2015 Fiscal Year Annual Research Report
現代東アジアにおける国際結婚と「地方的世界」の再構築
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25301010
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
藤井 勝 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (20165343)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
白鳥 義彦 神戸大学, 人文学研究科, 教授 (20319213)
平井 晶子 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (30464259)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 国際結婚 / 東アジア / 女性 / 地方社会 / 国際移動 / 家族 / 社会学 / 多文化共生 |
Outline of Annual Research Achievements |
【受け入れ側の地方社会等の調査】前年度に日本の地方社会(兵庫県豊岡市と周辺)で質問紙調査を終え、今年度は韓国と台湾で、日本で使用した質問票と原則的に同じもので(日本語以外に7カ国語を用意)調査を無事に実施した。地域は韓国の大田市周辺地域、台湾の金門島(県)である。海外共同研究者が実施者となり、現地の行政機関やNPOの協力も得て、韓国では170票、台湾では112票を回収できた。韓国での回収票のうち約40票は大都市・大田市内のもので、地方社会と大都市の比較を統計データで行うために使用される。調査の集計・分析作業も順次進めている。同時に日韓台では、今年度も国際結婚女性などに継続的に聞き取り調査を実施し、とくに日本では約1ヶ月の現地調査を行うなどした。 【送り出し側の地方社会の調査】中国(東北部ハルピン市周辺)・タイ(東北部マハーサーラカーム県内)・フィリピン(北部ラワッグ市と周辺)で、国際結婚女性の出身家族等の聞き取り調査を行った。中国では、国際結婚女性の送り出しだけではなく、地方社会内に東南アジアからの国際結婚女性を受け入れる現象も進んでいるので、国際結婚の多面的展開な分析も行った。タイでは、前年度と同じく行政村内での国際結婚を綿密に調査し、行政村レベルの国際結婚像の全体像を鮮明にした。フィリピンではマニラでの資料収集、ラワッグでの聞き取りにより、移民社会における国際結婚の複雑な姿を捉えた。さらに、国際結婚のなかで比重が高まるベトナム女性に対する認識を深めるため、ベトナムでの現地調査も実施し、送り出し側をより全体的に把握できた。 【比較のため調査】フランスで資料収集や現地研究者の聞き取りを実施し、アジアとの共通点ならびに相違点が、歴史的な文脈をふまえつつ明らかになった。【成果の公表】国内学会等で研究発表が十分になされた。また今年度の成果をふまえて、今年度も中間報告書を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一の理由は、日本、韓国、台湾の3つの地方社会で質問紙調査をそれぞれ無事に終えたことである。しかも特定の地域社会内の調査で、100以上の事例に関する調査票を回収することができた。国際結婚女性は地方社会内で各所に散在して居住し、その把握は予想以上に困難である。また国際結婚は増加しているが、地方社会内では数は限られている。このため、国際結婚女性からまとまった数の統計データを得ること自体が難しい。本研究では、そのことを念頭に置きつつ質問紙調査を企画したが、100%成功するとの確信が事前にあったわけではない。したがって、実際に日韓台それぞれで計画通りに調査を終了できたことは、それ以上の意味をもち、「当初の計画以上に進展している」と同程度の成果があったと受け止めているほどである。実際、この調査の成功によって、東アジアにおける国際結婚の主要な受け入れ社会である日韓台の比較研究を統計的なデータを用いて行うことが可能になったのである。東アジアの国際結婚研究を次のステージに進めることを可能にしたということができ、画期的な成果である。 第二の理由は、国際結婚女性を送り出す地方社会の研究が順調に進んでいることである。送り出す側の地方社会の研究は日韓台で必ずしも体系的に進んでいないし、送り出し社会の側の研究者も自国内の問題として研究するにとどまる。しかしながら、本研究では、各地域でのフィールド調査の実施、また相互の研究成果の交流によって、各地域の事例の提示にとどまらず、比較検討を通じて、各事例を東アジアのシステムのなかに位置づけつつある。これによって、国際結婚女性を送り出す地方社会の多様で独自性のある展開とともに、東アジアにおける国際結婚の立体的かつ動態的な構造を提示することが可能になりつつある。当初に予定したいた送り出し社会の研究成果を得ることはもちろんのこと、それを超える成果も期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度までの研究を通じて、本研究が最終的に達成すべき目標は明確になったので、最終年度の次年度は個々の調査研究の一層の精緻化や深化とともに、研究全体を総括できる分析枠組みのブラッシュアップが必要になる。そのために、以下の点を重点的に進める。 第一に、日韓台における国際結婚の比較をより厳密かつ適切に行うために、質問紙調査にもとづく統計データの集計・分析を深める。日韓台の統計的な比較を行うことはそれほど簡単ではない。たとえば、韓国では中国朝鮮族女性、台湾では大陸出身女性が国際結婚のなかで相当の比重を占めるが、これらを他の国際結婚女性との関係のなかで、とくに集計・分析の中ではどのように扱うかの課題がある。また東南アジア出身女性と中国出身女性はどの調査地でも異なる傾向があるので、両者をどのようにカテゴリー化して集計・分析すべきかの課題もある。 第二に、国際結婚を送り出す側の地方社会の特質を鮮明にするために、その類型化を図る。送り出し側社会としての中国、タイ、フィリピン、そしてベトナムは一様ではない。東南アジア内でも、タイの女性の流れは主にはヨーロッパに向けられるが、フィリピンはアメリカや日本であるなどしている。またグローバルな世帯保持の在り方、国際結婚の地域社会へのインパクトも様々である。適切な指標に基づく類型化によって、女性の送り出し側社会にとっての国際結婚の意味や特質を十全に把握する。 第三に、受け入れ側と送り出し側のそれぞれについて分析を深めるだけではなく、両者が結合して形成する国際結婚の全体像を、現代の東アジア・システムと関連づけて解明することを目指す。そのための重要な取り組みとして、次年度の夏までに東アジアの各国・地域から研究者を招聘して国際研究集会を開催し、発表者がそれぞれの知見等を報告するとともに意見やアイデアを交換して、この目標に向けた研究成果の醸成を図る。
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Causes of Carryover |
第一に、為替の変動を含む経済情勢、また現地での調査事情を踏まえて、韓国と台湾における質問紙調査(アンケート調査)の実施費用の高騰が懸念されたために、海外旅費等の節約などに努めたことと関係している。実際には、韓国と台湾とも現地側から予想以上の調査協力が得られたため、予定していた実施費用より少ない金額で済ますことができた。 第二に、フランス等でのテロの発生による治安の悪化によってフランスでの現地調査計画が立たなかったことによる。もっとも最終的には、年度末の時期に漸く現地調査を実施できたものの、十分な調査日程を確保することができなかったことよる。 第三に、フィリピン調査の担当者が、本務等の都合により今年度内で終了する調査日程を確保できなかったため、年度を超えて調査期間を設定したことによる。なおこの年度を超えた調査日程分の経費の支払いは、平成28年度分経費によって処置済みである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
第一に、平成28年7月に国際研究集会の開催を予定しており、しかも、この集会を当初の予定より規模の大きなものにする方針であるので、その経費の増加分に充てる計画である。具体的には、研究集会の開催日数を1日から2日に増やすとともに、招聘研究者数も増やす計画にしているので、経費の増大が見込まれるところである。 第二に、より丁寧な補足調査を実施するために、その調査旅費の一部として使用する計画である。今年度に十分な調査期間が取れなかったフランス、また送り出し側の問題をより十全に解明するために今年度に実施したベトナムの補足調査などが対象になる。
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Remarks |
調査対象のプライバシー保護、および調査対象地への配慮を優先すべきという観点から、HPの内容は最小限に留めている。
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Research Products
(10 results)