2013 Fiscal Year Annual Research Report
東ティモールのナショナリズムの人類学的研究:想像される国家と想像される言語
Project/Area Number |
25300046
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
中川 敏 大阪大学, 人間科学研究科, 教授 (60175487)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福武 慎太郎 上智大学, 外国語学部, 准教授 (80439330)
上田 達 摂南大学, 外国語学部, 准教授 (60557338)
奥田 若菜 神田外語大学, 外国語学部, 講師 (10547904)
森田 良成 大阪大学, 人間科学研究科, 特任助教 (30647318)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 国語 / ナショナリズム / 言語ゲーム |
Research Abstract |
(1) 6月に国内研究会を行ない、現地調査の全体のテーマと各自のテーマを決定した。 (2) 8月から9月にかけて、東ティモールにおいて現地調査を行なった。福武が先行して入国し、単独調査をした。上田、森田、中川が、それぞれマレーシアおよびインドネシアから入国し、福武と合流した。首都ディリにおいてNGO、教会、大学等の調査を経て、福武の既調査地である西部の2つの県の村落を訪問した。福武の帰国後、残り3名で東部各県の調査を行なった。NGO・教会などを訪問した。インドネシア人神父のライフストーリーなど貴重な情報を得た。 (3) 以下、言語に限っての情報をまとめておく。2つの国家語(テトゥン語とポルトガル語)は、政府プロパガンダによれば「ともに順調に普及している」筈だが、対照的な結果を得た。テトゥン語の普及は予想以上だった。それに比し、ポルトガル語の普及は失敗していると言える。ポルトガル語普及のいわば中心であるべき国立大学の中での聞き取りがそれを如実に示している。ポルトガル語担当の奥田が調査に同道できなかったが、現地在住のポルトガル人の協力を得ることができ、じっさいの会話を観察したが、国立大学の学生たちにポルトガル語の話者は存在しなかった。排除された筈のインドネシア語は、現在も使用されている。今回の調査チームの全員がインドネシア語話者であるが、調査をインドネシア語で行なうことに支障はまったくなかった。独立後の10年間に生まれた子供たちにもインドネシア語はほぼ通じることも確認した(衛星放送受信によるものだという)。 (4)11月の国内研究会では調査報告に加え、ポルトガル語文献にもとづく奥田の歴史研究の発表、ゲストの井上治子(早稲田大学)による政治的な研究発表があった。当プロジェクトの一貫性を確認すると同時に、厚みを加えることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プロジェクトチームの中の唯一のポルトガル語話者、奥田の現地調査不参加により、ポルトガル語関連の情報を思うように得ることはできなかったが、それ以外は順調に進んでいると判断できる。 通常の人類学の調査が長期(しばしば「2年」が必要と言われる)の村落への滞在を前提にしていることを考えると、今回のプロジェクトは短期滞在(二週間から1ヶ月)の累積による調査であり、それに応じた戦略を講じていた。その戦略とは都市部の重視である。国家があからさまに顕現する都市部に片足を置きながら、村落部の人々の暮しを見ていく、という計画である。そのためには、都市部における多様なコンタクトの必要がある。今回、当初予定していたNGO(現地法人および海外の法人)、世界銀行、教会とのコンタクトに成功し、予想以上に緊密な関係を築くことができた。さらに大学やInstitoto Camoes (カモンイス・インスティテュート)(ポルトガル語普及のためのポルトガルの組織、ゲーテインスティテュートのようなもの)、さらにはシャナーナ・インスティテュートのニュージーランド職員とも、インタビューをし、密接な関係をもつことができた。 以上、都市部で得られる情報を鳥瞰図と呼べば、村落部の情報は虫瞰図(下からみた国家)と呼べるだろう。虫瞰図を作成するデータに関しては、2年目以降を中心に収集していく予定である(「今後の研究の推進方策」参照)。今年度に関して言えば、福武は多年にわたる自らの東ティモールでの村落フィールドワークを継続し、国境を越える宗教的ネットワークについての新な知見を得ており、ナショナリズムという当プロジェクトへ大きく貢献している。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1) 都市部の調査は続けていく。とりわけ奥田が参加することにより、カモンイス・インスティテュートおよび国立大学ポルトガル語学科との連携を密にすることが期待できる。上田は、1年目の調査で予備調査をした首都ディリ内部に存在する「カンポン・アロール」(イスラムの集落)を中心に調査をする。奥田の対象を都市のエリート層、上田の対象を都市の下層と呼ぶことができるだろう。二人の調査により首都ディリの複雑な構成に分析の目を向けることができる筈である。 (2)福武・中川・森田は虫瞰的視点の調査を拡大していく。福武は引き続き西部の国境近くの村落での調査をすすめる。とりわけ西ティモール(インドネシア)との宗教的な結び付きに焦点をあてる。そうすることによって、東ティモールの国家がインドネシアとの対比の中で像を結ぶメカニズムを分析していく。 (3) 東ティモールの文化が、中川の既調査地であるフローレスと酷似することはすでに文献からあきらかになっている。1年目の調査の一つの成果は、東ティモールの国家想像の一つの柱である宗教(カトリシズム)が、深くフローレスと関係しているという点である。東ティモールのカトリックの司祭の多くがインドネシアの(とりわけフローレスの)出身であるのだ。2年目以降、中川はフローレスでの調査をも同時並行して続け、司祭の生産を通じて、国境と海を越えたフローレスと東ティモールの関係に迫っていく。 (4) 西ティモール内に位置する東ティモールの領土、オエクシにおいても調査を進めていく予定である。森田は西ティモールで優勢な言語、ダワン語の話者である。そしてオエクシの人々がダワンを喋っているのはほぼ確定であると思われる。森田を中心に、オエクシでの基礎調査を二年目に行ないたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者1名(奥田)が産休となったため。彼女が海外調査に出れないことは折り込んだ修正計画を立てたが、国内での研究も育児により思うようにすすめることができなかった。 奥田が担当するポルトガル語は、当プロジェクトにおいて重要な位置をしめる。彼女による普通より長めの海外調査、また多くの文献(ポルトガル本土よりの高価なものを含めて)の収集を予定している。
|
Research Products
(9 results)