2013 Fiscal Year Research-status Report
ヒ素誘導性皮膚癌発症メカニズムの解析と予知・予防法開発に向けた基礎研究
Project/Area Number |
25340052
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
矢嶋 伊知朗 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80469022)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
武田 湖州恵 中部大学, 生命健康科学部, 准教授 (80345884)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ヒ素 / 井戸水 / 皮膚癌 |
Research Abstract |
平成25年度研究実施計画に基づき、以下の研究を行った。 1.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織のヒ素蓄積量の測定:飲水投与に用いるヒ素濃度は、実際にヒトで飲水されている濃度を再現するため、過去の情報を調査したところ、最大で約30μMであった。そこで、飲水投与には0、0.3、3、30、μMの濃度を用いた。成体マウスへの飲水期間は2ヶ月とした。摘出可能な全ての臓器・組織、及び尿・糞・血液中を採取、ICPーMSによる元素測定用、分子解析用のサンプル調製を行った。ICPーMSによる元素測定のためのサンプル処理である灰化を行い、測定を行ったところ、3、30、μMでのヒ素濃度の有意な上昇が観察された。 2.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織の増殖因子L発現解析:上記飲水投与実験で得られたサンプルからRNAを抽出、cDNA合成後リアルタイムPCRによる増殖因子Lの発現解析を行った。その結果、ヒ素暴露によって増殖因子Lの発現上昇が観察された。 3.培養細胞実験によるヒ素誘導性皮膚癌発症と増殖因子Lの関連性の解析:ヒト皮膚角化細胞株(HaCaT)へのヒ素暴露は増殖因子Lの発現量を増加さ李ことが明らかとなった。HaCaTへのヒ素暴露は発癌の指標であるコロニー形成を誘発するが、siRNA導入法を用いた増殖因子Lノックダウン を行うと、コロニー形成が強く抑制された。これらの抑制効果がどのような細胞内シグナル伝達経路によって誘導されているのかを明らかにするために、可能性のある幾つかの癌関連シグナルに関する活性測定をウェスタンブロット法により解析した。その結果、少なくとの一部のシグナリングはヒ素暴露によって活性化され、ノックダウンによって活性が抑制されることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度研究実施計画では、以下の様な3つの計画を立案していた。 1.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織のヒ素蓄積量の測定、2.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織の増殖因子L発現解析、3.培養細胞実験によるヒ素誘導性皮膚癌発症と増殖因子Lの関連性の解析。この3つの計画全てにおいて計画は順当に進められ、いくつかの新しく、興味深い知見を得ることができている。これらの結果は、研究代表者が目的とする「増殖因子Lによる慢性ヒ素中毒発症メカニズムを解明すると共に、増殖因子Lを用いた慢性ヒ素中毒の予知・予防へ 有用性を証明する」ために必要な結果であり、その目的達成に向けて順当に計画が進行していることを示している。「1.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織のヒ素蓄積量の測定」と「3.培養細胞実験によるヒ素誘導性皮膚癌発症と増殖因子Lの関連性の解析」では、研究目的を達成するために必要不可欠で、これまで不明だった様々な情報を提供した。「2.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織の増殖因子L発現解析」では、遺伝子発現レベルではあるが、ヒ素と増殖因子Lが深く関連していることを示す一例であり、慢性ヒ素中毒発症メカニズムを解明と慢性ヒ素中毒の予知・予防への有効性を示している。以上の理由から、現在までの研究達成度は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究結果は極めて新しく、興味深いデータを示しており、さらなる解析が必要である。交付申請書に記載した、平成26年度研究実施計画と、今年度に得られた新たな知見に基づき、以下のように研究を遂行する。まず、25年度に引き続き、1.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織のヒ素蓄積量の測定、2.成体マウス へのヒ素飲水投与実験による各組織の増殖因子L発現解析】、3.培養細胞実験によるヒ素誘導性皮膚癌発症と増殖因子Lの関連性の解析を行う。4.妊娠マウスへのヒ素飲水投与実験による胚及び誕生仔のヒ素蓄積量の測定:ヒ素汚染地域での井戸水利用は定常的に行われており、妊婦の飲水も行われ、胎児への影響は計り知れない。そ こで、妊娠中のヒ素飲水による胎児への蓄積と、誕生後に引き続きヒ素を飲水した場合の蓄積量を明らかにするため、妊娠マウスへの飲水による胎児におけるヒ素蓄積量を測定する。また、胎児から誕生仔への継続的なヒ素 飲水投与を行い、成体マウスへの投与による蓄積との比較を行う。この解析により、成体時期でのヒ素暴露と胎 児期でのヒ素暴露で体内のヒ素蓄積に違いがあるのかどうかを明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度で遂行した3つの研究:1.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織のヒ素蓄積量の測定、2.成体マウスへのヒ素飲水投与実験による各組織の増殖因子L発現解析、3.培養細胞実験によるヒ素誘導性皮膚癌発症と増殖因子Lの関連性の解析において、様々な研究結果が得られたが、得られた様々なデータが極めて多岐にわたり、且つ重要な結果を示すものが多かったため、その解析に多大な時間を要した。本年度に申請した予算は実験そのものの遂行に必要な消耗品や人件費が多くを占め、その解析にはそれほど多くの予算を必要としないため、結果として次年度使用額が生じたと考える。 本研究計画申請時から、平成25年度に遂行する研究は平成26年度以降も継続して行う予定であり、実際に予定通り進行している。26年度は、当初の計画に沿った研究と、25年度に得られた多数のデータの解析及び、その結果を考慮して新たに行う実験に使用する予定である。
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