2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25330209
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Research Institution | Aichi Shukutoku University |
Principal Investigator |
牧 勝弘 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 准教授 (50447033)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山川 仁子 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 助教 (80455196)
天野 成昭 愛知淑徳大学, 人間情報学部, 教授 (90396119)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 空間知覚 / 反射音 / バーチャル音響空間 / 摩擦音 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトを対象とした空間知覚実験に向け,ヘッドホンを利用するバーチャル音響システムを構築した。空間知覚実験には,実際に複数のスピーカを空間的に配置して行う方法とヘッドホンを用いるバーチャル空間で実験を行う方法が存在する。本研究では反射音がある場合とない場合の条件を比較するため,容易に反射音の付加および消去が可能なヘッドホンを利用するバーチャル空間での実験の方が適している。しかし,バーチャル音源を作成するための頭部伝達関数(音源から外耳道入口までの音響伝達関数)には個人差があるため,個人ごとに頭部伝達関数を測定しバーチャル音源を作成するか,あるいは,頭部伝達関数自体を個人化するしかない。 本研究では,頭部伝達関数を個人化する方法として,頭部伝達関数を周波数軸上でシフトさせ,耳の大きさの違いに由来する誤差を低減させる方法を採用した。この手法の有効性は確認できたものの,知覚実験に向け実験参加者が容易にシフト量を変化できるようにシステム化する必要があった。そこで,すでにデータベースとして公開されている頭部伝達関数を基にして,ボタン1つ(補助のボタンを含めると2つ)で簡単に頭部伝達関数を変形できるアプリケーションを開発した。また,本研究の仮説通りに反射音によって空間知覚特性の向上が確認できた場合,音声の使用に際してその明瞭性が損なわれないことも重要である。音声に反射音が付加された場合は明瞭性が低下するというのが一般的な見解である。このような点も考慮し,反射音等の雑音に弱いと考えられる摩擦音(および破裂音)の音響的な研究も行った。その結果,発話速度が増加すると閉鎖区間時間長および摩擦部時間長が対数軸で直線的に減少すること等が明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
反射音の有効利用に関する生理現象の発生機序を明らかにし,さらにヒトを対象とした空間知覚実験で反射音の効果を検証し,これまで環境雑音の一つであると考えられてきた反射音が,我々を含む哺乳類の聴覚システムで有効利用されているという新しい説を,生理学,モデル,および心理学の総合的な見地から実証することが本研究の目的である。 反射音の有効利用に関する生理現象の発生機序については,モデルによる検証により明らかにすることができた。よって,「脳幹での反射音の有効利用」についての神経科学的根拠を固めることができたと考える。次の段階であるヒトの空間知覚実験に向けて,ヘッドホンを利用するバーチャル音響システムを構築した。その際,バーチャル音源作成の際に障壁となる頭部伝達関数の個人差を軽減でき,かつ,実験参加者が容易にそれを変形できるようなシステムとして実現した。これにより反射音についての空間知覚実験を実現できる準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
ヘッドホンを利用するバーチャル音響システムが構築できたことで,ヒトを対象とした空間知覚実験の準備が整った。今後は,実際に空間知覚実験を行い,反射音の有効利用に関する検証を行っていく予定である。 構築したバーチャル音響システムは個人差を軽減することができるが,実際の環境とは等価ではない。これが原因で反射音の検証実験に支障が出る場合は,複数のスピーカを用いた実音源の実験に切り替える予定である。実音源の場合は肩からの反射音を完全に消去することができないが,肩に吸音材を巻く条件と,反射率の高いアクリル板を設置した場合とで空間知覚精度を比較する予定である。 本研究では音声対象として空間知覚実験も計画している。特に雑音に弱いと考えられる摩擦音等を対象に実験を行い,反射音の有効性を明らかにしていく。摩擦音の摩擦部は高い周波数成分にその特徴があるため,低・中周波数域に現れる反射音のスペクトル成分とは競合しないことが予測される。あらゆる種類の音声での検証は時間的に難しいため,雑音環境下で明瞭性が低下する音声をターゲットとして実験を行い,効率的に反射音の有効性を実証する予定である。 生理データ,モデルにより明らかになった神経処理メカニズム,およびヒトを対象とした空間知覚特性に基づいて,環境音下における音空間処理メカニズムについて統合的な考察を行い,反射音が,我々を含む哺乳類の聴覚システムで有効利用されているということを,生理学,モデル,および心理学の総合的な見地から実証する。
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Causes of Carryover |
予備的な心理実験に留まったため、外部被験者を雇用する費用に余剰が生じた
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験計画に基づいて本格的な心理実験を行い、予算を使用予定である。
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