2013 Fiscal Year Annual Research Report
伝統文化・歴史を重視するアジア農村発展モデル提唱をめざす実践型地域研究
Project/Area Number |
25301009
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
|
Section | 海外学術 |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
矢嶋 吉司 京都大学, 東南アジア研究所, 研究員 (90444489)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 和雄 京都大学, 東南アジア研究所, 准教授 (20283658)
|
Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 伝統文化・歴史の重視 / 集落民俗文化資料館 / 実践型地域研究 / 民・官・学協働 / 国際共同研究 / 国際研究者交流 / 国際草の根ネットワーク / コミュニティ振興と農村開発 |
Research Abstract |
経済発展に偏った近代化による既存の農村開発は、「村に暮らす誇りや生きがい」を奪い、人々の精神的な結束を弱め、その結果、農村の高齢化や過疎化が進み農村社会崩壊の危機に面している。本研究は、個性豊かな文化や歴史を重視する新しい「農村発展モデル」を実践型地域研究の方法論を使って実証するとともに、実践型地域研究が農村開発という実践的課題に対応できる学問的手法であることを示すのが目的であり、ラオスと日本の研究者が、農村開発の当事者として農村住民、地方行政と協働(民学官協働)して主体的に課題解決に取り組んでいる。 平成25年度は、上記目的の達成に向けて、研究体制・国際ネットワーク確立及び基礎データ取得など研究の基盤確立が目標であった。調査研究は主にラオスと日本で行ったが、ブータン、ミャンマーなど他のアジア諸国も研究対象とした。 具体的内容として、①ラオス国立大学農学部(FOA)学部長を責任者とする現地事務局を、FOAラオ伝統農具農民博物館(FOA博物館)にFOA研究調査室室長をリーダーに研究チームをそれぞれ設置、FOA博物館による伝統農具の調査研究(収蔵農具の分類カタログ)と学生教育への活用の模索 ②FOA近隣のT村で伝統文化・歴史の聞き取りによる調査と記録、住民参加によるコミュニティ振興活動の実践、 ③ラオス、ミャンマー、バングラデシュ研究者の国際ワークショップ参加と報告(国際ネットワーク確立)、 ④京都府南丹市美山町、滋賀県守山市での住民参加による地域振興の実践、などの研究を実施した。 本研究では、文化や歴史を重視する農村発展という新しいアプローチを目指しており、モデル提唱のために、農村における実証及びアプローチを理解し主体的に担う人材とシステムの確立が重要であり、準備及び体制確立の期間として位置づけられた当該年度の計画実施と成果はおおよそ達成できたと考える。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、研究体制・国際ネットワークの確立及び基礎データ取得の現地調査など研究の基盤確立を主要な目標としていた。 既に本実績報告書の概要に記したように、具体的内容として、 ① ラオス国立大学農学部(FOA)学部長ウドム氏(Dr. Oudom)を諮問責任者とする現地事務局と、FOAラオ伝統農具農民博物館(FOA博物館)にFOA研究調査室室長ランプイ氏(Dr. Lampheuy)をリーダーに研究チームをそれぞれ設置し、今後2年間の研究実施計画の草案を作成した。それとともに、FOA博物館による伝統農具の調査研究(収蔵農具の分類カタログの作成に向けて)と博物館を通じて伝統文化・歴史を重視する学生教育の模索(特別教育コースや卒業論文指導など)の計画に取り掛かっている。 ② T村で民族に伝統文化・歴史の聞き取りと村落誌作成に向けて取り組みが始まるとともに、住民参加によるコミュニティ振興活動(集落図書館、集会場の改修など立案)の実施開始。 ③ ラオス、ミャンマー、バングラデシュ研究者の国際ワークショップ参加報告(2013年11月高知県大豊町『草の根国際会議』、2014年1月ミャンマーヤンゴンにおけるワークショップ)し研究者間の交流と情報の共有を行った。 ④ 分担者である安藤は、京都府南丹市美山町佐々里地区、滋賀県守山市美崎での住民参加による地域振興の実践に取り組んでいる。 これらの研究項目を通して、本年度の主要な目標である研究体制・国際ネットワークの確立及び基礎データ取得の現地調査など研究基盤確立が計画に沿って進められた。まだ、特筆すべき具体的な研究成果としてまとめられる段階に至っていないが、FOA関係者やT村住民たちの参加協力も順調であり、研究の実施体制と方向性が定まりつつある。以上から当該年度の目標は、(2)おおむね順調に進展している、と評価するものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
上記のように、これまでのところ研究はおおむね順調に進展しており、研究の体制及び方向性を基本的には継続する。しかし、本研究課題の目標である新しい「農村開発モデル」提唱のためには、現在の研究実施村において実践を推進する中での課題の実証が最も重要である。 そのためにT 村での住民参加によるコミュニティの振興実験を展開しそのプロセスを記録にまとめるとともに、伝統文化・歴史の聞き取りを集落民俗文化資料館活動の一環として展開し「T村村落誌」として文書化を進める計画である。現在は、FOA研究者が支援して進められている実践を村人が自主的に展開できるような人材を村で育成することが必要である。 また、伝統文化・歴史を重視する本研究の新しいアプローチが広く受け入れられ展開されるためには、FOAなどの研究教育機関における人材の育成と確保が重要な課題となろう。幸い、ラオス国立大学FOAではFOA博物館を活用する学生の教育、及び伝統文化・歴史の重視する取組みが徐々に注目され始めている。この建設的な兆候を育て、FOAの取り組みを促進するために共同研究を通して支援を進める。 本研究課題の成果は、伝統文化・歴史の記録として村落誌、伝統農具・民具のカタログなどにまとめ、ホームページや印刷物として公表するように、研究を進める計画である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に、調査村T村の伝統文化・歴史の記録のために予定していた、①T村住民代表及びFOA研究者との協働によるT村の主要民族の黒タイ族の出自と文化を調査する故郷訪問交流、②T村住民による成果報告PLAワークショップ、の準備を進めていたが、T村とFOA博物館の都合が悪くなり、年度内の開催が不可能となった。そのため、平成26年度乾季(平成26年11月~平成27年2月)に実施が延期されることとなった。以上の理由により、今回の次年度使用額が発生した。 平成26年度乾季に、上記のプログラムを実施するとともに、新たなコミュニティ振興プログラムをT村住民の参画を得て実施する。
|