2014 Fiscal Year Research-status Report
代表的抽水植物ヨシにおける環境動態と遺伝情報に基づく集団維持機構の解明
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25340115
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Research Institution | Lake Biwa Environmental Research Institute |
Principal Investigator |
金子 有子 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 専門研究員 (90280817)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 昌人 岡山県農林水産総合センター, 生物科学研究所, PD研究員 (60462206)
東 善広 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター, 総合解析部門, 専門研究員 (50250254)
高田 壮則 北海道大学, 地球環境科学研究科(研究院), 教授 (80206755)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヨシ / 環境動態 / 遺伝情報 / 集団維持機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)ヨシの生育場である氾濫原の環境動態解析: 琵琶湖南湖の地盤高メッシュデータ(約250m間隔)を用いて湖岸堤等のない1890年代における高水位時の冠水域分布に関するGISデータを作成した。この歴史的冠水域と近年の状況を比較するため、1995年の高水位時(水位B.S.L.+88cm)と2002年の低水位時(水位B.S.L.-83cm)の航空写真画像のオルソ補正を行い、近年における冠水・干出状況を把握した。その結果、歴史的には、2、3年に一度は水位+1.5m以上を記録し、冠水域は南湖面積の16%にもなっていたが、近年の水位変動による冠水域は南湖面積のわずか1%以下であることが分かった。 2)ヨシの遺伝構造と集団維持機構の関係: 琵琶湖内湖のヨシ集団の維持機構を解明するため、遺伝的多様性、クローン多様性の解析、フローサイトメトリーによる倍数性構成の解析を進めた。内湖集団の倍数体構成は、多くの集団で8倍体と10倍体が混在するが、いずれかの倍数性が優占する傾向が認められた。特に、琵琶湖周辺で最大のヨシ集団の西の湖では10倍体が優占しており、内湖全体のヨシの現存量としては10倍体がより多くの割合を占めている可能性が高いと考えられた。また、各内湖の成因との関係では、河川間の土砂堆積の遅れによって形成された内湖(エカイ沼、志那中内湖)では8倍体が優占する傾向が認められたが、その他の成因との関係は明瞭ではなかった。 3)遺伝的組成を考慮した集団動態の数理モデル構築: 個体群存続可能性分析(PVA)を行うために、二遺伝子座四対立遺伝子モデルを構築し、遺伝子頻度の計算およびホモ接合度の計算を行った上で、近交弱勢係数を導入したモデルの構築を行った。このモデルの開発によって、近交弱勢の影響後の遺伝子頻度分布および個体数分布の計算を行うことが可能になり、個体群増加率を算出することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)ヨシの生育場である氾濫原の環境動態解析 琵琶湖周辺において広大な低地を有する代表的地域である南湖周辺において、歴史的な冠水域の変動幅の推定し、現状で起こり得る水位変化における冠水・干出域と比較した結果を投稿論文としてまとめることができた。 2)ヨシの遺伝構造と集団維持機構の関係 解析を予定している琵琶湖-淀川水系の湖岸、内湖、淀川流域のヨシ集団のうち、これまでの研究で湖岸集団、淀川流域集団の解析が終了しており、研究期間の2/3経過時点で2/3のカテゴリーが終了している。 3)遺伝的組成を考慮した集団動態の数理モデル構築 当初の計画で、個体群存続可能性分析(PVA)を行うために、栄養繁殖を考慮した推移行列モデルを構築する予定であったが、計画通り、栄養繁殖率および生存率を仮定した場合に、個体群増加率を産出する数理モデルを開発することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1)ヨシの生育場である氾濫原の環境動態解析: 琵琶湖南湖の湖岸域を対象として26年度までに確立した研究方法により、琵琶湖岸全体を対象に、過去から現在までの水位変化から洪水撹乱の強度、頻度、規模を推定する。 2)ヨシの遺伝構造と集団維持機構の関係: 琵琶湖周辺の内湖に成立するヨシ集団の解析を引き続き進める。内湖の環境や成因には大きな異質性があるため、より多くの集団を対象とし比較することが維持機構を明確に捉える上で重要との考えから、対象集団を数集団増やして解析を進める予定である。 3)遺伝的組成を考慮した集団動態の数理モデル構築: 26年度に作成したモデルの解析によって、集団が存続できる栄養繁殖率、近交弱勢の度合いの組み合わせを算出することが可能になった。そのため、さらにそのモデルを拡張し、研究対象のヨシの遺伝解析データに対応する遺伝子座数・対立遺伝子数まで計算可能なモデルを構築し、集団が存続できる栄養繁殖率、近交弱の度合いの組み合わせを算出する予定である。
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Causes of Carryover |
金子については、3月に保有のシーケンサーが不調により使用不可となったが、所属機関の予算で修理したため、年度末に交換予定であったキャピラリ(1本約12万円)の購入費が未執行となった。中川については、遺伝的多様性解析実験の必要試薬の一部が解析効率の向上により購入不要になった。東については、近年の琵琶湖岸における冠水・干出域の把握に必要な航空写真について、まず南湖岸を対象に研究成果をまとめるようにしたため、航空写真の購入枚数が予定より少なくなった。高田は、年度末に進捗状況の報告のための旅費として使用予定であったが、日程調整がつかず執行できなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
金子と中川の繰越分は、内湖について解析対象集団を増やす必要があるため、その増加分の遺伝サンプルの採集・分析・解析に必要な消耗品費に充てる予定である。実験は27年度前半に実施予定である。東は27年度は琵琶湖岸全体で研究を進めるため、南湖以外の湖岸域の航空写真の購入に使用する計画である。高田の繰越分は27年度前半に、進捗状況の報告および研究打合せにかかる会議旅費として使用する計画である。
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Research Products
(11 results)