福井県のコウノトリの放鳥事業における環境教育モデルの構築に関する研究

2017 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 25340140
• Research Institution: University of Fukui
• Principal Investigator: 保科 英人 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 准教授 (80334803)
• Project Period (FY): 2013-04-01 – 2019-03-31
• Keywords: 環境保全 / 住民意識 / 絶滅危惧種

Outline of Annual Research Achievements

本研究課題は，福井県における放鳥にまつわる諸問題を研究することを目的とする．主な内容は，１）コウノトリの放鳥予定地の環境分析，２）コウノトリの野生復帰のための環境保全活動が，住民の意識にどの程度影響を及ぼすかの二つである．
平成 28 年に続き，平成 29 年 10 月，福井県内で二度目となる人工飼育コウノトリの放鳥が同県越前市で実施された．
１）越前市を中心として，福井県内は里山環境に優れており，ドジョウ，カエル類などの水田性水生動物類の多様性は高い．したがってコウノトリの餌動物は質量ともに多いと言える．しかし，平成 28 年度放鳥個体も福井県内に定着せず，すぐに県外に移動した．その一方で，豊岡で放鳥された個体が飛来して越前市内に長く居続けた．人工増殖個体の放鳥場所での定着は簡単ではない．放鳥個体が県外へ移動したが，外部からの飛来があった以上，越前市がコウノトリの生息場所として適当でないとは言い切れない．
２）徳島県や京都府のコウノトリの営巣地，その存在が新聞やニュースによって全国に報道されている．また，島根県での猟師によるコウノトリ誤射事件も全国報道された．関東でも利根川流域にコウノトリ復活計画が進められている．申請者による各地での新聞報道の分析から，コウノトリに対する関心は全国規模となっていることが明らかとなった．
その一方で，平成 27 年には福井県庁職員による野生コウノトリへの給餌がなされ，保全生態学上の問題が生じていることも浮き彫りとなった．同種に対する過剰な愛着は地域住民の身ならず，行政の施策にも反映されていることが明らかであり，平成 29 年度もその傾向に変わりはない．具体的には，環境保全行政のマンパワーや予算がコウノトリに集中しすぎるといった弊害が目立つ．平成 30 年度４月公示の福井県環境基本計画でもコウノトリ偏重傾向は明らかで，その是正が求められる．

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

交付申請書に記載した平成 29 年度の研究計画は大体において順調に進行している．特に，コウノトリが飛来したことがある地域，または現在コウノトリが滞在している地域の新聞記事等からの住民意識の調査，またコウノトリ飛来地の水田周辺での生物多様性調査はほぼ予定通り進行している．
その一方で，明治・大正・昭和初期のコウノトリが害鳥視されていた時期の住民意識調査は，同時期の新聞記事のデータが膨大であり，該当記事の情報の探索に予想外に時間がかかり，分析が遅れている．
以上を踏まえ，「やや遅れている」と自己評価した．

Strategy for Future Research Activity

当初申請した書類で記述したように，野外調査と住民意識調査を進める．平成 30 年度は本研究の最終年度であり，最終目的であった環境教育モデルの確立に向けた研究を行う．
具体的には福井県環境基本計画を踏まえて，コウノトリが県内に定着・繁殖することは可能かどうか，餌となる水生動物類を中心とした生物多様性に関する野外調査を行う．
現在日本におけるコウノトリへの住民意識は前年度までの調査で明らかにできた．今年度は前年度までに終了できなかった，明治・大正・昭和初期のコウノトリ観を分析し，現代の日本人にどのような影響を与えているかの分析を行う．
その一方で，平成 29 年度までに顕在化した地域住民や行政による過剰な保護は，今年度は環境保全を越えて動物愛護になりかねないリスクがある．そのリスク評価もしつつ，最終的な環境教育モデルの完成につなげていく．

Causes of Carryover

平成 29 年度に予定していた調査出張予定４回分が本務との兼ね合いで実施できなかったこと．また出版元の発売延期による理由で，平成 29 年度購入予定だった関連図書分の執行が遅れた．これらは平成 30 年度に実施および執行する．