2014 Fiscal Year Research-status Report
フィールド観測と風洞実験による里山の大気浄化機構の解明
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25340018
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
市川 陽一 龍谷大学, 理工学部, 教授 (10371353)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
毛利 英明 気象庁気象研究所, 環境・応用気象研究部・第5研究室, 室長 (10354490)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 里山 / 大気汚染 / 大気浄化 / 樹木 / 風洞実験 / オゾン / 窒素酸化物 / PM2.5 |
Outline of Annual Research Achievements |
里山における大気汚染物質の浄化作用の実態把握とその機構解明のために下記を実施した。 (1)フィールド観測による大気質の実態把握:滋賀県瀬田丘陵の里山林内外において、オゾンO3、窒素酸化物NOx、微小粒子状物質PM2.5の観測と解析を行った。O3、NOxの観測はパッシブサンプラーを用いて、林内の25m高のタワーや里山に隣接する龍谷大学瀬田学舎の建物を利用して行った。O3については林内と瀬田学舎で自動計測装置による時間変動の測定も行った。瀬田学舎では自動計測装置によりPM2.5の連続測定を行い、陰イオン、陽イオン、金属成分の分析を行った。林内ではポータブル粉じん計によるPM2.5の測定を行った。分析にはイオンクロマトグラフ、吸光光度計、走査型電子顕微鏡を用いた。 これらの観測により、①O3、NOxの林内の濃度減衰率は林外より大きく、夏季の林内のO3濃度は昼夜継続して林外より低いこと、②林内のPM2.5の重量濃度や硫酸イオン濃度は林外より低いこと、③PM2.5の高濃度の主要な原因は黄砂であるが桜島噴火の影響も受けていること、④硫酸イオンはPM2.5側に硫酸アンモニウムの形で存在し、硝酸イオンは夏季に揮散していることがわかった。 (2)風洞実験による林内濃度減衰の機構解明:林内において大気汚染物質の濃度が減衰する機構を流体力学的観点から解明するために、気象庁気象研究所の大型風洞を用いて実験を行った。樹冠・樹幹の形状が異なる3種類の模型を用いて、放出高さを変えたトレーサガス拡散実験、レーザードップラー流速計による乱流計測実験、煙による可視化実験を行った。その結果、①トレーサガスは樹木上空へ輸送され、林内への流入が制限されること、②樹木列内では根元部から流入したトレーサガスが循環、混合して濃度の一様化が起こること、③一様化の程度は樹冠層の面積が大きい模型ほど顕著であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度計画では、(1)大気質の実態把握として、里山林内外におけるオゾンO3、窒素酸化物NOx、微小粒子状物質PM2.5のフィールド観測と解析、(2)林内濃度減衰の機構解明として、風洞実験の実施と気流、拡散過程の解析を行い、里山における大気汚染物質の浄化作用の実態把握と機構解明に必要なデータの取得・蓄積と解析を行うとしていた。(1)のフィールド観測については、ほぼ年間を通じた観測を実施し、25年度に観測された林内のO3、NOxの濃度減衰に加えて、林内外におけるO3濃度の時間変動特性やPM2.5の重量、成分濃度の特性を把握することができた。PM2.5については新たに陽イオン成分を含めたデータ取得や長距離輸送モデルによる解析ができた。(2)の風洞実験では、計画通り樹木・樹冠に着目するため、形状の異なる3種類の模型を対象にした実験と解析を行った。また、煙の可視化実験を行い、樹木間の物質移動のメカニズムが把握できた。 以上から研究はほぼ計画通り、順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、以下のように研究を推進する。 大気質の実態把握については、里山林内外においてパッシブサンプラー、自動計測装置を用いてオゾンO3、窒素酸化物NOx、微小粒子状物質PM2.5の観測を継続する。PM2.5については陽イオン、陰イオン、金属成分の分析を行う。3ヶ年の観測、分析結果や長距離輸送モデル計算をもとに、年変動や季節変動を評価する。また、揮発性有機化合物質のデータや物質相互の関連を考慮して、林内の大気汚染物質の濃度減衰メカニズムを評価する。 林内濃度減衰の機構解明については、樹木の形状や配列に着目した風洞実験を実施する。3ヶ年の風洞実験結果と里山におけるフィールド観測結果を比較、解析して、林内における大気汚染物質の濃度減衰を再現する条件を明らかにする。 上記の結果や流体力学モデルによる計算をもとに、大気汚染緩和策に適した樹木や建物の設置、配置について提案する。
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Causes of Carryover |
大気質のフィールド観測で使用しているサンプラーと風洞実験で使用している樹木模型の損傷が少なく、繰り返し利用できたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に繰り返し利用したサンプラー、樹木模型を更新する費用に充てる。
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