2013 Fiscal Year Research-status Report
ユーザから乖離した主体感覚の帰属による意思決定エージェントの構築
Project/Area Number |
25330259
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
尾関 基行 京都工芸繊維大学, 工芸科学研究科, 助教 (10402744)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヒューマンエージェントインタラクション / 主体感覚 / 意思決定支援 / 存在感 / 雰囲気 |
Research Abstract |
“こっくりさん”の例にみられるように,人は特定の条件下において,「自分が行為している」という感覚(主体感覚)を失うことがある.そうすると人は,自身の行為(とその意図)を他の誰かに起因するものと考えたくなり,こっくりさんの場合,霊の仕業であると解釈される.このようにして他人に帰属された行為と意図は,実際には当人のものであるため,その人の潜在意識にある要望や興味がその中に現れる.本研究ではこの現象に着目し,ユーザから乖離した主体感覚をロボットなどのエージェントに帰属させることによって,ユーザの隠れた期待に応える意思決定エージェントを実現する. 本年度は,ユーザの不覚筋動(本人が気づかない筋肉の作用)と遅延視覚フィードバックによって,ユーザから主体感覚を乖離させる意思決定支援システムを構築した.このシステムは日常のちょっとした迷いに対する相談相手となることを目的とする.ユーザの持ち込んだ相談事(二つの選択肢)のどちらが良いかについて,画面に表示されたカーソルで選択肢を指し示して意見を述べる.実際にはユーザがカーソルを動かしているが,主体感覚の乖離させることでユーザには気づかれない.このシステムの特徴は,「誰かに相談している」という相談者の気持ちを損ねず(生体情報センサ等を装着しない),且つ,相談者の本当の気持ちをある程度察することができる(相談者自身がシステムを操作している)ことである. 14名の実験協力者にシステムを使用してもらったところ,ランダムにカーソルを動かす比較手法に対して,システムの選択と相談者の選択(決断)が一致する割合が有意に高くなった.また,その際,約7割の場合においてユーザから主体感覚が乖離できていることを確認した.ただし,乖離した主体感覚によって,システムの背後に意図性を備えた存在を感じさせる結果には結びつかず,引き続き検討が必要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画で目的としていた「人の主体感覚の乖離」と「意図の推定」に関して一定の成果を示すことができた.これは当初想定していたよりも早い段階での目的達成となった.ただし,乖離した主体感覚を他の存在(エージェント)に帰属させることができたとはいえず,引き続き研究を継続していく必要がある. 構築したシステムでは,ユーザが両手で持ったカードの動きを検出し,その動きと同じ方向にディスプレイのカーソルを動かす.つまり,ユーザ自身で画面上のカーソルを動かしている.しかし,ユーザが意識していない自分の筋肉の動き(不覚筋動)を入力とし,更に,その入力に対する視覚的フィードバック(カーソルの動き)を数百ミリ秒ほど遅延表示させることにより,ユーザ自身がカーソルを動かしているという感覚を喪失させることができるという仮説を立てた. 評価実験では,まず遅延を加えない状態でユーザにカードを動かしてもらい,カーソルがカードの動きに追従して動くことを体験してもらう.この操作によって,カーソルは自分で動かすものという印象をユーザに与える.その上で,ユーザにカードを静止させてもらい,バックグラウンドで遅延を加えた処理に切り替える.しばらくすると筋肉の疲れなどからカードが微妙に動き,遅れて画面のカーソルが動く. この状態でカーソルを動かしているのは誰かと問うと,約7割の場合で自分ではないという回答が得られた(主体感覚の乖離に成功).ただし,動かしたのは「コンピュータプログラム」という回答が多く,「その他の何か」と回答した件数はわずかであった(主体感覚のエージェントへの帰属に失敗).システムに相談した後,ユーザに「最終的にどちらの選択肢を選ぶか」と問うと,カーソルをランダムに動かした場合とくらべて,システムと同じ選択肢を選んだ割合が有意に多かった(意図推定に成功).
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究では,遅延させた視覚フィードバックのみでもユーザの主体感覚を乖離させられることが確認できた.元々の研究計画では主体感覚を乖離させるのに触覚フィードバックも加える必要があるとしていたが,今後はこのまま視覚フィードバックのみを使用していくことにする.入力については計画に従って,様々なものを試していく.2年目はスマートフォンの傾きセンサを使用し,傾きによるカーソルの移動に遅延させた視覚フィードバックを加えるシステムを構築する. 乖離させた主体感覚をうまく帰属させられなかった問題については,初年度は「存在しないエージェント(霊のようなもの)」に帰属させようとしたことが障害になったと考え,システムの中に具現化したエージェント(動物を模したキャラクタなど)を登場させ,そのエージェントに対する意図性の主観評価アンケートで効果を調べる方針に転換する.コンピュータプログラムによってカーソルを動かした場合に比べて,主体感覚を乖離させてユーザ自身がカーソルを動かすと,エージェントにより強い意図性を(ユーザに)感じさせることができることを示す. また,ここまでの報告では述べていないが,本研究の申請書で「今後の展望」として述べていた「文脈によるエージェントへの存在感/意図性の付与」に関する研究を初年度から並行して進めている.この研究は,家電のタイマー処理の完了メッセージなどを“書き置き”という形でユーザに伝えることで,自分が不在だった時間に「意図性を持った何か」が存在したことをユーザに感じさせようとするものである.帰宅したとき,また起床したとき,書き置きにメッセージが残され,その横にお気に入りの人形が置かれていたとしたら,その人形に強い意図性を感じるのではないか.こういった観点での調査も本研究計画の範疇として進めていきたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験協力者のために申請した謝金を当該年度は使用しなかったため.現時点では実験協力者が比較的少数であり,謝金なしで協力してもらえる人を集めた.本格的な実験は次年度に行う. また,当初予定していたエンコーダ付きモータを使用することなく予定していた実験が成功したため,エンコーダ付きモータとその制御機器の購入数が少なくなった. モータを使用する計画をモバイルデバイスのセンサを使用したものに変更するため,そのための環境を整備することに使用する.
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