2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
25350175
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
杉浦 実 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹研究所カンキツ研究領域, 上席研究員 (10355406)
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Project Period (FY) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 果汁 / 不溶性画分 / インスリン抵抗性 / 糖尿病 / 糖負荷試験 |
Research Abstract |
本研究課題では、果汁に含まれる糖質を液体として摂取した場合のインスリン抵抗性や糖尿病の発症・進展に及ぼす影響について実験動物を用いた検討を行うとともに、果物由来の機能性成分を豊富に含む不溶性画分を再添加することによる予防効果を正常及び糖尿病モデル動物を用いて明らかにする 今年度は先ず100%ミカン果汁(Brix 10.5)中の糖含有量(Sucrose, glucose及びFructose)をLC/MSで定量分析した。次に珪藻土濾過により清澄果汁を調製した後、同様に清澄果汁中の糖含有量を測定した。3種の糖を添加することで果汁と同じ糖組成を含む清澄果汁、及びこれらの果汁と同量の糖組成となる対照糖質液を調製した。これら3種の溶液を正常マウスに強制胃内投与し、投与後の血糖値変化を投与前、投与後30, 60, 90, 120及び180分後に測定するとともに投与180分後までのAUC値を求めた。その結果、各群間での血糖値に有意な差はみられなかったが、AUC値は対照糖質液>透明果汁>ミカン果汁の順に低くなる傾向が認められた(傾向性P=0.011)。 次に、果汁製造時に取り除かれる不溶性画分を清澄果汁に一定量再添加し、糖質摂取による急性的な血糖値上昇がどの程度抑制されるか検討を行った。その結果、16.7%、28.6%及び37.5%の不溶性画分を添加すると、添加量多いほどAUC値は低くなる傾向が認められた(傾向性P=0.045)。 更に100%ミカン果汁(Brix 10.5)を飲料水に3, 10,及び30%添加し、マウスに自由摂取させ、果汁負荷がインスリン抵抗性に及ぼす影響を検討した。また同量の糖質を含む清澄果汁、対照糖質液についても検討を行った。その結果、投与開始から16週後まで4週間おきにグルコース2g/kg腹腔内投与による糖負荷試験を行ったが、何れの群においても飲料水を投与した群と比較してインスリン抵抗性に大きな変化は認められなかった。また血液生化学的検査においても何れも顕著な差は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
果物は生果で食する場合においては、他の食品に比べて食後血糖値の上昇が穏やかである「低GI(Glycemic Index)食品」と位置付けられており、低GI食品の摂取は体重増加や肥満、また糖尿病の予防に有効である可能性が指摘されている。しかしながら、果汁に関しては近年、糖尿病との危険性が指摘される論文が多く報告されており、WHOも果汁飲料の摂取はおそらく体重増加や肥満のリスク要因になると指摘している。これらは果汁の製造過程で生活習慣病の予防に重要な機能性成分の喪失が起きること、また短時間で多量の糖質を液体で摂取することが糖尿病の最大の危険因子であるインスリン抵抗性を引き起こすためではないかと考えられている。本研究課題では、生果と果汁飲料という食品形態の違いによる相反する健康影響が、糖含有飲料の摂取による悪影響と食物繊維やカロテノイド・フラボノイド類などの機能性成分の損失によるものとする仮説を実験的に検証しようとするものである。今年度は、同じ糖質を等量含有する果汁であっても、急性投与後の血糖値上昇は対照糖質液と比べて、対照糖質液>清澄果汁>100%果汁の順に低く抑えられる傾向が認められ、糖質以外の成分が残存しているほど血糖値上昇はやや抑えられる傾向にあること、また不溶性画分の再添加量が多いほど血糖上昇は有意に抑えられることが解った。一方、正常マウスに果汁を16週間慢性投与しても2gグルコース負荷によるインスリン抵抗性試験では飲料水のみを投与した対照群と顕著な差はほとんど認められなかった。これらの結果から、今回実験に用いたWild typeのマウスでは30%果汁に相当する糖質を液体で慢性投与してもインスリン抵抗性に悪影響は及ぼさないことが判明した。次年度では自然発症糖尿病モデルマウスを用いて同様の検証を行う。以上のように本研究は概ね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、糖質液の慢性摂取がインスリン抵抗性に及ぼす影響を検証する。平成25年度の実験では正常モデルマウスでは顕著な変化が認められなかったが、平成26年度ではインスリン抵抗性ハイリスクなモデルである自然発症糖尿病モデルマウスを用いて検討を行う。平成25年度の研究で調製した清澄果汁、清澄果汁と同量の糖質を含有する糖液、及び果汁を各濃度に飲料水に添加することで自然発症糖尿病モデルマウスに連続投与を行う。投与4~8週目に各群のマウスをブドウ糖負荷試験(インスリン抵抗性試験)に供する。ブドウ糖強制投与後の血糖値の上昇変化を計測することでインスリン抵抗性を評価する。果汁の投与期間はインスリン抵抗性試験の結果をみて、更に延長させるかどうか判断する。インスリン抵抗性試験の後、更に1~2週間の投与を継続した後、全採血して血中のグルコース値や血清脂質を測定するとともにインスリン等のサイトカイン類についても分析を行う。これらの実験により、飲料水から糖質を長期間連続的に摂取することによる自然発症糖尿病モデルマウスでの糖・脂質代謝や体重変化、インスリン抵抗性への影響を調べるとともに、自然発症糖尿病モデルマウスと正常マウスとで比較検討する。また人工果摂取群、清澄果汁摂取群、果汁摂取群の3群間でこれらの検査項目の比較を行うことで、果汁成分の影響を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験に使用したマウス及び研究試薬類の納品価格が予想より安価での納品になったために次年度使用額が生じたと考えられる。 H26年度の実験では正常マウスよりも高価な自然発症糖尿病モデルマウスを数多く購入する必要があるため、これらの購入経費に充当する予定である。
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