2015 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子プロモータ領域のCpGアイランドメチル化プロファイルが転写に与える影響
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25330347
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
稲岡 秀検 北里大学, 医療衛生学部, 准教授 (30282768)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | がん / 遺伝子発現 / マイクロアレイ / DNAメチル化 / 転写制御 / バイオインフォマティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,転写・翻訳されることで生物学的な機能を発現する遺伝子(機能的RNAを含む)の転写制御機構の解明を最終的な目標とする.本研究での解析対象は,転写制御に重要な役割を果たすと考えられている遺伝子プロモータ領域におけるDNAメチル化である.DNAメチル化とは,遺伝子鎖上に存在するCpG部位にメチル基が付加される現象を言う.遺伝子プロモータ領域にDNAメチル化が生じると,遺伝子プロモータ領域への転写因子の結合が阻害され,遺伝子の転写が抑制されるとされている.本研究課題では,遺伝子プロモータ領域全体のDNAメチル化プロファイルを解析し,転写制御とDNAメチル化の関係性を解明することを目的としている.
H25年度は,正常組織とがん組織における遺伝子発現について検討した.公的データベースから複数の臓器における,正常組織およびがん組織からの遺伝子発現データを入手し,正常組織とがん組織で発現量が有意に異なる遺伝子群を同定した.H26年度は,DNAメチル化異常を強制的に発生させた細胞における遺伝子発現について検討した.ヒト肺動脈内皮細胞に濃度依存性のDNAメチル化阻害剤を添加し,DNAメチル化異常を発生させ,このときの遺伝子発現変化について測定した.H27年度は上記の培養細胞においてDNAメチル化度を測定する予定であったが,メチル化度測定チップの仕様が変更になり測定部位が27000箇所から450000箇所に飛躍的に増加した.そこで調査対象となる遺伝子を絞り込むために遺伝子発現解析結果を精査する作業を行っている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
H26年度に培養細胞系を用いて,DNAメチル化異常と遺伝子発現との関係を実験により検討した.ヒト肺動脈内皮細胞に対して,濃度依存的にDNAメチル化を阻害するメチル化阻害剤を投与した.実験は,非投与群,低濃度群,中濃度群,高濃度群の4群で行った.
上記の4群のヒト肺動脈内皮細胞に対し,マイクロアレイによる網羅的な遺伝子発現解析を2回ずつ行った.非投与群を対照群として,メチル化阻害剤投与群における遺伝子発現の変化を調べた.我々は生物学的に意味のある遺伝子を抽出可能な適応閾値を用いることで,確実に発現量に変化が見られた遺伝子のみを抽出した.DNAメチル化阻害剤の投与により,低濃度群,中濃度群,高濃度の全てで阻害剤の濃度に比例して発現量が変化する遺伝子が242個同定された.
H27年度はこれらの遺伝子の遺伝子プロモータ領域のDNAメチル化度を測定する予定だったが,使用予定のDNAメチル化測定チップの仕様変更により測定箇所が27000から450000に飛躍的に増加したため,検討対象箇所の精査を行う必要が生じた.精査の対象は発現変化のあった遺伝子と,そのプロモータ領域のCpG部位の染色体上の位置情報である.そこでH27年度は適応閾値の範囲を変更して変化のあった遺伝子数を絞り込む作業と,遺伝子上流および遺伝子内のCpG部位の位置情報と,新しいDNAメチル化測定チップがもつCpG部位の位置情報の対応作業を行った.DNAメチル化測定チップのCpG部位の位置情報はNCBIのB37.1の位置情報であるが,既にNCBIは遺伝子の位置情報をANNOTATION107という新しい情報に更新しているため,両者の位置情報には相対的なずれが発生している.現在この位置情報の差分を吸収するための作業を行っているが,調査箇所が多いため現在も作業を継続中である.
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は,H27年度と同様に引き続き測定対象の精査作業を続行し,その後培養細胞系を用いて,遺伝子発現とDNAメチル化度の関係の検討を行うことを計画している.
H25年度に公的データベースの発現データから得られた,がん細胞と正常細胞で発現量が有意に異なる遺伝子群と,H26年度に培養細胞系の実験から得られたメチル化阻害剤の濃度に比例して発現量が変化した遺伝子群とについて,塩基配列の構造面からの比較を行う.両者の遺伝子プロモータ領域のCG含有密度やCpGアイランドと呼ばれるCpG部位が連続する領域の配列長などの塩基構造の比較を行う.この検討により遺伝子プロモータ領域においてCpG含有密度やCpGアイランドの構造に類似性が見られる遺伝子群を同定する.この作業はDNAメチル化度測定チップの仕様変更により再調査中である.
がん組織とヒト内皮動脈内皮細胞において共通する転写制御メカニズムを持つ遺伝子群を同定するために,H28年度は以下に述べる実験を計画している.H26年度に得られたヒト肺動脈内皮細胞の実験系において,メチル化阻害剤の濃度に比例して遺伝子発現量が有意に変化した遺伝子群と,H25年度に得られた正常組織とがん組織で有意に発現が異なる遺伝子群の双方に共通して存在するCpGアイランド構造に対し,実際にプロモータ領域の網羅的なDNAメチル化計測を行う.プロモータ領域の全体的なDNAメチル化プロファイルを調べることで,転写制御に強く関与するCpG部位を特定する.また公的なデータベースから上記の遺伝子群のプロモータ領域の部分的なDNAメチル化変動データを入手し,DNAメチル化度の変化を調べる.本課題から得られた全体的なDNAメチル化プロファイルと,公的データベースから得られる部分的なDNAメチル化度がどのような関係にあるかを検討する.
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Causes of Carryover |
H27年度にDNAメチル化度の測定のために費用を計上していたが,予定していたDNAメチル化度測定チップの仕様が変更となり,測定箇所が27000から450000に飛躍的に増大した.本研究では遺伝子周囲のCpG部位のメチル化度の変化を調べることを目的としているが,測定対象のCpG部位の数が増加したことと,遺伝子の機能および染色体上の位置情報とCpG部位の染色体上の位置情報を得るために使用していたNCBIのデータベース情報が更新されたため,DNAメチル化度測定チップの持つCpG部位の位置情報と相対的なずれが発生してしまった.そのためCpG部位の位置情報のずれの補正およびDNAメチル化度測定対象の精査が必要となり,実際のDNAメチル化度の測定がH28年度にずれ込んだため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度までに得られた,メチル化阻害剤の濃度に比例して遺伝子発現量が変化した遺伝子群のプロモータ領域の網羅的なDNAメチル化プロファイルを調べる.解析結果から転写制御に強く関与するCpG部位を特定する.また公的ながんのデータベースからDNAメチル化変動データを入手し,本課題から得られた転写に関与する網羅的なDNAメチル化プロファイルと,がん細胞におけるこれらのCpG部位のDNAメチル化度がどのような関係にあるかを検討することで.DNAメチル化ががん細胞の転写制御に与える影響について検討する.H28年度はこの課題の遂行のために,濃度依存的にDNAメチル化を阻害するメチル化阻害剤をヒト肺動脈内皮細胞に対して濃度別に投与した低濃度群,中濃度群,高濃度群の3群と,メチル化阻害剤を投与しなかった細胞を非投与群に対して2セットずつ,計8個に対してDNAメチル化度測定を行うための費用を計上する.
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