2013 Fiscal Year Research-status Report
大正期の服装改善運動が果たした役割についてー考案服の復元による検証―
Project/Area Number |
25350070
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
夫馬 佳代子 岐阜大学, 教育学部, 教授 (70249291)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 服装改善運動 / 尾崎芳太郎 / 大正期の改良服 / 考案服 / 和洋折衷 / 改良服の復元 / 生活改善運動 / 服装改善同盟会 |
Research Abstract |
今年度の研究実績概要として以下の4項目の現状及び成果について報告する。 ①大正期の生活改善運動における服装改善運動の展開―大正期の生活改善運動及び服装改善運動に関する資料を雑誌の掲載記事を中心に収集した。特に「日本服装改善同盟会の活動」「家庭博覧会における改良服の展示」「和裁教育者と服装改善」「女性教員を対象とした服装改善講習会の展開」等の視点で服装改善運動について分析を試みた。また当時の文部省・内務省や民間団体がどのような目的や手法で服装改善運動に取り組んだかを比較・検討した。家庭博覧会が中間層の家庭に与えた影響、裁縫教育者の改良服の普及活動についても検討を重ねた。生活改善運動における服装改善運動の役割を明らかにすることは衣生活の近代化の過程を明らかにする上でも意義があると考える。 ②明治期の衣服改良運動と大正期の服装改善運動との対比―明治期の衣服改良運動と大正期の服装改善運動は時代背景の影響を受け変容することを明らかにした。具体的には「明治期の衣服改良と改良思想」「大正期の服装改善と経済背景」「大正期の能率推進運動の影響」の視点で分析し、大正期の服装改善運動の特質を検討した。 ③服装改善運動家の尾崎芳太郎の考案服の復元―この内容は次年度の主な課題である。今年度はその準備過程にあたる。服装改善運動家の尾崎芳太郎の著書『是からの裁縫前編』の分析と収録される考案服の製作工程を明らかにし、当時提案された改良服が着装可能であったかを検証することを目的としている。今年度は著書の内容分析と製作工程表を作成することができた。 ④日本と米国の婦人雑誌掲載の誌上講習会で示された改良服の対比―服装改善運動は大正期の生活改善運動の一環であるが、明国の能率推進運動による合理的な家庭生活の確立が根幹にあると思われる。今年度は簡易洋服に関する記事の収集を行った。この課題は次年度も継続して行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、和服から洋服に転換する過渡期に展開された服装改善運動の実態解明とこの運動が衣生活の近代化に果たした役割や成果について明らかにすることを目的とした。25年度は特に以下に示す4項目について検討を重ねた。 ①大正期の生活改善運動における服装改善運動の展開に関しては、当時の文部省、内務省と民間団体の取り組みの実態を比較し、服装改善運動の特質を明らかにする調査及び執筆は完了した。故に今年度の目的を達成したと評価する。 ②明治期の衣服改良運動と大正期の服装改善運動との対比に関しては、社会背景や改良思想、経済状況等を対比し、大正期の服装改善運動の独自性を明確にするための調査及び整理は完了した。故に25年度の目的は達成したと評価する。 ③服装改善運動家の尾崎芳太郎の考案服の復元に関しては、製作工程の整理、分析までは完了した。しかし復元に用いる布材料に関しては大正期の布材料の収集・購入が予定より価格面で高く困難であった。この点に関し、研究目的が「着装に可能な衣服であったかの検証」としたので形態の再現を大正期の反物の代用を用い、改良服の着装の可否を検証することと対処した。次年度の目標が復元に着手し着装の検証を行うことであったので、今年度は、その下準備は達成できたと評価する。材料の収集に関する達成度は半ばであると評価した。 ④日本と米国の婦人雑誌掲載の簡易洋服の対比に関しては、雑誌掲載記事の収集を行い、掲載記事の製作過程の分析に取り組んでいる過程であるので、大方の目的は達成していると評価した。 上記の4項目の達成度を総合して自己点検による評価をすると「おおむね順調に進展している」に該当すると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後26年度、27年度の研究推進の方策は以下に示す2項目にまとめて示す。 1.26年度は25年度で調査分析した服装改善運動の1つの事例として、服装改善運動家である尾崎芳太郎の著書『是からの裁縫前編』『是からの裁縫後編』に収録される考案服98点の再現を行い、当時に提案された考案服が着装可能か否かについて検討を行う予定である。本研究目的の中心課題に取り組む年度となる。本課題は、大正期に提案・考案された新たな日本服と称される和様折衷衣服が「果たして着装可能な衣服であったのか」を検証することを目的としている。そこで尾崎が提案した98点の改良服の解説文及び出来上がり予想図を基に、製作手順及び製作技法を分析し実作する予定である。25年度に各改良服の製作過程や技法の分析を行ったので、この分析に基づき実作に取り組む。変更点としては、計画では布材料には大正期の古着物を用い、洗張り処理後縫い直す予定であったが、経費上、大正期の縞柄を模した反物を代用として用いることにした。布材料の変更は、本研究の目的が当時の「改良服の着装の可能性の検証」であるので、研究目的には影響しないものと考える。 2.25年度取り組んだ服装改善運動について、改良服を考案した背景として継続してまとめる。まとめる観点としては、①大正期の生活改善運動における服装改善運動の展開②明治期の衣服改良運動と大正期の服装改善運動との対比③服装改善運動家の尾崎芳太郎の考案服の復元④日本と米国の婦人雑誌掲載の誌上講習会で示された改良服の対比などの4項目についてである。 上記の研究を基に、服装改善運動における考案服の実作からみえる実生活への影響と生活の変革について検討する予定である。特に再現した実作の考案服の製作過程及び着装を通して、和洋折衷の考案服の提案が合理的な衣生活の構築に及ぼした影響と普及の限界についても検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度は服装改善運動の背景に関する文献調査費及び服装改善運動推進者の提案した改良服の復元に用いる布材料の購入費を予定していた。予算では布材料に大正期の古着物を収集・購入して当時の着物を洗い張りをし反物の状態に戻し、これを大正期の布材料として用いる予定で布材料費を計上していた。しかし経費がかさむ為、当時の木綿布の縞柄を模した木綿反物を代用した。この布材料は今年度反物の状態で購入した為、予算よりも使用額が減じた。 本研究の目的は「大正期に提案された改良服を再現し、着用が可能であったか否かを検証」することであった。故に布の代用は本研究の目的には影響がない。本研究の中心課題である26年度の改良服形態を復元する製作過程で必要とされる補助費は予算以上に必要と予測される。そこで、25年度に計上した布材料費の減額を26年度の製作作業の補助費及び製作過程で用いる材料費に充てて用いることとした。 26年度は大正期の改良服の製作過程の復元作業及び形態を復元した改良服の着装が可能か否かの検証を行うことが中心課題となる。そこで、今年度は復元作業の補助費が主な経費として支出する予定である。なお、製作過程では改良服の附属品なども必要となる。 26年度に持越しをした25年度減額分の研究費は、上記の補助費が必要とされるので、26年度の予算額に加算して用いる予定である。
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