2013 Fiscal Year Research-status Report
ロシア先住民族の現代政治的な諸相に関する実地調査―シベリア・極東の地域主義の台頭
Project/Area Number |
25301017
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Section | 海外学術 |
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
中村 逸郎 筑波大学, 人文社会系, 教授 (40326400)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ロシア・ナショナリズム / シベリア / 先住少数民族 / イスラム教 / シャマニーズム / ネネツ人 / シベリア・タタール人 / ゴレーンドル人 |
Research Abstract |
本研究の目的は、ロシア・ナショナリズムが高揚するなかでロシア・シベリアを調査地域に設定し、先住民の政治的、社会的な動向を実証研究することにある。この作業をとおして、シベリアで台頭する地域主義を分析し、ロシア・ナショナリズムの限界を炙り出すことにねらいがある。今年度は、おもに三つの少数民族の実態について現地調査を実施した。 一つめは、シベリア極北にすむネネツ人を対象にかれらの日常生活を中心に、かれらとプーチン政権の政治的な関係とネネツ人のロシア正教会への対応を調査した。元来、ネネツ人はシャマニーズムを信仰し、天然資源のねむるシベリアの地を自分たちの領地だと認識している。 二つめは、シベリア西方に居住するシベリア・タタール人である。かれらは、チュールク系語族に属し、イスラム教を信仰している。ロシア人がシベリア進出するまえからすむ先住民である。かれらのロシア正教会への対応、そしてかれらの自治組織がどのように連邦制度と関わっているかを調査した。 三つめは、シベリアの森林地帯に暮らすゴレーンドル人を研究した。かれらは1904年のストルィーピン農業改革でロシア国内のヨーロッパ地帯から移住した。もともとはドイツ人といわれ、ルーテル教徒でありながら、ポーランド語でかかれたカトリックの祈祷書を使い、200キロ離れたイルクーツク市からカトリック神父が月に一度、訪問する。教会暦は、ロシア正教会暦に準じており、かれらのロシア化を見てとれる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の調査では、ほぼ計画通りに調査を実施できた。インターネットも電話も通じないシベリアの辺境地に先住民は暮らしているが、ロシア人の知人を介して三つの先住民に接触できた。くわえて短期間(3日間から5日間)であったけれども、かれらとともに生活し、貴重なインタビューをとることに成功した。 補足的に、先住民のすむ地域を管轄する行政機関(村役場)を訪問し、先住民にかんする基本データを取得した。とくにゴレーンドル人については、ザラリー村役場文化部が以前に実施した聞き取り調査結果を文書で入手できた。かれらの証言は、わたしが簡単に聞き出せない証言が盛り込まれており、本研究の大きな成果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、未着手であるシベリア南部地帯にすむ仏教徒の動向を調査する。かれらの多くはロシア国内のトゥヴァー共和国に住んでいるが、近年、ロシア国家の枠組みをこえてインドやネパールとの関係強化をはかっている。仏教徒を中心にロシア南部で地域主義が台頭しており、この動向を調査したい。 さらに、ロシア・シベリア各地で巻き起こっている地域主義の台頭に触発されて、シベリアにくらすロシア人のあいだにも地域主義が勢力をえている。かれらはロシア人というよりも、シベリアっ子としての意識を強めている。宗教的には、プーチン政権下で勢力を拡大するロシア正教会ではなく、かつて正教会から分離した古儀式派を掲げている。 以上のふたつの動向を、現地調査する。
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