2013 Fiscal Year Annual Research Report
障がい者就労に備えた産業教育のためのヨーロッパ型福祉農場の分析
Project/Area Number |
25301042
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (B)
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Section | 海外学術 |
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
大場 伸也 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (80221836)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池谷 尚剛 岐阜大学, 教育学部, 教授 (70193191)
ゲラン ジル 岐阜大学, 地域科学部, 准教授 (40402151)
Aフォン フラクシュタイン 岐阜大学, 地域科学部, 准教授 (50402152)
菊池 啓子 中部学院大学短期大学部, 幼児教育学科, 准教授 (70369528)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヨーロッパ / タイ / 国際情報交換 / 福祉 / 農業 / 教育プログラム |
Research Abstract |
共生社会の構築に当たり、社会的弱者である障がい者等が一般社会に参加し生活基盤を確保することは重要である。その中で、農業が有力な産業基盤である非都市部では、障がい者の雇用の受け皿として農業分野が期待される。障がい者のための福祉農場は、ヨーロッパ諸国では長い歴史と実績を有するが、我が国において海外における福祉農業関する知見は乏しい。そこで、海外での調査研究を通して日本型の福祉農業を構築するために、①障がい者への福祉政策や支援制度、②農業政策と経営形態、③障がい者ならびにその産業指導者養成の教育プログラムに焦点を当てて調査研究を行った。さらに、ヨーロッパで得られた知見を他のアジア諸国へ還元するために、④タイの特別支援学校においても農福連携の取り組みの調査研究を行った。 平成25年度は、イタリア、フランスならびにタイで現地調査を行った。イタリアでは、社会福祉法人などの障がい者側セクターからの農業へのアプローチは少なく、農業セクターからの障がい者へのアプローチが盛んであり成果もあげていることがわかった。特に注目すべき点は、有機農業の延長線、または発展型として福祉農業が位置付けられることである。フランスでの福祉農業としては、社会福祉法人が主体となるものが多かった。これはイタリアとフランスの福祉政策の違いによるもので、政府の財政的支援が社会福祉法人などでの農業の取り組みを後押ししていた。 タイにおいては、知的障がい者を対象とする特別支援学校は全国に22校あり、各地から集まった生徒が寄宿生活をしながら学習していた。学校では、国王が推進する自給自足経済をモデルとして、農業に取り組むなどして、多くの時間を作業学習に充てていた。しかし、卒業後の受け入れ先の整備が未発達で今後の大きな課題であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、①ヨーロッパの福祉農場の予備調査と各国研究者との連携体制を構築することを計画した。また、②タイにおける特別支援学校についても予備調査を行い、準備期間とした。さらに、③岐阜大学農場において、障がい者の農作業学習の実験と評価を図った。 ヨーロッパの福祉農場の予備調査と各国研究者との連携体制では、ピサ大学のF. De Iacovo教授を訪問し、ヨーロッパの福祉農場の現状について情報収集した。ヨーロッパの国々では、それぞれ文化的・経済的背景の違いの中で様々な政策が取られており、福祉農業においても財政的な支援の違いによって、福祉セクターからのアプローチが強い国や、農業セクターの側からのアプローチの強い国があることがわかった。実際に訪問したイタリアとフランスは、隣国同士でありながら、異なる形態の福祉農業が中心となっていた。 一方、タイにおいてロップブリー特別支援学校と密接に連携を取りことができ、他地域の4校の特別支援学校とも情報交換することができた。いずれの学校でも、作業学習ならびに就業訓練として農作業に対する取り組みは熱心であった。これは卒業後の障がい者の受け入れ体制が不備である中で、両親の下で家業である農業などを手伝うことができるようにとの配慮によるものであった。また、農作業の取り組みとしては、バリエーションに富んでおり、闘鶏用品種の育成と維持といった、極めて独自性と付加価値の高い課題に取り組んでいる学校もあった。 岐阜大学農場では、特別支援学校の生徒を実習生として受け入れ、農作業に対する学習評価を調査したところ、短期間では不透明であるが長期的には学習成果が上がっていることがデータとして得ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度の調査によって、ヨーロッパ各国では様々な形態で福祉農場が発達していることがわかったが、これには各国が実施する福祉政策が大きく影響している可能性があった。そこで、平成26年度も、ヨーロッパの複数の国において調査を実施する。特に、ベルギーやルクセンブルグ、オランダなど、フランスとドイツの両国に挟まれながらも積極的に福祉農業を展開しているという情報が、これまでの調査によって得られており、これら地域を焦点とした調査を行う。特にオランダは、園芸大国として花卉や施設栽培が盛んであり、日本での福祉農業の参考モデルを得ることができる可能性がある。 一方、タイについては特別支援教育の在り方や教育プログラムについて、さらに掘り下げるとともに、卒業後の就労支援の在り方についても調査する。これは、前年度の研究によって、タイでは就労支援が未発達で今後の大きな課題であることがわかったためである。また、研究グループが所属する岐阜地域、特に岐阜大学とタイ国文部省との連携の可能性について検討し、特別支援教育や障がい者の就労支援に関する相互に利益となる国際協力的な支援体制の構築を検討する。 また岐阜大学農場では、大学生を対象とした教育プログラムの構築を図るために、福祉農業や産業現場での障がい者の受け入れに関する教育プログラムの構築を目指す。具体的には今年度中に授業内容を検討し、平成27年度に向けた授業の立ち上げを目指す。これを果たすには、非福祉系学部学生と障がい者が実験的に共同作業を行うことで、学生が感じる障がい者への意識を明らかにする。また実際に共同作業を行うことで、障がい者への非福祉系学部学生が行う指導方法を開発する上での課題を抽出する。これは、障がい者の一般事業所での雇用促進を推進する上で重要である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1) タイでの調査において、現地では就労支援体制が未発達で市民に対する障害者の雇用受け入れに関する啓もうが必要であることがわかった。そこで、最終年度に現地においてシンポジウムを開催することを計画し、その予算を確保するために予算の繰越を行った。 2)研究分担者である菊池は、家庭の問題(父親の介護)が発生したため、当初予定していた研究活動が十分できず、本科学研究費を使用しなかった。しかし、研究活動は独自予算で実施した。 平成26年度は、研究の最も大事な時期であるため調査・研究を実施する。しかし、最終年度のシンポジウムを開催する予算を確保するため、助成金の一部を繰り越すことを計画している。
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