2016 Fiscal Year Annual Research Report
タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究
Project/Area Number |
25300041
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
蓮池 利隆 龍谷大学, 仏教文化研究所, 客員研究員 (50330022)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 至弘 龍谷大学, 理工学部, 教授 (30127063)
佐野 東生 龍谷大学, 国際学部, 教授 (60351334)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 中央アジア史 / 大乗仏教 / 阿弥陀仏信仰 / ゾロアスター教 / ミトラ神 / ミフル |
Outline of Annual Research Achievements |
現在までに収集した遺物図像データをもとに、中央アジアの宗教的背景を明らかにすることができた。特に、研究課題に掲げたミトラ神の存在は大きく、仏教と習合する中で、様々な形でシルクロードを経て日本まで伝来したことを検証することができた。一例として、3Dスキャナーで測定したデータから復元した図像によって、毘沙門天(多聞天)の図像学的展開を確認することができた。検証に使用した出土資料(「蓮池利隆のページ(http://hasuike.my.coocan.jp/)」掲載の『ミトラ仏と覩貨邏の仏教2』pp.127-145を参照)は、一つは2010年出土の完形ではあるものの、身体の部分に斜めに亀裂があるテラコッタ(遺物番号KП 1194-2011)である。おそらく、型による成形の際に皺状に溝が残ったものと思われる。頭部は天冠を付けた菩薩のような面差である。もう一つは2013年度出土の頭部を欠くテラコッタ(遺物番号KП 1194-1267)で、この二体の3D画像を使い、カット・ペースト機能を用いて2010年度出土テラコッタの頭部を切り取り、80%縮小した後、2013年出土テラコッタの頭部としてペーストした。その全体像は、天冠を戴いた頭部、胸と胴回りには鎧が表現され、腰にはベルトを締め、右手に炎の上がる携帯用拝火壇(マジマル)を掲げ、左手には三叉の聖杖を執る。この姿は法隆寺所蔵の四天王、その中でも毘沙門(多聞)天と一致する。これは、宮崎市定博士の『毘沙門天信仰の東漸に就て』と題する論文中、「Mithraは千の耳を有する神なのである。・・省略・・即ちMithraは万の眼を有する神であり、国家を護持する神であり、生長を司る神である。広目、持国、増長はその各々の徳を謂うに外ならない。四天王像が多く光背に火焔を有し、殊に毘沙門が光塔を有するのも拝火教の遺物ではなかろうか。」との指摘の正しさを証明する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タジキスタンにおける治安悪化のため、2016年度より現地調査は差し控え、これまでの調査報告及び研究成果の整理に重点をおいて研究を進めている。第一次報告書『ミトラ仏と覩貨邏の仏教』(2009年3月出版)に続いて、第二次報告書『ミトラ仏と覩貨邏の仏教2』を製本することができた。これは、2009年度から2013年度までの現地発掘調査についての報告書であり、タジキスタン側の出土品カタログ『カライ・カフィルニガン』(2007年度から2013年度までの出土品図録)の刊行を受けて作成したものである。出土品の遺物番号もカタログを参照して報告書の記載に反映させた。これによって、遺物番号(KП No.)を照会すれば発掘調査で得られた博物館所蔵品を正確に探し出すことができるようになった。巻頭の写真はカラーで掲載し、年度ごとの発掘状況もモノクロの写真で掲載している。また、出土品の出土場所も遺跡平面図に出土順番号を挙げて記録した。さらには、pdfファイルとしても閲覧できるように、「蓮池利隆のページ(http://hasuike.my.coocan.jp/)」にアップしている。さらには、発掘調査と並行して進めている文献研究としては、『ブンダヒシュン(原初の創造)』を検討してきたが、「ミフルの正しい働き、世界の判定、真実の行為に於いて、このように言われる、即ち、ミフルには千の耳が拡張され、それには亦、万の眼が拡張されている。是は即ち、時に無畏の平地に於いて来たり去ることができる。ミフルの牧場に於いて、それは亦、千の耳であること。是はそれは即ち五百の精霊の耳であることをはたらかすことのすべてを為す。それは亦、万の眼であること。是はそれは即ち五千の精霊の眼であることをはたらかすことを為す。」の記述があり、ミトラが善悪の判定のために監視することを確認できる。これも多聞天・広目天の機能に継承されるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
2017年度は当該研究の最終年度でもあり、現地調査を行うためタジキスタン側と交渉中ではあるが、国際情勢も緊張の度合いを深め、楽観できない状況にある。したがって、現地調査が困難となる中、今後において可能なのはこれまでに収集した資料を整理し、さらに文献資料と突き合わせながらの総合的研究を目指すことであろう。 研究代表者蓮池がタジキスタンにおいて実施した現地発掘調査は3次にわたり、研究課題名も第一次は「中央アジア(タジキスタン)における仏教と異思想の交渉に関する調査・研究(課題番号17401023)」、第二次では「タジキスタンにおけるゾロアスター教遺跡の発掘調査及び仏教との交渉についての研究(課題番号21401027)」、第三次では、「タジキスタン拝火教遺構の発掘調査及び阿弥陀仏の起源としてのミトラ神についての研究(課題番号25300041)」であった。課題名の変化が示すように、次第に研究範囲を絞って、ミトラと阿弥陀仏の関連を検証することに努めてきた。それは具体的な出土資料をもとにして研究を進める上で必然的方向性であったように思う。しかし、文献研究との総合的検討という点から言えば、第一次で掲げた、「中央アジア(タジキスタン)における仏教と異思想の交渉に関する調査・研究」という広範な視野に立ち返る必要があるであろう。すなわち、ゾロアスター教のミトラ信仰が阿弥陀仏の起源のみにとどまらず、大乗仏教全般に関して大きな影響力をもっていたことを検証するのである。例えば、初期大乗経典『華厳経』の構成には、『アルダー・ウィラーズ・ナーメ』に描かれる天界への上昇と地上への帰還というテーマとの関連性を指摘することができる。さらには、中期大乗経典の唯識・如来蔵思想など、これらの教義についても検討していく余地があると考える。ミトラ神を手掛かりに、大乗仏教とゾロアスター教の交渉の全容を明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
タジキスタン国内の治安悪化にともない、2016年より現地発掘調査を見合わせている。外務省の海外安全ホームページによれば、首都ドシャンベは危険レベル1「十分注意してください」の区分であるが、ドシャンベから離れた発掘現場では危険レベル2「不要不急の渡航は止めてください」の区分となっている。これまでも十分な情報収集をおこなって調査を実施してきたが、近年、ISによるテロの危険性も高くなっている。このため、発掘に関わる謝金などが不要となり、他の用途に振り分けているものの、一部を繰り越しにせざるを得なくなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2017年度は当該研究の最終年度であり、報告書などの作成に力を入れることとしている。第一次、第二次の報告書はすでに出版済みであり、2014年度以降の発掘調査についての報告書『ミトラ仏と覩貨邏の仏教3』を作成・出版する。また、文献研究として読み進めている『ブンダヒシュン(原初の創造)』についても、翻訳文と語彙集を合わせて出版することにしている。また、より精度の高いレプリカを作成するため、光造形型の3Dプリンターを導入して、中央アジアの宗教的背景を理解してもらうために役立てたい。現在使用の熱溶解積層型の3Dプリンターでは積層断面が目立ち、粗い仕上がりにしかならない。
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Remarks |
タジキスタン国立博物館ホームページは、龍谷大学古典籍デジタルアーカイブ研究センターとタジキスタン国立博物館との共同事業として、2005年開催の「愛地球博」でタッチパネル式の展示として公開され、その後、龍谷大学に代理のサイトを開いて引き続き公開しているものである。ロシア語・日本語・英語の表記あり。
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Research Products
(7 results)