施した調査によって、露米会社の売却以後にカムチャカやアリューシャン列島における海獣保護のための軍艦の活動についての史料を閲覧することができた。この史料群については、大量にあり現段階では全てを調査する段階には至っていないが、少なくともウラジオストックがこれらの海軍の活動を支えていたことを理解することができた。露領アメリカ売却後の海洋秩序の変容の中で、単に条約の順守というだけでなく実力によって海洋秩序を維持していこうとするロシアの動向を理解することができたことは大きな成果であった。 当初、予想したように外交交渉と軍艦による活動などが複雑に絡み合って海洋秩序が形成されていく過程を解明することができている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
海洋秩序に関係した国家群の内、ロシア・イギリス・日本については史料調査を順調に進めることができている。アメリカ合衆国についての調査は、国内で行うことができる外交文書の収集にとどまっており、この点を現地の文書館で実施できれば当初の計画以上に進展していると評価できると考えられる。このアメリカ合衆国での調査は技術的に困難なものではなく、時間的な制約によって達成できていないだけである。早急に実施したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策としては、以下の三点を同時に進めることである。第一は、ロシア領アメリカ(アラスカ)売却後の海洋秩序の再編といえる1911年の条約を詳細に分析することである。特に、これによって日本が中部千島を閉鎖する過程に焦点を絞って分析することで、海洋秩序の変容が地域社会に与えた影響を解明できると見通している。第二は、ロシア領アメリカ(アラスカ)の売却によってアリューシャン地域が国家権力の及ばない、いわゆる空白地域になり、そこにアメリカ合衆国の勢力が入っていくことを解析することである。これによってロシア領アメリカ(アラスカ)の売却が海洋秩序の変容だけでなく、それを介して地域社会の変容を促進した点も考察できると考えいている。第三は、1893年のパリでのラッコ・オットセイ獣についての交渉を詳細に分析することである。この交渉で問題になっていたのはアメリカ合衆国がロシアからロシア領アメリカ(アラスカ)を購入したときに、それに付随する海域はどこまでなのか、ということであった。この議論を解析する。これによって、1810年代にロシアがべーリング海域から北緯51度までの閉鎖を主張したときにアメリカ合衆国とイギリスがどのように対応したのか、という点が19世紀後半の海洋秩序の再編に与えた影響を解明する。 以上の三点を今後の研究の中心に据えて、研究を進展させていきたい。さらに、これまで進めてきたロシア国立海軍文書館やロシア国立歴史文書館における調査を拡大してロシアの外務省関係の史料についても収集できるように準備を進めることも2015年の課題である。
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Causes of Carryover |
ロシアで実施した旅費と史料複写代金が予想よりも少額であったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
アメリカ合衆国・イギリス・ロシアなどにおける旅費と史料複写のために執行する予定である。
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